3 沈黙の悪魔
少女の話を語り終え、路地裏の入り口に立つ女は続けて言う。
「君は、この少女の話をどう思う?十七年前、この街に実在した少女の話だ」
少年は拾った財布をまだ自身の背中に隠している。女は更に続ける。
「それがどんな財布であれ、拾われた財布は拾った人間にその責任を委ねる。銀色の指輪がそうであったように。そして、少女の話には続きがある。さて、君にはその続きを知る義務は無い。だが、その資格がある。話を聞く資格がある」
そう言うと女は押し黙った。少年は女の思惑を量ろうとした。しかし、女の真意は、いくら考えても少年には見えて来なかった。女の心の内が分からないだけに、下手に動く事も少年には出来なかった。何かを言うべきかと思ったが、何を言葉にすれば良いのかも見つからず、少年はただ女の瞳を捉え続けた。女は、古代の壁画のように意味を含んだ表情のまま固まっている。路地裏の外からホウと舞い込んで来た風が、時間をかけて静まると、女は言った。
「少女は罪を隠し通した。しかし、沈黙の悪魔は少しずつ少女を蝕んで行く。忘れ去られたと思っていた少女の罪は、ある時ふいに、彼女の前に再び姿を現す事になる」
女は再び語り始めた。
やがて、時が流れて行くに連れ、少女は自分の罪を忘れていった。たまに指輪の事を思い出した時には、もう二度とあんな事はしないと深く心に誓い直しながら、一方で、真面目すぎる自分はたかが一個の指輪でどれだけ思い悩んでいたのだろうと、当時の自分を滑稽に思ったりもした。ともかく、指輪の一件は既に過去の事であり、自分は充分苦しみ反省したわけで、少女にとってそれはいつまでも引きずっていても仕方の無い事だった。少女の周りの人間達は真実など知らないまま、暢気に日々を過ごしている。世の中には、気付かれないままの罪などきっと沢山あるのだろう。コーヒーに混ざっていた罪の味も、いつの間にか消え去っていた。
そして半年が過ぎ、高校三年生になった少女は、大学受験勉強に集中するためマルジュでのアルバイトを辞める事になった。マルジュを辞める最後の出勤日には、少女の頭の中は既に受験の事で埋め尽くされており、彼女は接客に集中を欠いていた。レジで会計を済ませた客が「ごちそうさま」と言ってくれたのに気付かず、「ありがとうございました」と礼を述べるのを忘れた事を、少女はマリちゃんに注意された。しかし、反省した少女が名誉挽回をするチャンスはもう殆ど残されておらず、そのまま彼女はマルジュでの最後の日を終えた。少女の去り際は、あっけないものだった。
その後、大学へ進学した少女は、いや、もう少女では無いか。ここからは元少女と呼ぼう。大学へ進学した元少女は一人暮らしを始めた。実家から大学までは少し遠かったからだ。
大学に通い、自分のこれからを現実的に考えるようになると、元少女は将来的に自分のカフェを持つ事に対して少しずつ疑問を抱き始めた。自分の店を開くためには、それが小さな店だとしても、少なくない初期投資費を用意しなければならない。それに、店を持ったところで赤字が重なれば経営は続かない。現実的な話、マルジュだってオーナーの出資を頼りながら毎月家賃を支払って営業していたと、働いていた当時に元少女は聞いていた。
社会の情勢は、必ずしもカフェを中心に動いているわけではない。元少女は世の中を動かす金について考える事が多くなった。
そしてこの頃から、元少女は酒を覚え始めた。彼女はコーヒーも相変わらず好きだったが、酒もまた同じくらい好きになっていった。元少女はたまに、一人でバーに飲みに行く事があった。バーには、経済社会の荒波の中で生き抜いている大人達がいる。元少女が一人バーで酒を飲んでいると、誰か他の客に声をかけられる事も少なくなかった。元少女はそこで出会う大人達の話を聞くのが好きだった。バーで知り合った男の何人かとは、元少女は女として付き合ったりもした。
付き合った男達は、皆充分に金を持っていた。少なくとも元少女よりは格段に多く。男達は特別苦労も無く、元少女に色々な物を買い与えた。服も、バッグも、そして指輪も。かつて元少女が盗んだ銀色の指輪とは、恐らく比べ物にならない程高価な指輪を、男達は簡単に元少女に与えた。それを笑顔で受け取りながら、内心彼女は、この男達は金の使い方を間違っているのでは無いかと思った。そして同時に、高校の時経験した指輪の騒動は、一体何だったのだろうかとも思った。あれは騒動と呼ぶにもおこがましい、実に瑣末な出来事だったのか。
