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第15話:〔過去と未来の分岐点〕

あらすじ

 惑星メルタに迫るクラスターシープとの会戦。シェオルはその対策案としてシュヴァリエを送り込むことを提案した。

 レイナとメルタにいるはずのカズキはヴァンドラにいた。幽閉された彼は孤独を極め、逃げ出した先でシュヴァリエの亡骸を使った人体実験を目撃した。

 そこで出会った老人。ウノは元凶となるヒツジ人間が艦内にいると語った。

「人類の歴史は戦いの歴史だと博士に聞きました。多少の諍いは起こるでしょう。ですが……。今回のことは人類史にみても非道な行いです」


 ヴァンドラに戻ったシェオルは怒り心頭だった。周回軌道へ戻るすれ違いざまにシェオルはメルタに落下するパーンタイプをシャトルの機内から目撃していた。全長数キロもある大型種が艦隊のレーダーを掻い潜る可能性はほとんどない。獣人と上層部の関係をみても、これは人為的なことだとすぐに察していた。


「我々は手を尽くしたが相手は生物である。何をするか分からない。不測の事態も起こり得るのだ」


 坂本艦長はシェオルに背を向けて深宇宙に顔を向けたままそう言った。黒い制服に目深にかぶった制帽。以前はたのもしくみえた背中は冷徹さに満ちたように言い知れない禍々しさを放っている。


「パーンタイプ1体程度、ヴァンドラでなくても落とせないはずがないでしょう? その力を身を守るためではなく支配のために使うならいきすぎたことです。この船の力は宇宙を破壊するほどのもの。それを使うあなたには相応の責任を負う必要があります」

「この船は実にすばらしい。設計はウエノ・ハルテイル博士。きみの義父だったはずじゃなかったかね?」


 返ってきたのはねっとりとした口調に悪人のような微笑み。言葉はまるで届かないかのように艦長は真っ黒な点のような目で見つめかえしてきた。


「それがどうかしましたか?」


 この異様な雰囲気にシェオルは狼狽えながら問い返した。


「なんのためにヴァンドラを武装したのか。その真意を聞いていないだろう? この船を預けられたのは誰だ? そう、この私だ。意図はどうあれ、備わっている性能は最大限使わねば」


 艦長は、まるでボケ老人のようにうわごとを呟いている。いますぐにでもこの場を離れたくなるような恐怖を覚えながらなお立ち塞がった。


「その結果宇宙を崩壊させたとしてもですか?」

「死なば諸共。地球を失った人間に出来ること。シープを絶滅させることこそが我々の生きる目的なのだ!」


 坂本艦長は両手を広げて大げさに笑った。


「それに今回の戦い。君にも利がないわけではなかろう?」

「いまのあなたは艦長として不適格です。私が知っている未来の情報を話すことは、今後差し控えさせていただきます」


 普段のほんわかした雰囲気ではなく若干ピリついた空気のなかでシェオルははっきりと言いきった。


「となればシュヴァリエ特務長官の立場を放棄することになるが。いいのかな?」

「……この件はGAIAにも報告させてもらいます。どうぞご勝手に」

「よかろう。我々にはこのガイアベラムがある。いままでの案内ご足労だった」


 坂本艦長は羊皮紙の古ぼけた手帳を取り出してページを流れるようにパラパラと開いた。その手帳は薄いのにページが途切れることがない。その異様な光景を見たのはシェオルにとっても初めてのことだった。



 〔再出発〕


 ヴァンドラの格納庫にはシュヴァリエが招集され、ブリーフィングが行われていた。パーンタイプのメルタ直撃。続く敵集団の接近によってヴァンドラは退路を絶たれつつあった。壁のように近づく敵を前に、大規模な作戦が始まろうとしていた――。


「パーンタイプにより獣人は大都市を失った。こいつはただの先鋭だ。さらに本隊としてクラスターシープという惑星規模の超大型種が我々の生活圏を狙っている。そこでだ。少数精鋭を敵の内部に送り込み――」


 ファル大尉はホログラムで生み出したビーチボールのような物体と渦巻くモヤを指揮棒で指していた。すると勢いよく開け放つ鉄扉の音が格納庫全体に反響した。その場に集まったシュヴァリエたちは揃って音の発生源に意識がむいた。


