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8.トレント討伐

 翌日の昼。シズネと神人はレーモーネ村の近くにある入会地の森に来てトレントを探していた。


「あの、気を付けてくださいね?先日も説明した通り、トレントは休眠状態ですと殆ど普通の木と変わりありませんから……」

「あぁ……」


 シズネの心配げな言葉に神人は取り敢えず頷きつつも【観測せし者(シュレディンガー)】を使うタイミングを窺うだけで特に気を張ってはいない。


 そんな神人をシズネは心配そうに見ていた。


(ご主人様は能力が高過ぎるあまりに少し油断をされているのでは……)


 もしもの際には身を挺して庇うが、そんな事態にはならないでほしい。シズネがそう思っている間に先日、レーモーネ村の村長から聞いた目撃地点に着いた。


「じゃあ、昨日の内に考えておいた通り、シズネが周囲の敵を、俺がトレントを相手にするけど……危なくなったら言ってくれよ?」

「はい……」


 どう考えても危ないのはトレントの相手だということをもう少し強く意識して欲しいとシズネは思った。心配されている神人はシズネの心境もつゆ知らず【観測せし者(シュレディンガー)】を行使し、脳内での念話を行う。


(えーと……トレントは、どこですかね?)

(範囲を設定してくれませんか?群体の中に放り込まれたいのなら別ですけど。次からは聞かれたこと以外は親切に教えませんから五臓六腑に私の言葉を刻みつけるように。……さて、直近のトレントでしたら、回れ左して30度右に向いて真っ直ぐ行きなさい。そうすれば2分後に遭遇可能。)


 ツンデレかな?と思いつつ若干混乱しつつも言われた通りに神人がシズネを連れて歩くと不自然に魔物の数が増えて来始めた。


「【疾風の嘴(ガストビーク)】」

「大丈夫か?」


 シズネが魔力切れなどを起こさないか気にしつつ神人は近くにいる地球では見たことのない小動物型の魔物、強いて言うのであれば足が6本になってしまった巨大なネズミの耳を異様なまでに伸ばした化物を【神武撲殺杖】で横薙ぎにして殺す。

 手に嫌な感触が残る……ということもなく、物体を切断した感触とともに魔物を斬り殺した。


(……棒、だよなこれ……?)

(逆に何に見えるんですかね?杖だと良く言うでしょう?聞いたことないんですかね?……この【神武撲殺杖】のキャッチフレーズにもなってるんですが……突かば銃、払わば斬鉄、持てば神。と。)


 神人の記憶が正しければ突かば槍、払えば薙刀、持てば太刀。だったと思うがこれに関してはそうではないらしい。試しに突くと魔力が微量に消費される感覚があり、先端から風の弾が飛んで木を撃ち抜いた。


(……トレントを倒そう。どうしたらいいですか?)


 深くは考えないことにして神人はさっさと依頼を済ませることにした。幸いと言っていいのか分からないが、シズネは戦闘に忙しくて神人の人外染みた行動を目撃するには至らない。


(……照合結果、【神武撲殺杖】で斬り殺す。もしくは【神武撲殺杖】を補助魔具扱いにし、術で殺すが最も楽。ただし、多数のルートが存在している。)

(……そう言えば、サマエル薬って……)

(サマエル薬の材料である【樹人の呪怨】について、入手方法は以下に従って行動してください。)


 急に黙った神人のことを気に掛けつつ眼前の敵と戦うのに忙しいシズネ。そんな彼女の負担にならないように神人は急いでトレント抹殺に乗り出した。


 目標の、木に擬態しているトレントとの間合いを一瞬で詰める神人。それを見て勝ちを確信したシズネだが、神人の初手は彼女の思っていた物と違った。


「どうも、ド腐れ屑材さん。今日も根腐れ起こして腐葉土に馬鹿にされてるんですか?」


 何だかよく分からない神人の一言によりトレントは激昂した。因みに神人はこの台詞を【観測せし者(シュレディンガー)】によって言わされたので、意味が分からない。


(人間に直すのであれば、『よう、ド腐れニート。今日も童貞拗らせて仕方なくマザファッカーに興じてあまりの短小ぶりに鼻で笑われてんのか?』と言った感じです。それは兎も角続けてください。口の部分に当たるうろに手近な木の腐りかけの実を入れてください。)


 ちょっと色々思うところはあったが、言われた通りに高速で実行する。ついでに、神人の行動に少しぽかんとしていて隙が出来ていたシズネを助けながら神人はトレントの口の中にあまり触れたくない感じのぐちゃぐちゃな木の実を放り込んだ。


(……因みに、今の行為ってトレントにとって……)

(一々五月蠅いですねぇ……そろそろお迎えが来そうなお婆さんに全裸で顔面騎乗されて《自主規制》させられたぐらいに思ってればいいですよ。)


 何となく怒り狂っているように見えるトレントを見ながら神人は何だか申し訳なくなって来た。だが、こちらも命がかかっているのだ。


 達人が繰り出す鞭の乱舞のように枝をしならせて攻撃をし、果実の一部を割って魔物を呼び寄せ、何が何でも神人を殺そうとし始め、シズネが若干無視されるようになって来た。


(お次は割っている種を指さして半笑いになりながら自家消費ばっかりしてるんだね。あっ察し……と。)


「じ、自家消費ばっかりしてるんだね。あっ……察し……」


 木の枝だけではなく木の根も参加するようになった。先程より激しい乱打と乱舞となったそれらを躱しつつ神人は次の指示を待つ。


(木の根、もしくは木の枝の中で比較的太目の物を【神武撲殺杖】で斬り落としてうろの中に捻じ込んでください。)


「しっ!」


 回避に専念していた神人がいきなり高速で動くのでトレントは虚を突かれて一瞬神人を見失い、根っこが切り取られた後に自分の口に当たる部分に何かが捻じ込まれる感触を覚える。


(っ……何もないはずなのに……)

(トレントの口部分には通常の木のうろとは異なり、咀嚼するための歯のような物があります。現在はそれを力づくで破っている状態ですね。)


 トレントは現状を確認した瞬間、一度大きく震える。それを見たシズネが声を上げた。


「た、倒したんですか……?」

「シズネ!それはフラグ!」


 案の定、トレントはこれ以上ない程に暴れ始めた。そんなトレントの攻撃に巻き込まれないように一次距離をとった神人に【観測せし者(シュレディンガー)】から最後の指令が出る。


(「飽きた。」と言って眉間目掛けて突きを放ってください。その後、目に当たる二つのうろに、まだ枝についている実を魔力を一定量込めながら入れれば【樹人の呪怨】が二つ入手できます。)


「飽きた。」


 トレントの眉間を穿つ疾風の弾丸。何が起きたのか分からないと言った顔になり、それが憤怒の顔に染まるも、何かが切れたらしい大樹は倒れた。


「よし。」


 不意の静寂に包まれるこの場で神人だけが動き、どろりとした黒い魔力を放ちながら実を収穫し、洞に入れると表情らしきものをかたどっていた光が消えて代わりに実が光沢と透明感を帯びた。


(【樹人の呪怨】の入手完了です。)


「おぉ……さて、残党は……あれ?」

「皆、ご主人様の魔力に怯えて逃げましたよ……」

「じゃあ依頼達成かな。」


 満足気な顔をした神人。僅かに引き攣った顔をするシズネだったが、神人が歩き出すのを見て急いでその後を追った。




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