元少女と男達の交際関係は、毎度長続きする事が無かった。誰と付き合ってみても、彼女はすぐに飽きてしまっていた。元少女は昔を思い出し、感じていた。マルジュで生き生きと働いていた時のあの楽しさは、一体どこへ行ってしまったのか。金が無ければ店なんて持つ事はできないという前提を無視して、がむしゃらに接客を学び、ひたむきに夢を描いていた頃は、どうして楽しかったのか。
ある時彼女は、一人で酒を飲んだ帰り道、一件のコンビニエンスストアに立ち寄った。少し飲みすぎた彼女は、水でも飲んで酔いを醒まそうかと考えた。そして500mlの水のペットボトルを手に取った時、彼女は考えた。たかが水でどうして百円以上もするのか。金の使い方はこれで良いのだろうか。ふと他の棚に目を移すと、缶コーヒーが目に入った。ちっぽけな缶コーヒーもその少ない量に関わらず、また百円を超えていた。元少女は無糖でブラックのものを選び取ると、手に提げていたバッグの中にそれを入れた。缶コーヒーは、上に被さったストールに隠されて外からは見えなかった。そして元少女は水だけをレジに持って行き、会計を済ませ外に出た。
元少女は足早に歩き出した。自分を呼び止める声はしない。なるべく速く、しかし走ってはいけない。目立ってはいけない。顔を上げず、正確に素早く足を前に出す。そのようにしてだいぶ歩いてから、元少女はその足取りを徐々に遅くしていく。ゆっくり息を吐くと、自分の体が緊張していた事に元少女は気がついた。バッグに被さったストールを掻き分けると、そこには会計を済ませていない缶コーヒーが、世の中の経済システムを嘲笑うかのように姿を見せた。
簡単だ。つまらないくらい、簡単だ。元少女は思った。彼女は缶コーヒーを取り出した。その硬く冷たい感触が手の平に伝わって来た時、彼女は銀色の指輪の事を思い出した。そしてそこで、彼女はようやく気付いた。あの時、誰にも罪を告白しなかった自分。その自分が、あれからずっと己の首を掴んでいた事に。それは狡く、嘘つきで、他の誰の目にも付かない自分だ。
元少女は、その自分の事を、沈黙の悪魔と呼んだ。高校生の時、銀色の指輪の真相を沈黙し、誰にもそれを気付かれずにやり過ごした後、元少女の沈黙の悪魔は姿を消した。しかし、そのように思えていたそいつは、実際は水面下にずっと潜んでいて、浄化される事無く元少女の喉元を掴み続けていた。そしてチャンスがあればいつでも、そいつは元少女を誘惑しようとしていた。『大丈夫、あたしを知っているのはあなただけ。バレないさ、また罪を、犯してしまえ』と。
元少女は缶コーヒーを固く握りしめた。マルジュで銀色の指輪を握りしめた時のように。タブを開け、缶コーヒーを一口飲んでみる。そこにはかつてのような罪の味があった。元少女は後悔した。しかしそのコーヒーの味のどこかに少しだけ、彼女は奇妙な心地良さも感じていた。
元少女は考える。この沈黙の悪魔を消滅させる方法は無いのか。こいつの存在を誰かに見つけてもらえれば、こいつは消え去るのだろうか。それともこいつは一生消えないのだろうか。酔いは、すっかり醒めていた。
それからしばらくしたある日、薬局を訪れた元少女は再び万引きをしていた。店を出てから自分でそれに気付いたくらい、ごく自然に万引きをしていた。その時も、彼女は誰にも咎められなかった。沈黙の悪魔は、またしても元少女に罪を犯させる事に成功した。元少女は後悔し、反省した。そして元少女は、自分の中で沈黙の悪魔が以前よりも大きくなっていっている事に気が付いた。罪を餌に、そいつは少しずつ成長していっていた。
元少女はどこかでまた万引きをした。そして沈黙の悪魔の誘惑は大胆になっていく。元少女は万引きを繰り返す。一度の万引きで盗む品数は増え、彼女はやがて、チャンスさえ目の前にあれば置き引きやスリも行うようになっていった。そして、そのように罪を重ねていっても、その罪が誰かに知られる事は決して無かった。元少女は危険を感じていた。走り出した列車から飛び降りるには、まだスピードが遅い内でないといけない。しかし、やめなくてはこんな事、と思う元少女の気持ちとは裏腹に、彼女は罪を重ねて行く自分を制する事が出来なかった。そしてその間にも、沈黙の悪魔の列車は順調に速度を上げていった。
ある時、道端で荷物を地面に置き、無用心にそっぽを向いて電話をしている男の赤黒いスーツケースを、元少女は静かに持ち去った。スーツケースを開けてみると、中には貴金属や宝石が大量に入っていた。それらがどれ程の価値を持っているのか元少女にはわからなかったが、彼女はそれを見てさすがに尻込みした。この宝石類を売り飛ばすのは危険だ。どこから足が付くか分からない。だが家で保管するのも危ないかもしれない。警察に届けて自分が質問攻めに合うのもリスクが高すぎる。処分に困った元少女は、その赤黒いスーツケースを地中に埋めてしまおうと考えた。そして彼女は、実家の近くで長年野ざらしになっている土地に、赤黒いスーツケースをひとまず埋める事を決意した。人目の付かない夜中に彼女はそれを実行し、再び日常の生活に戻った。
