魔法ランキング戦三日目10
「い、今のは……」
巨獣が塵となって消えていく様を見届けたラザフォード学院長は、掠れた声でそう呟いた。
「〈畢竟無〉。私が生まれた時から密かに開発していた魔法です」
ラザフォード学院長の呟きに答えるように言った私に、ラザフォード学院長はこちらを向いた。こちらを向いたラザフォード学院長は愕然とした顔をしていた。
無理もない。たかだか6歳の子供が、あの巨獣をたった一つの魔法で消し去ったのだから。きっとラザフォード学院長の心の中には様々な感情が渦巻いていることだろう。
だけど、私はそれに敢えて触れるようなことはしない。
「……そう。わかったわ。このことは他言無用にする」
「ありがとうございます」
混乱は一瞬。ラザフォード学院長は無理矢理冷静さを取り戻すと、そう私に言った。流石、伊達に長生きしているわけじゃないみたいね。
「それでは、私はこれで。あの魔法を使うと私の魔力を三分の一使ってしまうので、疲れるんですよ」
そういって踵を返す。もっとも、この場を後にする理由はそれだけじゃないけどね。
肩越しに私の手を掴んで少し後ろを歩くハティを見つめる。ハティは酷く落ち込んでいるように見えた。
「あれで三分の一か……」
寮へと消えていく私の耳に、ミオンロート先生の呟きが微かに聞こえた。
「どうして?」
部屋へ入ったハティは、開口一番私にそう問い掛けた。
「どうして、ね」
正直、答えたくはない。
だけど、あの魔法を見せてしまった以上、答えないということはできないだろう。
私の煮え切らない態度を拒絶と取ったようで、ハティは目に涙を溜めてもう一度問い掛けてきた。
「どうして、どうして私に言ってくれなかったの?どうして隠していたの?」
ーーそんなに、私が信頼できないの?
そうハティの目が訴えかけていた。
ハティのそんな様子に私は気圧されたように一歩後ずさる。
「信頼していない、ということじゃないの。ハティのことは好きだし、母様と同じくらい信頼できる」
「じゃあどうしてっ!」
酷く焦っているのか、私の声に被せるようにハティは悲鳴のような声を上げる。
「信頼しているからこそ、よ。〈畢竟無〉は、術者の魔力量が対象の魔力量を上回っていた場合、対象を問答無用で塵と化す魔法なの。これには例外はないわ。たとえ視認できないほど距離が離れていようと、術者が対象を認識していれば消し去ることができる。しかも、対象に人数制限はない。そんな出鱈目な魔法」
そんなハティを宥めるように優しい声色で〈畢竟無〉について説明する。ハティは私の魔法の出鱈目さに言葉を失っていた。自分でもえげつない魔法を開発したと思ってる。それと同時に、危険な魔法を開発してしまったとも。
考えてみてほしい。この魔法の対象には人数制限がなく、たとえ何千人であろうと私の魔力量が上回っていれば、その全てを一瞬にして消し去ることができる。そんな危険な魔法が、もし悪用されてしまったとしたら。
勿論、この魔法には多大な魔力を使うし、私が認めた相手しか使えないようになっている。悪用は出来ずとも、私に『使わせる』ことはできる。
母様や父様は心配ないけど、まだ幼いハティを人質に取られたら、私はきっと人質を取った人の意のままに従ってしまうだろう。
私はそれを恐れて、誰にもこの魔法のことを話していなかった。
「それじゃあ、私に話さなかったのも」
私の危惧していたことを察したハティは、呆然とそう呟いた。私はそれを肯定するように頷いた。
「じゃあ、私の、早とちり?」
「あ、えっと、うん。そうなる……かな?」
私とハティとの間に気まずい空気が流れた。