「ファル大尉!」


 駆け込んできたのは紺色のジャケットに白いシャツ姿のハヤトだった。ジャケットの背中には白い狼が吠えるロゴマークが入っている。


 黒髪の少年は前屈みに肩を上下させながら呼んだ。部隊を離れて数日。以前の澱んだ目つきとは異なり、わずかに光が宿っている。心なしか大人びた雰囲気に大尉は若干の動揺をみせた。


「ハヤト。お前……。帰ってきたか……!」

「俺も戦います! たとえ無謀でも。止められるのは今しかない!」


 大尉はハヤトに歩み寄って銀色のアビリティ端末を返した。


「気兼ねだけは一流だな。機甲服は格納庫に残ってる。動くか分からないが……。それを着てこい」


 ファル大尉はメガネに片手をかけてそう言った。ハヤトが振り向きかけると大尉はとめた。


「待て、まだ渡すものがある」

「なんですか?」


 大尉は手に赤と白のリボンがついた金色の勲章を掴ませた。突然のことに戸惑うハヤト。


「シュヴァリエ功労勲章だ」

「これを俺に?」

「多くの住民を助けた者に贈られる。シェオル特務長官からの贈り物だ。それなりの恩赦がある。よかったな」

「そうですか……」


 ハヤトはあまり嬉しくなさげにそれを見つめた。群衆から拍手をもらって更衣室に歩いていく。体よく士気を高めるためのダシにされたような気分でいい気分がしなかった。


 それに一度シュヴァリエをやめて帰ってきた。もう合わせる顔なんかない。そう思ってこれからは裏方に徹しようと思った矢先のことだったからだ。


「お前の階級は少尉だ。チラ、ミシロが倒れたらお前が部隊を引き継げ」

「そうならないことを祈りますよ」


 ハヤトはその場にいる2人にも配慮してそう言った。


「彼女はそれを渡せなかったこと。とても悔やんでいたぞ」


 肩を落とした背中に大尉の声が響いた。一度足を止め、何事もなかったように歩き出すハヤト。その表情はかすかに安らいでいた。


「そんなに気にかけてくれていたのか……」


 人気のない廊下でハヤトは立ち止まり、ポケットにしまいかけたそれをジャケットの左胸に付けた――。



 〔反転攻勢!〕


『シュヴァリエ隊発艦準備。シュヴァリエ隊発艦準備。艦隊前方のシープ群を撃滅せよ』


 灰色の壁に警報色が点灯する。格納庫は熱気と闘気に満ちていた。


「オーブ、オメガ各飛行中隊は攻撃ののち速やかに戦線離脱。補給を繰り返し、波状攻撃を仕掛ける!わかったか!」


「「はい!!」」


 戦闘機と小脇にヘルメットを抱えた隊員が整列して準備を進めている。


 ヴァンドラの船尾に位置する何層にもプラットフォームが重なった天井の高い格納庫は赤色警報と作業員でごった返していた。あらゆる機体が離陸する推進音が絶えることがない。ハヤトは作業車の合間を走り抜けて発進口が並ぶ壁沿いのハンガーを探していた。


「あった……! この機体か……!」


 ハヤトはアビリティ端末に表示された機体番号を頼りに駐機場を歩いていく。そこで頭部に剣先のようなイッカクのアンテナ、手足に山のように連装ミサイルランチャーを装備した白と朱色の機甲服をみつけた。


 高さ1.8メートルという少し体格のいい大男なみの機甲服を取り囲み、数人の作業員がジャッキ付きの台車を使って対シープライフルをダミアンに保持させているところだった。