それから元少女はまた日常の中で盗みを繰り返した。そして相変わらず、彼女の沈黙の悪魔を見つけ出す人間は、誰一人として現れなかった。
そんな事を繰り返しているうちに二年が過ぎた。元少女はバーで一人の若い男と出会った。理由は分からないが、一目見た瞬間、彼女は彼の事が気になった。男は背中を丸め、力の無い眼をしていたが、彼女はその男に惹かれるものを感じた。元少女は男に声をかけた。突然話しかけられた男は驚いて、眼をこれでもかと開いて元少女を見つめた。そしてしばらく男はそのまま、くりくりとした眼球で元少女を観察し続けたが、やがてその眼は次第に力の無いものに戻っていった。元少女が、何の酒を飲んでいるのかと尋ねると、男は間を置いて、ブラックルシアンだと言った。元少女が同じものを注文しそれを飲み、おいしいと言うと、男は、ブラックルシアンはウォッカにコーヒーリキュールを注いだ物だと言った。元少女は男と関係を深めようとした。元少女にとって男は、どこか懐かしさを感じさせるくらい安心できる雰囲気を持っていた。しかし男は、「君とここで会えたのは運命的だ。しかし僕にはもう関わらない方がいい」と言い、程なくしてその場を立ち去って行ってしまった。
元少女はまた男に会いたいと願い、それから毎日その店に通った。そこまで誰かを好きになったと、彼女が自分で思えたのは初めてだった。そして男が再び店に現れたのは、一ヵ月後の事だった。元少女はこの機会を逃すまいとしつこく男に言い寄った。「君を僕の事情に巻き込みたくない」と男は言ったが、元少女は諦めなかった。彼女は詳しい説明を求め、男は観念したように、「場所を変えよう」と言い、誰もいない公園で彼女に自分の事情を説明した。
男の父親は資産家の宝石商だった。男は父の宝石店の一つを任されていた。父の力に頼っていると周りに思われるのを嫌っていた男は、己の力で店を大きくしようと躍起になって働いていた。父はそんな息子の事を誇りに思っているようだった。だが二年前、男の実に情けないミスで、二千万円の宝石類の入った赤黒いスーツケースを置き引きされてしまった。警察に連絡したが、結局スーツケースは見つからなかった。しかし、自分の情けないミスへの対処で父の力を頼ってしまいたくはなく、また父からの期待のプレッシャーも受けていた男は、二千万円の損失を誰にも報告せず、借りられる分は借りられる所からこっそりと金を借り、会計帳簿も自分でつけて損失を誤魔化した。しかし借金は膨らみ、結果損失は徐々に拡大していった。そして二年が経ち、いよいよ自分の隠していた真実が明るみに出てしまうという窮地に男は立たされていた。
元少女は赤黒いスーツケースの詳細な特徴を聞き、それが自分の盗んだスーツケースと完璧に符合する事がわかった。ざわめくような罪悪感に駆られた元少女は、「金を工面できる当てがあるから二日待って」と男に言い残し、急いでスーツケースを埋めた場所へ向かった。だが、長年野ざらしだったはずのその土地には、家が建っていた。スーツケースの存在を家の人間に伝えてそれを掘り返してもらう事など、元少女にはできるはずも無い。その行為は自分の罪を暴露してしまう事になるからだ。元少女は気が狂ったように家の周りを歩きまわったが、どんなに頑張っても赤黒いスーツケースを取り戻すのは不可能に思えた。焦りと絶望に包まれた元少女がふと気付くと、家の玄関前で三、四歳くらいの子どもが不思議そうに自分を見ていた。この家の子どもに親を呼ばれたらまずい。そう判断した元少女は、仕方なくその場をあとにするしかなかった。
元少女は男に会い、金は用意できなかったと伝えた。男は、「大丈夫ありがとう」と力の無い声で言った。罪悪感に押し潰されそうになった元少女は男に提案した。父親の店から金を盗もう、誰かが罪を被らなきゃいけないのならあなたで無くても良いはずだ、あなたなら盗む事が出来る、と。男は彼女の提案に驚きたじろいた。元少女は「バレ無ければそれは罪じゃ無い」と冷静な眼差しを男に向けて言った。男は一瞬考えるそぶりを見せたが、すぐに元少女の提案を却下した。しかし元少女はしつこく、それでいて丁寧に何度も、様々な表現で同じ内容の提案をし、綿密な計画も提示した。優しく、馴染ませるようにゆっくりと、彼女は男の脳に提案を沁みこませた。漆塗り職人の丹念な仕事のように綿密に。
