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第4話 残念だったな?ここは死後の世界だ!

「……ここは何処だ?」


斉藤から接収したデジカメのデータを思う存分堪能した後、時差ボケ防止の為に眠りに付いた真央が目覚めると、そこは先ほどまで座っていた筈の飛行機の座席でもなければ、ましてや空港の税関でもなかった。


この空間を端的に表現するならば、恐らく裁判所の法廷というのが一番近いだろう。


(俺の記憶が確かなら、ハワイ行きの飛行機に乗っていた筈なんだが……つーか、そもそも何で俺は裸なんだ?)


混乱した様子で辺りを見回している拍子にふと視線を下ろすと、そこには見慣れた相棒(モノ)が堂々とぶら下がっているのが目に映った。


何故か真央は風呂でもないのに、下着すら履いていない完全無欠の全裸だったのだ。


(色々と訳が分からんが、とりあえず『裸に靴下だけ』ってゆーマニアックな格好じゃなかっただけ良しと思うことにしよう)


あれは美少女がやっているからマニアックなエロティシズムを感じる物なのであって、断じて男がして良い格好ではないのだから……


(成田空港からハワイに向けて出発した以上、ここが太平洋上に存在する異国の地であることはまず間違いない。ってことは、問題は現地の人間と言葉が通じるかどうかなんだが、俺って英語の成績あんまり良くないんだよなぁ……)


真央の言語力は、地球上で最も多くの人間が使用している言語である英語ですら日常会話が出来るとはお世辞にも言えないレベルでしかなかった。


とはいえ、そもそもここが英語の通じる言語圏の国なのかどうかも不明なので、そんなことを一人で悩んでいる場合でもない。


何故なら言語の壁以上に大きな問題が浮上したからである。


それは、ある意味では衣服や金銭よりも大事な物と言っても過言ではない、パスポートが手元に無いということだ。


(言葉が通じない異国の地でパスポートも未所持、さらには何故か裸で裁判所っぽい所に立っている。おまけに飛行機からここに来るまでの記憶が無いってことは、記憶障害も起こしているのかもしれないな?ってこれ、完全に数え役満じゃねーか!もしかして俺、人生詰んだ!?)


真央にはもはや碌な結末しか思い浮かばなかった。


この状況でポジティブに考えられる者がいるとしたら、そいつは相当な楽天家か、もしくは頭のネジが100本くらい抜けているかのどちらかだろう。


「おーい、新堂真央!いつまでもボーっとしてないで、こっちに注目してくんない?」


「……っ!?日本語?」


まさかの聞き慣れた言語が耳に飛び込んで来て驚いた真央が声のした方へと視線を向けると、自分と同い年くらいの茶髪の少女が裁判長席(?)に座っていることに気が付いた。


「何で俺の名前を知ってるんだ?」


真央は見知らぬ少女が日本語を話したことは兎も角、自分の名前を知っていたことに不信感を抱き、訝しげな視線を向けた。


「私は日本人担当の閻魔よ。気軽に閻魔様と呼ぶことを許可するわ」


(様付けのどこが気楽なんだ?)


妙に偉そうな態度の少女だが、貴重な日本語の通じる相手なのは確かなので、真央は相手の気分を害さないようにそんな思考はおくびにも出さなかった。


「それでエンマ様、ここは何処なんでしょうか?どーにも記憶が混濁しているようで、飛行機に乗ってからのことを覚えていないんですよね」


「そーねぇ……敢えて言うなら、死後の世界ってところかしら?厳密にはちょっと違うんだけど、とりあえずそんな感じの解釈で構わないわ」


真央の切実な質問に、閻魔は頬杖を付きながら答える。


「死後の世界って……俺は死んだのか!?」


真央は驚愕してエンマ様、もとい閻魔様を見つめ返した。


「そうよ。アンタの乗ってた飛行機がエンジントラブルを起こして海上に落下したの。乗員乗客は全員ほぼ即死。事故当時の記憶が削除されてるのは、トラウマにでもなって今後使い物にならなくなるのを防ぐ為よ。服を着てないのはアンタが魂だけの状態だから。ってことで、自分の状況が理解出来た?」


閻魔は先程から100人を超える人間に全く同じ説明をしているので、最低限必要と思われる情報を支えることなく一息に語って聞かせた。


「……それで、俺はこれからどーなるんですか?」


(死後は天国か地獄に行くってのが相場(?)だよな?これといって大それた犯罪を犯した覚えは無いし、天国に行けると思うんだが『使い物にならなくなる』って言葉がどーにも引っ掛かる……)