「パイロットか?」

「天崎ハヤト少尉です。このライフルは?」

「この銃を使えと大尉から申し入れがありまして……」


 銃床のかすれた白い銃番号を確認すると、見慣れた数字があった。


「Sv-1106……。俺の銃だ。仕上げてくれてありがとう」

「それとこれもありました」


 灰色の服を着た作業員がオリーブ色の複合銃をハヤトにさしだした。5.56ミリの対人小銃と下部にはショットガンが取り付けられている。


「これは置いて行きますか? シープ相手ならただのデッドウエイトだし使えないでしょう」

「それも持っていく。バックパックにマウントしてほしい」


 ハヤトは整備をまかせて機甲服の外観を一周見て回った。右手にシンプルな白い長銃身ライフル。ライフルの先端には宇宙仕様のため、姿勢制御用の小さなスラスターの噴射口が四面についている。左手には溶接痕だらけの廃材で間に合わせたような上半身を隠せる程度の小型の盾。脚部横には推進剤を蓄えた3本のボンベとブースターを配し、頭部の顔にあたる部分には薄緑のバイザーレンズが視界を広く確保している。機体の横には着込んだあとに背中に背負うためのバックパックまで用意されている。ブースターが付いていて装備を多く積めるが、脱出が出来なくなる欠陥品だ。


 斜めに切り欠きがついた台形型で、左右に予備の武装としてチェーンソーのような回転刃付きの自動式斬刀と予備の40ミリ対シープライフルまで取り付けてある。そこでは先ほどの作業員が側面の小物入れを開いて銃をしまっている様子があった。


「まるで新兵の最強セットじゃないか。大尉はこれで喜ぶと思ったのか……。こんな重武装の機体。カズキしか喜ばないだろう」


 ハヤトはふと過去の出来事が頭をよぎった。機甲服の右手に握らせてあるライフルの弾倉を引き抜いた。ティッシュ箱程度のコンパクトな弾倉に未来の技術で2400発ほどの弾薬が収まっている。その場に胡座をかいて弾薬を数発取り出す。ずっしりと重い真鍮薬莢の徹甲弾が間違いなく入っている。さらにレバーを下げて給弾ラインを切り替えると信管付きの対空弾が間違いなく入っていることをその目で確認した。


「ん?」


 ハヤトはまだ弾倉のレバーが下がることに気づいて押し下げた。見慣れた真鍮の初弾を抜き取るとあがってきたのはポリマー製の白い薬莢に半透明の弾頭がついたおもちゃのような弾だった。


「なにか不備でもありましたか?」


 ハヤトのあまりに念入りなチェックに戻ってきた作業員が怪訝な表情で腰を低くして聞いた。


「弾倉に第3ライン? この弾は? 見慣れない弾種だ……」

「それは超光速弾です。試験用に技術部に回ってたのを用意したので脱包を忘れてました」


 作業員は頭を掻いて言った。


「他言はしない。これはどういうものなんだ?」


 興味をもったハヤトは弾丸を手にして透き通ったガラスのような弾頭から背景に見える景色を透かしてみた。


「それはシールドを利用するものでシュヴァリエにしか扱えませんが小惑星を破壊できる威力があります。1発で大型種も沈むでしょう」


 作業員は安堵したように笑った。


「この小さな弾丸で……。核を連射するようなものか。ほかに慣れないものを追加しているならぜひ教えてほしい。じゃないと不便だ」


 ハヤトは弾倉の残弾カウンターに表示された3という数字をみてつぶやいた。


『エルピス小隊発進準備。パイロットは搭乗を開始してください』


 格納庫の脇で感応性を高めるために紫色の薄いスーツに着替え、その上に勲章をつけたジャケットをさらに着込んだ。左腕に取り付けたアビリティ端末にはスーツの残り稼働時間が表示されている。


 前傾姿勢になった機甲服の背の取っ手をつかんで両足を機甲服の中に通し、武器を持った白い両腕部に左右の手を入れて着用した。手元のグリップを握ると機甲服は立ち上がり、背の開口部を閉じてバイザーの下に隠れた双眼を強く発光させた。


 作業員が退避して後方の解放隔壁が閉じる。ヘルメットのバイザーに戦闘UIが展開する。視線に同調して動く肩部迫撃銃に腕部下部から高速で伸縮するポイントアンカー。装備した武器システムと機体の同期状態が目の前を目まぐるしくながれていった。