追い込まれ、疲弊し、やつれきった男はやがて、元少女の提案をついに飲み込んだ。元少女の計画では、男は信頼している人間を一人、罠に嵌めなければならなかった。そして、計画は実行され、男は無事に損失を取り戻した。罠に嵌められた人間は、責任を追及されて会社を辞めさせられた。その人間は実績もあり人望も厚い社員だった。男もよくその人間に助けられた事があった。その人間にはまだ小さな子どもが二人いると聞いていた。男は、元少女の前で泣いた。大きな声で泣いた。元少女は男の頭を胸で抱きしめて言った。「あなたは、間違っていない」
それからしばらくして、男は首を吊って死んだ。その前日、元少女は男に言った。「どうして?どうしてまだ引きずっているの?あなたはもう損失なんか抱えてない。苦しまなくていい。私を見て。お願い。私を一人にしないでよ」男は言った。「君と出会えたのは運命的だ。でも、君は僕と一緒に居ちゃいけない。僕は、君を巻き込みたく無かったから今まで言って無かった事がある。最初に君と出会った時、僕は君に一目惚れをしていたんだ。実は君に会おうと、毎日君に出会った店に通ったりもしたんだ。君は、僕の希望の光だ。希望の光を、僕は消してしまうわけにはいかない」
元少女の沈黙の悪魔は、結果として愛する人間を殺した。元少女は、男の最期の言葉が優しい嘘だと分かっていた。店に毎日通ったのは自分であり、男は一ヶ月間、店に現れなかったからだ。一目惚れをしていたのは元少女の方だった。不確かな愛を掴むため、彼女は最後まで空回り続けていたのかもしれない。チェーンの外れた自転車のペダルを必死に漕ぐみたいに。彼女は彼を求め、唆し、自殺にまで追い込んでしまった。だが元少女には、男がどうして自殺をしたのかわからなかった。暴かれない罪ならば、黙っていればいいのに。自分が男に、己の罪を黙っていたように。
そこで元少女は気付いた。自分が愛よりも、沈黙を重く大切にしている事に。彼女はもはや、何よりも沈黙を重視していた。その時元少女は、自分が引き返せない所まで来てしまっているのを理解した。沈黙の悪魔が抱える罪を、誰かに自白する事はもはや出来ない。そして悪魔の成長はもう、自分では止められない。
元少女は失踪した。一人暮らしをしていた家からも、大学からも姿を消した。どこか知らぬ所で彼女は窃盗を繰り返し、そして窃盗の罪を隠し守るために、別の罪を重ねたりもした。彼女の沈黙の悪魔は着実に太っていった。そして、膨らんでいく沈黙の悪魔を、やはり誰かが見つける事は無かった。それは元少女が悪魔に与える餌の分量を間違えなかったからかもしれない。犯す罪は大きくなっていったが、それは少しずつ、本当に少しずつであり、彼女は決して餌を与える順番を間違えなかった。それは生来の生真面目さなのか、戒律を守る敬虔な宗教徒のように、彼女はその順序のルールを破らなかった。結果、沈黙の悪魔は彼女の丁寧な飼育に応え、強大に育っていった。
なだらかな山道を少しずつ少しずつ登っていけば、とてつもなく高い場所まで行ける。時が経ち、やがて彼女の罪は、人が来ては行けない所まで来てしまった。沈黙の悪魔は、すでに彼女が一人で抱えていられない程巨大に膨らんでいた。元少女にもついに限界が来ていた。そのままでは、彼女の精神や魂は悪魔に完全に乗っ取られ、彼女は人では無くなってしまう。まだ人でありたいとする元少女は、誰かにその悪魔を見つけてもらわなくてはならなかった。けれど、警察に捕まり罪を償う事は、今更彼女にはできなかった。どうしてこんな事になってしまったのか。誰かに言いたい。言えない。言いたい。言えない。
やつれた彼女が街を歩いていると、一軒のコーヒーショップが目に入った。その時彼女は、自分がもう何年もコーヒーを飲んでいなかった事に気が付いた。かつてカフェを持ちたいと願った自分がまだどこかにいるかと探したが、それはどこにも見当たらなかった。
そして更に時は流れ、今から七年前、ある日の夕方の事。今と同じ十二月の夕方だ。元少女はこの街に戻ってきた。沈黙の悪魔が生まれたこの街に。元少女は街の中をふらふらと歩きまわり、とある探偵事務所の看板を見つけると、その事務所を訪れた。事務所の従業員のほとんどは出払っていたが、所長の探偵が一人だけそこに残っていた。元少女は、ちょうど今の私と同じように真っ赤なコートを着て、手提げ鞄を持っていた。席を勧める探偵の言葉を無視して、彼女は探偵に言った。
「沈黙の悪魔は存在する」
異様な空気を察した探偵は戸惑った。しかし、依頼内容が既に始まっていると考えたのか、探偵は、立っている自分のすぐ横の机に置いてあった録音機を操作し、元少女の言葉を録音し始めた。元少女は言う。