「ん?当然、地獄に堕ちるわよ?何アンタ?図々しくも天界に昇れるとでも思ってたの?」


「ぐっ……何故だ?俺は殺人どころか、万引きすら一度もした覚えはねぇぞ!?」


真央は閻魔に嫌味っぽく馬鹿にされ、思わず口調が素になってしまった。


「はぁ……アンタら人間は大きな勘違いをしているわ。アンタが言ってるのは、人間が自分たちの為に決めたルールの話でしょ?天界に昇れるかどうかの基準とは根本的に違うんだから、仮に生前それを完璧に遵守していたとしても、ここではそんなこと何の意味も無いわ」


「つまり、俺は天界の基準とやらに引っ掛かっちまったって訳か……」


(確かに、ちょっと考えれば分かることだったな。アメリカとかじゃ州によって法律が全然違うって聞いたことがあるし、良くも悪くも人間が作った人間の為の規則でしかないってことか)


「そうよ。七つの大罪って言葉を聞いたことはある?アンタはその内の半分以上に抵触しているわ」


閻魔は真央のプロフィールが書かれていると思しき紙をペラペラと捲りながらそう指摘する。


「あぁ……確か、マンガとかゲームとかで時々出て来たよーな?全部漢字二文字だったっけか?」


「そうね。日本語で言えば【傲慢】【嫉妬】【憤怒】【怠惰】【強欲】【暴食】【色欲】の七つよ」


「ちなみに、俺はどれに該当しちまったんだ?」


一度素の口調で喋ってしまったので、真央は開き直ってそのまま喋り続けることにした。


「基準値を超えてるのは【傲慢】【嫉妬】【怠惰】【色欲】の4つね。特に【色欲】はかなりの数値を叩き出しているわ。これだから男は……」


(嫉妬と怠惰は兎も角、傲慢ってのは良く分からんな。色欲ってのは、閻魔の様子から察するにエロすぎるってことなんだろうか?)


「その4つの所為で、俺はこれから地獄に堕とされると……」


真央はこれから始まるであろう地獄の責め苦(?)を想像して、暗い表情を浮かべた。


「別に、そう落ち込むほど悪くは無いわよ?アンタには今、4つの選択肢がある。傲慢の町『プライド・シティ』、嫉妬の町『エンヴィー・シティ』、怠惰の町『スロウス・シティ』、色欲の町『ラスト・シティ』ってゆー地獄に存在する7つの町の内の4ヶ所からどの町に堕ちるかを選ぶ権利があるんだから」


「自分で選べんのかよ!?」


「ちなみに、7つの町はそれぞれの大罪に由来した特色が色濃く反映されているわ。何処を選んだとしても、死ぬまで拷問されるとかってゆー可能性は万に一つしかないから、気軽に選んだら?」


真央のツッコミを華麗にスルーしつつ、閻魔はさり気なく不穏なことを口にする。


「いやいや、万に一つは拷問される可能性があるんなら、そんな気軽には選べないだろ……ちなみに、町の特色ってのは教えて貰えないのか?」


「仮にも地獄なんだから、そこまでサービス精神旺盛じゃないわよ。ヒントはあるんだから、自分の頭で考えなさいな?アンタの頭蓋骨にはプリンでも詰まってんの?」


(ちっ、流石にそこまでは甘くないか……とりあえず【傲慢】と【嫉妬】って言葉はあんまり良い印象がないし、即却下だな。【怠惰】は一日中ゴロゴロしていられそうな雰囲気があるけど、万が一何もないワンルームマンション(?)に死ぬまで軟禁されるとかだったら、暇すぎて発狂しそうな気がする。ってことは、残るは【色欲】の一択か。そーいえば、童貞のまま死んじまったんだし、こうなったら地獄で『脱童貞』を果たしてやる!)


「決めたぜ!俺は色欲の町『ラスト・シティ』に行く!!」


真央は考え抜いた末にそう結論付けた。


「一度堕ちたら、もう二度と変更は出来ないわよ?本当に良いのね?」


「あぁ!どーせなら、地獄中の美少女を俺の物にしてやんよ!!」


念を押して来る閻魔に、真央は高らかにハーレム宣言をした。


「そう……まぁ精々頑張りなさいな?」


「…………うわぁぁぁぁぁぁ~~~~~~!?」


閻魔がそう言った瞬間足元に大穴が開き、真央は奈落の底へと堕ちて行った。

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