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『仮面の狂王』  作者: SORAスタジオ


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第1話:濁流の底から

ご訪問いただきありがとうございます!

この物語は、信じていた者たちに裏切られ、どん底に突き落とされた男が「絶対的な悪(王)」となって世界を屈服させていくダークファンタジーです。

※裏切り・復讐などのダークな展開を含みます。

ぜひ最後までお楽しみいただければ幸いです!

第1話:濁流の底から

激しい雷鳴が、夜空を切り裂いた。

視界を遮るほどの豪雨の中、アルスは崩れかけた石橋の欄干に背を預けていた。

胸からは流血が止まらず、雨水と混じり合って赤黒い泥となり足元を濡らしている。

「——ごめんね。」

目の前に立つ女性の顔は、降り注ぐ雨と霞む視界のせいでよく見えない。だが、その鈴を転がすような美声だけは嫌というほど耳に焼きついていた。かつて誰よりも信頼し、心から愛したはずの女の声だ。

「……なぜだ……リア……」

ドス、と鋭い衝撃が腹部を貫く。

女の手によって突き飛ばされたアルスの身体は、浮遊感と共に夜の闇へと躍り出た。

視界が激しく回転する。落ちていく一瞬、蒼白な雷光の中でアルスは見た。

欄干の上で冷たくもあり美しく見下ろすはずの女の顔の横顔が、雨が滴り涙のように悲しそうにも見えた。

ドボン、と重い水音が弾け、世界から少しづつすべての音が暗闇とともに消え去った。

◆

痛い。

全身の関節が悲鳴を上げているような激痛で、アルスは目を覚ました。

口から砂交じりの水を吐き出し、ゆっくりと身体を起こす。

そこは、街から大きく離れた河原の浅瀬だった。服はボロボロに引き裂かれ、胸の刺し傷は奇跡的に浅く川水で冷やされたせいか血は止まっていた。

「……生き、ているのか……」

自分の掌を見つめる。かすかに震える手。

助かった安堵も、死に損なった絶望も湧いてこなかった。胸の中に広がっていたのは、ただ果てしない「虚無」だった。

それからの日々、アルスの時間は止まっていた。

廃屋に身を寄せ、捨てられた食べ物を拾い、泥水をすすって生き延びる。生きる気力など一片もなく、心臓が勝手に動き、血が全身を巡っているから死んでいないだけ。

何故生きているかも分から無いまま、それでも息を吸い、最低限腹に満たしている。

かつて自分がどんな名前で、何を信じ、誰を愛し、笑顔をこぼしていたのか、最低な人生だったにもかかわらず、それでも仲間がいたあの頃が、遠い霧の向こう側の出来事のように思えた。

あの日が来るまでは。

◆

冷たい雨が降る夕暮れ時。

アルスは食料を探し、身を隠すようにして隣町の路地裏を歩いていた。

ふと、高級料亭の勝手口から、聞こえてきた話しが耳に入る。

何故か気になり壁に隠れながら、それでも力なく寄りかかる。そこにいたのは、上等なスーツを着こなし、堅気には見えない雰囲気を纏っていた。

「ええ、完璧に処理いたしました。あのおめでたいアルスは、川底に沈んでいきましたよ。」

そのスーツを着た男は口角を吊り上げ、人の生き死に快楽を求めるような微笑を浮かべていた。

右手には通信機らしき物を持っており、応答する声が微かに聞こえていたが、周りの雑音に消えていた。

「ふふ、本当におろかな男だ。自分の女にも裏切られ、その絶望の顔を拝んでやりたかったですよ。」

調子に乗るなと怒られたのか、苦虫を噛んだような嫌そう顔をした男は、それでもすぐにニヤニヤしながら、暗闇に消えていった。

その瞬間。

アルスの頭の中で、何かが弾けた。

(----ぁぁぁぁああああ!!!----)

記憶の底、深い霧の向こうから、温かな残像がフラッシュバックする。

大切だった誰かの笑顔。守ると誓った小さな手。血の海の中で冷たくなっていた姿——。

自分を陥れたのは、一番近くで支えてくれていたはずの女だった。

そしてその裏の何かがアルスをはめ、川に突き落とした。

彼らはアルスの「忠誠」を嘲笑い、利用し、肉片すら残らず、骨の髄までしゃぶり尽くした挙句、噛んだガムの様に道端に捨てたのだ。

(そうか……)

アルスは自分の顔を両手で覆った。

震えていたのは恐怖からではない。抑えきれない、凶暴なまでの殺意、憎しみ、怨みからだった。

善人が報われず、勝者が笑う。

綺麗な手のままでは、何一つ守れず、奪われるだけだ。

(この世界が、そうできているのなら——!!)

アルスはゆっくりと顔を上げた。

うつろだった瞳には、すべてを焼き尽くすような冷徹で禍々しい光が宿っていた。

あの女も、その裏にいる奴も、この狂った仕組みそも、国家だろうとすべてを恐怖と圧倒的な力で屈服させる「絶対的な悪」になってやる。

嵐が吹き荒れる路地裏で、後に歴史上最も恐れられ、そして愛されることになる「冷酷なる狂王」が、静かにその第一歩を踏み出した。

(第1話・完)

第1話を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

絶望の底から立ち上がったアルス。

自分を裏切った女・リアの「悲しそうな横顔」の真意とは? そして陰で嘲笑っていた通信機の男の正体とは——?

もし「続きが気になる!」「面白い!」と思っていただけたら、下にある【ブックマーク登録】や【評価(★★★★★)】をいただけると、執筆の大きな励みになります!


次回(第2話)は、2週間後に更新予定です。よろしくお願いします!

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