「録音するの?なるほど、探偵事務所に来る依頼人は、しばしば精神的に不安定だったり、複雑な内容の依頼をして来たりするものね。依頼人の言葉を録音しておかないと、後に依頼人とトラブルになる可能性もある。私はあなたにとってトラブルの元に見えているのかしら?」
言い訳をするように探偵は答える。
「いえ、別に、いつもしている事です。そういうわけじゃ」
元少女は口元にだけ笑みを浮かべて言う。
「全ての真実が、白日の下に曝される事はあるのか?恐がらなくていい。あなたに、ある少女の話をしようか」
そして、元少女は語り始めた。君が今聞いてきた話と同じ話を。元少女はそれを自分の話としてでは無く、ある『少女』の話として探偵に語った。そして話を語り終えると元少女は言った。
「思い返してみれば、全ては銀色の指輪から始まった。あの時、罪を告白しなかった事が全ての始まりだった。指輪騒動の時、少女には引き返すチャンスが何度もあった。店長とマリちゃんが休憩室の扉を開けた時、どうして少女はすぐに指輪を差し出さなかったのか。指輪を自分の指にはめてしまった後ろめたさもあったかもしれない。でも、あの時マリちゃんは言った。『ヨウコちゃんが見つけてたら直ぐ言うでしょ』。きっと少女を疑いの目から守るためにマリちゃんはその言葉を言った。そして店長も言った。『まあヨウコちゃんが持ってるわけないか』。店長とマリちゃんの中で、少女は真面目な子だった。そんな真面目な子が指輪を隠しているはずは無いと彼らは勝手に決めつけた。もちろん、彼らには何の罪も無い。ただ、周りに真面目だと思われている事が、罪を告白しようとする少女の決断を鈍らせていたというのはおそらくあった。誰だって、好きな人達の前では、美しく望まれる自分でいたいはずでしょう?きっと、人は油断するといつの間にか、周りが思っているように発言し行動してしまう。裏にある自分に蓋をして。そしてもう一度言うわ。店長とマリちゃんに罪は無い。彼らはただ、罪無き加害者になってしまっただけの事。宝石商が自分の息子に期待を寄せるのが罪でないのと同じように。おそらく、世の中の罪無き加害者の多くは、自分が加害者であるとは気付いていないものかもしれない。なぜなら被害者もまた、自分が被害者である事に気付いていないのだから。何か事件が起こるまでは」
元少女はそこで、一拍の間を置いて再び喋りだした。
「マルジュの休憩室を飛び出した少女は最初、きちんと指輪をカップルに返すつもりになっていた。でも、指輪を捜すカップルを見た時、少女は打算を働かせた。指輪を隠し持っている事実を明かさずに、何とかそれをカップルの元へと戻す方法を探ろうとした。その打算が、誠実であろうとする少女の気持ちを底に押し込めた。そして少女は指輪を返すきっかけを失った。打算を働かせる脳など持ち合わせていたばかりに、少女は罪を告白できなかった。この世界ではおそらく、強かな人間ほど聖人になるのは難しい。強かな聖人が存在するのかどうか知らないけど」
元少女は右手に提げた鞄を左手に持ち替えた。そう、ちょうど今私がしたように。そして話を続けた。
「そして償われないのなら、罪は決して一つでは終わらない。結局少女は、マリちゃんの手をゴミで汚れさせ、指輪を無くした女を陰で侮辱し、トモちゃんを罪に巻き込んだ。トモちゃんを巻き込んだのは、少女が、罪を犯した自分自身から逃げようとしていた自己逃亡者だったからね。いずれにせよ、罪は決して単独では存在しない。そしてこの辺りから、少女の沈黙の悪魔はきっと徐々に膨らみ始めていた」
元少女は一度、こく、と唾を飲む。こういう風に。
「さて、どうして私がこんな話をしているのかあなたはずっと疑問に思っているかしら?長い前置きだったけど、それじゃあ本題に入ろうか」
元少女は一歩前に進み出た。今私がしたように。元少女は言葉を続ける。
「指輪騒動から十年が経ち、今、彼女の沈黙の悪魔は彼女の許容の限界を超えた。元少女は、沈黙の悪魔を一人では抱えきれなくなってしまった。誰かに自分の抱える真実を伝え、沈黙の悪魔を誰かと共有しなくてはならない。けれども沈黙の悪魔は警察に捕まる事を許さない。罪を償わずに、誰かに真実を伝える事はできないのか?彼女は考え、一つの名案を思いつく」
そして元少女は自分の手に持つ鞄に一度目を遣った。わかるかい?今私がしたようにだ。そして元少女と向き合っている探偵も鞄に目を遣った。今君がしたように。元少女は語り続ける。