 視界を遮るアイコンがなくなり、正面の隔壁が左右に開く。射出レールの先には星が瞬く宇宙があった。


『エルピス小隊、全機オンライン。発進シークエンスに入る』


「よぉ! 新入り。システムOSのアップデートは済んでるかぁ?」


 機体の通信機がオンになるとヘルメットには騒音のような話し声が左右から聞こえてくる。気さくに話しかけてくる者、新入りだからとよそをむいて相手にしない者。ハヤトはそのどれもに懐かしさを感じて気分がよかった。


「天崎ハヤトだ。よろしく。アップデートは進んでる。あと半分くらいだ」


 ハヤトはジョークと本音を交えつつインターフェースにうかんでくる仲間たちの顔と名前を覚えながら挨拶した。


「不本意だがよろしく頼む」


 女性のチラ隊長は相変わらず無愛想でその挨拶以降は証明写真のように前を向いたまま。表情を変えず喋ることはなかった。


『最終確認。目標30光年先。1分後に着弾予定。慣性制御装置、減速装置、すべて正常であることを確認してください』


 自動音声アナウンスのあと、格納庫に直結した発進口に信号が青く灯った。発進口に並んだ電磁加速機のレールが機体を浮遊させ中央に引き寄せた。となりのレーンをミサイルのような速さで機体が駆け抜けていく。あとはスロットルレバーを引き上げるだけでワープ速度まで加速する。


『1番。発艦する! ついてこい!』


 チラ隊長の勇ましい声に続いて各機弾丸のような速さで発進口をとびぬけていく。チラ隊はあまり規律厳しくないらしく、それぞれふざけた合図で発艦していった。


『2番機 いくよ〜?』


 聞き慣れたミシロの腑抜けた声もする。彼女もほかにメンバーがいなくて同じように編入したらしい。


「3番機ハヤト。やつらをジンギスカンにしてやる!」


 ハヤトはスロットルを最大に引き上げた。強い衝撃をうけて機体は鉄骨張りの格納庫を飛びだした。


 星が伸びるように過ぎ去る。遠くに見えていた光を点滅させる白い大星雲が近づいてくる。それはすべて敵。星が瞬くように光を増してくる。


 さらに数十秒の静寂が続く。そして――。


『減速! 正面を攻撃しつつ散会しろ!』


 隊長の指示で敵の群れ直前にワープアウトしたシュヴァリエ隊は各々距離をとって体長数千メートル級の動きの重い大型種にとりついて、それを盾にしながら攻撃をはじめた。それに合わせて前もって発射された戦闘機隊のミサイルがシュヴァリエの戦闘区域を追い越して敵の後続を遅らせた。


「俺は……帰ってきた!」


 ハヤトの口元に笑みがこぼれる。ハヤトが着込んだ白と朱色の機甲服はミサイルを敵に流しながら鈍重な動きで破壊光線の弾幕をよけた。背面ブースターは身長よりも長く推進エネルギーを放出している。にも関わらず速度が上がらない。味方から引き離されて最後尾についた。


「この機体。武装が多すぎる! たいして当たりもしないのに!」


 両手両足を広げ、全身に装備したミサイルランチャーを一斉発射した。ミサイルが回遊する群れをかき乱す。散った宇宙を蠢く小さな点からオレンジ色の線がハヤトを狙って剣のように振り回される。撃ちきった発射機をその場に捨てて身軽になり、真上に飛んだ。


「そこか!」


 ハヤトはライフルの十時ボタンを使い、銃口のスラスターを噴かして微調整した。線の終端にライフルを合わせて連射した。銃身を加速した水色の光弾が亜光速で暗闇に消える。何秒か遅れて小さな爆球がいくつかあがった。


「そこにも! うしろにも!」


 ハヤトは背中のブースターと両足のバーニアを使ってさらに追ってくる小型種を引き離しながらロックオンを続けた。ヘルメットの視界は敵を検知して真っ赤なカーソルで埋めつくされている。


「これはみえない!」


 ハヤトは使いやすいように片手でロックオンカーソルの透明度を下げた。それが終わると振り返り、逆進をかけながら撃ち返した。


 追ってきたシープたちが白い綿毛を散らして粉々になる。毛がぬいぐるみの綿のように舞った。1200発あった通常弾は数十匹の群れを一掃するころには高い発射レートと敵の数に押されて戦闘開始からたった5分で底をつきかけていた。