「彼女の結論はこう。自分の抱える真実を誰かに告白する。しかしそのままでは、真実を知った相手が警察に彼女の事を密告してしまうかもしれない。だからそうなる前に、真実を知った相手には永遠に喋れ無くなってもらう事にする。つまり、真実を伝えた直後に、彼女はその相手を手にかける」
探偵は元少女の目を見つめた。そう、今君が私にしているように。元少女は更に言う。
「しかし、真実を知った相手を殺してしまえば、また自分は一人で真実を抱える事になる。その問題を解消するためには、また別の誰かにも真実を伝える必要がある。そしてそうなれば、その相手も殺す必要が出て来る。誰かに真実を告白して、告白した相手を殺す。それを繰り返さなければならないという結論に、元少女は至った。そして思い立った彼女は、鞄の中にナイフを入れ、赤いコートを着た。返り血が付いても目立たない赤いコートを。それから彼女は、真実を伝え、殺すべき相手を探した。まず彼女の目に入ってきたのは、探偵事務所の看板。探偵さんなら自分の話を聞いてくれるだろうと彼女は思った。真実を知ってもらい死んでもらう相手の一人目を、彼女は探偵に決めた」
そう、今君がしたように、その時その探偵も、目の前の相手が持つ鞄に目を遣った。おや?君、大丈夫かい?足が震えているよ。声が出ないのかい?動けないのかい?その時の探偵も、君と同じようにしていたよ。
元少女は探偵に一歩近づいた。右足からこうやって。それから左手に持つ自分の鞄のファスナーに、右手の指をかけた。こういう風に。そしてその指が、鞄のファスナーを開けようとした。
バンッ。
突然、大きな音が鳴った。それは、探偵が直ぐ横の机に自分の足をぶつけた音だった。その勢いで、机の上に置かれていたコーヒーカップは倒れ、中に入っていたコーヒーが机の上や床に垂れ流れた。探偵はしかしそんな事には気を止めず、元少女の挙動を見張り続けた。元少女は垂れ流れるコーヒーに目を遣った。彼女はそこで動かなくなった。するとしばらくして、彼女は静かな声で言った。
「冗談よ」
沈黙が流れた。予断を許さない沈黙。元少女は言葉を続ける。
「びっくりさせてごめんなさいね。冗談よ。私がその『少女』だと思った?ふふ、全て作り話よ。鞄にナイフなんて入ってない。この赤いコートは、クリスマスが近いから着ているだけ」
元少女はニヤリと笑い、腕を開いてコートを広げて見せた。
「あら、信じてない?いやそもそも、仮にもし私がその『少女』だとしても、警察に捕まらないためには、死ぬのはあなたでなくてもいい」
元少女は窓の方へ目を移した。
「それに、雪が、降り出して来た。雪が降るなら、殺人はしない方がいい。何故かわかる?雪が降り続ければ、路上の全ての痕跡は消え去ってくれる。けれど、それが止んだ途端、雪の上には痕跡が残ってしまう。血痕や足跡がね。殺人を犯す者にとって、雪は有利か不利かどちらに転ぶか分からない。雪は運命を分けるもの。自分がまだ人間でいたいなら、そんな雪が降る時には、せめて殺人はしない方がいい」
探偵は元少女への警戒を解かないまま、窓の外にちらりと目を遣った。窓の外に、白い雪の粒が見える。
「探偵さん、私の暇つぶしに付き合ってくれてありがとう」
言って、元少女は鞄の中から紙とペンを取り出すと、そこに何かを書き、その紙を近くの机の上に置いた。そして彼女は探偵事務所から出て行った。後に残されたのは、彼女が何かを書き残した紙と、まだ机から僅かに零れ落ちているコーヒーと、そして私だけだった。
ああそうだよ。私は、その時の探偵だよ。君に語った元少女の話は、全てその時探偵事務所に訪れた本人から聞いた話だ。本人だ。彼女の語った話は、作り話では無い。
何故私が作り話では無いと思うのか。理由の一つは、彼女が書き残していった紙にある。その紙には、携帯電話の番号が書かれてあった。私は紙に書かれた番号に電話をかけてみた。しかし電話は繋がらなかった。その電話番号を書いた女の言っていた一つの事が、私は気になった。『警察に捕まらないためには、死ぬのはあなたでなくてもいい』。その言葉の意味を考え、私は一つの仮説を立てた。『死ぬのはあなたでなくてもいい』とはつまり、警察に捕まらないためには、【自分が死ねばいい】という意味では無いか。
そして次の日も、その次の日も、私がいくらその番号に発信したところで、誰かが電話に出る事は無かった。
そして彼女が探偵事務所を訪れてから四日後。警察から私に電話があった。そこで私は、シバウチヨウコという女性が数日前に死亡したという事を聞かされた。シバウチヨウコは『少女』の名前だ。シバウチヨウコは自宅アパートで首を吊って自殺したらしい。毎朝、アパートの管理人に挨拶をするシバウチヨウコが突然部屋から出てこなくなったのを、管理人が不信に思って警察に通報したらしい。警察は、シバウチヨウコの身元を確認しようとする過程で、彼女が死亡したと思われる日から毎日、彼女の携帯電話に着信がある事を知った。私からの着信だ。そこで刑事は私に連絡をしたわけだ。身体的特徴、服装などが私の記憶と一致して、私はそこで、シバウチヨウコが探偵事務所に来た女である事を確信した。私はシバウチヨウコが事務所に来た事を刑事に話した。そして、彼女との会話を教える代わりに死亡時の状況を詳しく教えてくれと刑事に交渉した。まあ結局、私の方からは刑事に真相を伝える事は無く、シバウチヨウコは何も語らなかったと伝えたが。
だが刑事の方は親切に教えてくれた。刑事の話によると、シバウチヨウコは、頑丈なロープで首を吊っていたらしい。私の事務所に来た日の夜の事だ。そんなロープをしっかりと用意していた事から、私の事務所に来る前すでに、彼女は自殺の準備をしていたのだろう。ただ一方で、首を吊ったシバウチヨウコの部屋のテーブルに置かれていた手提げ鞄の中からは、サバイバルナイフが見つかったという。もしかしたら彼女は、私を殺すか、自分が死ぬか、ぎりぎりまで迷っていたのかもしれない。私があの時コーヒーを零さなかったら、天が雪を降らせなかったら、結果は変わっていたのかもしれない。そして、テーブルに置かれた鞄の脇には、カップに口をつけられた痕跡の無い一杯のコーヒーが置かれていたらしい。死ぬ直前に彼女は、自分でコーヒーを淹れたのだろう。一体どのような意図でそれは淹れられたのか?その時シバウチヨウコはコーヒーを飲むつもりだったのか?それとも別の思いがあったのか?想像したところで答えは出ないが、シバウチヨウコのコーヒーに対する思いは、きっと些細なものでは無いはずだろう。
シバウチヨウコはおそらく私に、自分の話が本当の話だと信じて欲しかった。そして自分の最期を知って欲しかった。だから電話番号を私のところに置いて行ったのだと思う。住所を書かなかったのは、自殺を止められる可能性があるからだろう。
さて。シバウチヨウコの話はこれで終わりだが、君は、私が何故今まで君に長々とシバウチヨウコの話をしたのだと思う?
理由は二つある。一つ目の理由は、私にはシバウチヨウコの話を誰かに語る責任があると思ったからだ。シバウチヨウコは、私に己の真実を託して死んだ。そのせいで、私はシバウチヨウコという人間を、自分の中で消化しなくてはならなくなった。私は何度も、録音していたシバウチヨウコの話を再生して聞いた。丸暗記できるくらいにね。彼女は『全て銀色の指輪から始まった』と言っていた。きっと、小さな落し物を盗める人間は、いずれ人を殺す事だって出来る。沈黙の悪魔が存在する限り、その落し物は指輪だろうが財布だろうが変わらない。私は、その事を誰かに、とりわけ罪を犯してしまう誰かに伝えるべきなのかもしれないと思った。そうすれば、シバウチヨウコの託した思いから、私は少しずつ解放されるような気がしたからだ。私には、シバウチヨウコの話をありありと、出来るだけ強烈に誰かに伝える必要があった。君はその誰かだ。先ほどは少し怖がらせすぎたかもしれないが、悪ふざけが過ぎると思われたかもしれないが、私にはそれが必要な事だった。ともかく、それが一つ目の理由だ。
ただ一応一つ断っておくが、私は別に、君の行動選択に口を挟みたいわけではない。拾った財布の行方を沈黙のうちに消し去るのか、そうしないのかは君が決める事だ。私が決める事ではない。
私にだって、普段から沈黙している事は沢山ある。例えば、私は良く献血をしに行く。慈愛に溢れた善人の顔をして献血をする。私はAB型だ。AB型は大体いつも血液が不足しているので、献血ルームのスタッフも私が来ると喜ぶ。しかし、私が献血をするのは別に慈善的な理由からじゃない。私は、自分の血液を世の中に広めたいだけだ。子どものできない私にとって献血は、何とか自分の遺伝子を世の中に広めるための手段に過ぎないんだよ。だけどそんな事は、私は普段沈黙している。
他にも私は、人を騙すための沈黙をした事もある。今でこそ私は、自分は男性が好きだとはっきりと思えるが、私は学生時代、女性に交際を求められた事が何度かあり、その度に私は自分の気持ちも確かめずに、言われるがまま相手の女性と付き合ったりした。自分はやはり女性では無く男性が好きだと確信したのは十数年前、ちょうどシバウチヨウコの指輪騒動が起きた辺りからだ。しかしそれまでは、自分で違和感を抱いていたのにも関わらず、私は女性と付き合っていた。そして私は結局、数人の女性の気持ちを裏切った。まあ誰とも肉体的な関係を持つような事は無かったが、別れ際に関しても、私は卑怯な事に、自分からはっきりと相手に意志を伝えたりはせず、徐々に相手に嫌われるように仕向けていた。