『弾がもうない! ソードを使う!』


 それまで気にする暇もなかった通信機から仲間の声が聞こえて存在を思い出した。


「こちらハヤト。武器は残り半分」

『節約しろ! 目的はシープの拿捕だ! 大きいやつを群れから引き離せ!』

「りょーかい」


 とくに作戦を知らなかったハヤトはチラ隊長の叱責をうけてライフルを温存するためにバックパックに背負わせていたノコギリ刃の大剣を手にした。それまでライフルの残弾を表示していたアイコンが切り替わり、エネルギー残量、構造強度が表示された。回転する無数の刃でシープの頭を切断し、輪切りにした。


『そっちの状況は!』

『敵に囲まれた! うわぁぁぁ!!』

『もう弾がない!』


 大型のシープに囲まれてエルピス小隊は苦戦しているようだった。ほかの小隊機も無限に湧いてくる敵に敗色濃厚な雰囲気が漂っている。


 カチッ カチッ。


 ハヤトはライフル弾倉のレバーを下げて弾種を変更した。3発しかない超光速弾だ。


「上方下方一直線! いける!」


 全身を装甲に覆った白い騎士は大型シープが並んだところを狙って真上から全弾撃ち下ろした。無反動ながら耳に響く音をたてて、白い長銃身の先から赤く光る光弾を見たこともない速さで発射した。紫がかったプラズマが尾を引いていく。3つの赤い光が縦1列に並んだ大型シープに上からの直撃を浴びせた。まるで太陽のような閃光を発してシープを爆散させた。


「すごい! この弾が山ほどあれば、シープを絶滅できるかもしれない!」


 ハヤトはこの威力に惹かれてまだ電流が残る銃身を眺めた。


『真上にバトルシープ! 集結してくる!』


 天井のように影を落とすそれは、ただのシープだった。見渡す限りどこにでもいるうちの1体にすぎない。宇宙空間に適応した体長8000メートル級の巨大種には手足が生えておらず正面についたガイコツのような白い顔面がある。彼らは小型種を吐き出し、イモムシのような太く長い体には一撃で星を貫くほどの放射器官を針のようにもっていた。


『運がいい。群れから離れたな。中に入ってコアを掌握する!』


 チラ隊長が先陣をきって攻撃を仕掛けるが、巨大な体に豆粒のような武器は効いていない。


「なんとかする!」


 ハヤトは腕のアンカーを射出してそこらじゅうをハエのように飛び回っている戦闘型シープに突き刺した。ワイヤーを巻き取り手元に引き寄せる。手足のない毛玉に顔がついたようなシープを手に掴み、それを戦艦のような大型種に投げつけた。さらに手を振り下げてハンマーのように扱った。


「ヴァァァーー!!」


 悲鳴をあげて飛んでいったヒツジは壁に叩きつけたように潰れた。体内のクォーツが砕けて爆発する。煙が晴れるとバトルシープの腹部には穴が空いていた。


『よくやった! 突入する。全員こい!』

『『了解!!』』


 エルピス小隊はバトルシープの体にあいた小さな穴から内部に侵入していった。



 〔艦隊戦〕


 正面戦闘を担うシュヴァリエ、戦闘機隊で敵の侵攻を遅らせたヴァンドラ艦隊は遠くの爆炎に側面を晒して砲塔を構えていた。艦隊は実体弾、光線兵器あらゆるものをまじえて一斉射を加え、すぐさま距離をとるように引く。かと思えば敵の側面に回り込むように距離を保ちつつさらに攻撃を加える。これを繰り返して敵の数を減らしていた。


「艦隊を右に。砲戦用意!」


 艦隊は回頭をはじめる。さらにヴァンドラの白い船体のあちこちに黒い砲塔が展開し、それまで構造物に偽装していた主砲塔が甲板に姿を現した。


 それまで非武装船のように何ひとつ武装が見当たらなかったヴァンドラはそれまでの優雅な白と紺色の配色に加えて砲塔群の無骨な黒が新たに加わった。甲板の2基の大型主砲、舷側にも重砲がそびえている。いまでは全長7キロの移動要塞のような威容を放っていた。