もちろん、私だけで無く、誰も皆、心の中に沈黙している事はあるのだろう。いずれにせよ、もし罪を餌に成長する沈黙の悪魔というものが存在するのなら、そいつが大きくなってからでは、その人間は悪魔の誘惑に勝てなくなってしまうのだろう。
君は財布を拾った。拾われた財布の行方を、君も沈黙する事が出来る。ただ、それがどんな財布であれ、拾われた財布は拾った人間にその責任を委ねる。君にはもう既に、その手に持たれた財布に対して責任が発生している。その財布を警察に届けるのか、財布に入っている金でコーヒーを飲むのか、首を吊れるロープを買うのか、君が自分でどうするのか決断しなくてはならない。とにかく、私は君の行動に口出しはしない。
さて、私はまだ、君にシバウチヨウコの話をした理由の二つ目を言っていなかったね。いや、実は二つ目というのは正確な表現では無いのかもしれない。なぜならこちらの方が、私にとっては重要な、真の理由だからだ。
私が何故シバウチヨウコの話をして来たのか?その本当の理由は、私自らの贖罪のためだ。さきほど私が君に『話を聞く資格がある』と言ったのは、路地裏で財布の中身をこっそりと確認する君には、私の『罪』について聞く資格があると思ったからだ。そういう人間を、私は探していた。
私は今ここで、私の罪を君に伝えよう。シバウチヨウコが私にしたように。そのために私は、シバウチヨウコの話をこれまで君にしてきた。
君は、スモールワールド現象という言葉を聞いた事があるかい?世界中の人々は意外と簡単に繋がっているという意味合いの現象の事だ。過去実際に学者達がそれについて実験もしている。自分の知り合い、更にその知り合い、更にその知り合い…と繋いでいけば、およそたった六人目には、世界中の人と自分は繋がっているという実験結果が出ているそうだ。『六次の隔たり』などと呼ばれているらしいが、とにかく世界は本当に意外と狭いものなのかもしれない。
シバウチヨウコが探偵事務所から帰る時、私は彼女を引き止めなかった。そこで引き止めていれば、彼女は死なずに済んだのかもしれない。だが、明らかに尋常ではない様子の彼女を引き止める事は、その時私には出来なかった。
シバウチヨウコの話が本当の話であるだろうと判断した理由は、彼女が書き残していった紙によると先ほど私は言ったが、実はそれだけではない。シバウチヨウコが探偵事務所にいる時に、本当の事を言えば私は既に、彼女の話の信憑性を疑っていなかった。
君は、私に声をかけられる前、自分のその手に持った財布の中身を確認して、『落とす奴が悪いんだ』と言っていたね。確かに、そうかもしれない。
あの時、私が指輪をマルジュに置き忘れなければ、シバウチヨウコが死ぬ事も無かったかもしれないのだから。
女は少年の顔を真っ直ぐに見て言う。
「私は、銀色の指輪の所有者だ」
無防備な、しかし意志を持った目で、女は続ける。
「シバウチヨウコの話を聞いている時、私は震えたよ。おそらく彼女は、私が指輪の所有者だとは気付いていなかっただろう。十七年前という大昔に比べると私は随分劇的に雰囲気も見た目も変わったからね。私の方も彼女の話を聞くまで、目の前の女があの時マルジュに居た店員だとは気付かなかった。何にせよ、私は結局最後まで、自分が指輪騒動の当事者である事を彼女に明かさなかった。私は動けなかった。事務所を立ち去り、死へと向かう彼女を引き止める事はできなかった。そしてシバウチヨウコは、指輪の真相を知らずに死んだ。彼女は、【自分だけが秘密を持っている】と思って死んだ」
女は、路地裏の入り口へと後ずさりしていった。
「人は難しい。周りの人間が知らないような事を知っていると、自分は全てを理解しているように感じてしまいがちだが、果たして本当はどれ程の事を知っているのだろう。そして、私の罪の告白は、まだ終わっていない。私の罪は、本当の罪は、指輪騒動の時、沈黙していた事だ。私は昔から、指輪をしていない方の手でコーヒーを飲む。食器を傷つけないためだ」
路地裏の入り口で、女は動きを止めた。
「全ての真実が、白日の下に曝される事はあるのか?私は指輪の真相を、君に委ねる。真相を暴くのも、暴かないのも、君の自由だ。ここまで話してみて思うよ。決意を持ってここへ来て良かった」
言い終わると女は踵を返し、路地裏から出て行った。少年の視界から、女はあっさりと姿を消した。