「敵集団補足。主砲発射!」


 艦首甲板の主砲が旋回する。この人類史上最大の大砲は大量のシープから取り出したコアクォーツを精製し濃縮した動力からエネルギーを受け取り、その有り余ったエネルギーを放出した。純白の巨艦とシープの群れに瞬間的に光が繋がる。


 ヴァンドラの砲撃はそれだけで終わらない。シープの集団を正面から貫通。さらに砲塔をまわして切り裂いた。


「群れに穴をあけた。開口部に戦闘機隊を突入せよ!」


 坂本艦長は敵の中央にあいた大穴を指した。


「えっ? それでは自ら包囲されにいくようなものでは?」

「同士討ちで釣りがくる。いまだ。やれ!」


 副長が異論を呈すも聞く耳をもたない。最終的に副長は従わざるを得なかった。


「戦闘機隊を開口部に突入! シュヴァリエは帰投を急げ!」


 しばらくして洞窟のようにくり抜かれた群れの内側に入り込んだ戦闘機の編隊にヒツジたちは顔をむけて光線を吐いた。上下左右から光がぶつかり合い、超新星爆発のように作用した。その威力は凄まじく、流れ弾でコアクォーツを失った大型種がまわりの仲間を引きずり込んで消滅する。それが連鎖的に拡大した。


「強力な重力異常発生! 艦が吸い寄せられている。シープの爆縮によるものと思われます!」

「全艦離脱! 最大船速!」


 ニヤニヤと笑う艦長をよそに黒巻副長が咄嗟に全艦に指示を出して艦隊の被害を免れた。


「敵が……! 消滅していきます!」


 オペレーターの歓喜の声に指揮所の後方で様子をみていたシェオルは安堵のため息をついた。


 徐々に落ち着きを取り戻す艦内では黒髪の陰気なファル大尉が艦橋を訪れ、事務作業に追われている少女に敬礼した。


「シェオル特務長官。作戦は成功です。あとは制御機構を設置するだけでクラスターシープへの道が開けます」

「それは嬉しい知らせですね。命と引き換えになるかもしれませんが」


 シェオルは白い制帽を机において、寝癖のように跳ねた明るいブラウンの髪をなでた。


「犠牲の出ない戦いで決着はつかない。敵と同じように出来うる最大のことをすべきだ。それが特務長官に課せられた使命です」


 ファル大尉は黒縁メガネに焦点を合わせて勇気づけるように言った。シェオルは安らかな目つきで微笑んだ。


「出過ぎたことを……すみません」


 それに対して大尉はメガネを外して頭を下げた。


「いいんです。どうせお世辞ですから。そのメガネに頼りきり。だから誰からも信頼されない。本心を大事にしない限り、また過ちを繰り返すでしょう」


 シェオルは艦橋の真ん中で身振りを交えて艦隊指揮をとる坂本艦長の後ろ姿に目をむけた。


「敵の中央戦力7割消滅! 両翼の集団が左右から中央へ移動! 再集結を図っています!」


「ハハハ! やつらは頭が悪くて助かる。主砲砲撃用意! 集結したところを殲滅する!」


 坂本艦長は左右に広げた両手を正面にもどして手を鳴らした。


 それに合わせるように窓の外で2基の大型砲塔が正面に向きを変えて仰角を修正した。


「うてぇい!」


 動力に直結した莫大なSクォーツのエネルギーを直に主砲が放射する。瞬時に宇宙が裂ける。どこまでも消えず何もかもを消滅させる無敵の光。それは恐怖に取り憑かれた者にとってアリを踏み潰すような優越感と安心感を与えているかのようだった。


「うて!」

「もっとうて!」


 坂本艦長は取り憑かれたように連呼する。そのたびにヴァンドラは光を連発した。それはレーダーからシープが一掃されるまで続いた。


 それが空間を歪ませ、時空にさえ影響を及ぼすことも知らずに……。

次回、第16話:〔クラスターシープ討伐戦〕

 わずか120名のシュヴァリエと陸戦隊を乗せた改造シープはクラスターシープのコアクォーツを破壊するため深宇宙へのりだした。世界を埋め尽くす敵集団。惑星規模の巨大生物を止めるべく奮闘するが――。

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