突然の退去勧告
年が明けた。
理子さんが初詣に行ったことがないというので、僕と紬で説得して、元旦は三人で出かけた。
理解できない異文化を体験する顔の理子さんが面白かった。
紬の新学期も始まり生活サイクルが整ってきた頃。
夜、紬が眠ってから、僕は冷蔵庫と睨めっこしながら翌週の献立を考えていた。
理子さんが、話があると言ってリビングから僕を呼ぶ。
ダイニングテーブルで向かい合って座った理子さんは、ものすごく居心地の悪そうな顔をしていた。
良い話ではなさそうな様子に、僕は居住まいを正す。
「……あの」
理子さんは言いにくそうに切り出した。
「そろそろ、出てって、ほしいの」
寝耳に水の要望に、僕は目を見開く。
俯く理子さんとは視線が合わない。
逸る心臓を宥めながら違和感を拾う。
いつもの理子さんなら、自分で納得して決めたことに、こんな言い方はしない。
一月に入った頃から少し理子さんの様子がおかしかったことには気づいていた。
元々少ない口数が減った。
今までなら怒られていたことに怒らない時があった。
紬がご飯を作った時のリアクションが薄い。
「……理由を、聞いてもいいですか」
「後見人の選任も済んだし、もう、結婚してる理由がないでしょ」
「でも急すぎます。僕が、何か怒らせること、しましたか」
「そうじゃないわ。ただ、もう離婚したいだけ」
「理由を教えてください」
つい詰めるような強い口調になってしまい、慌てて口を噤む。
遅かったようで、理子さんは唇を噛んで顔を赤くした。
「もう、私の家から出てってって、言ってるの。
明日離婚届出してくるから、住むところ見つかり次第、出てって」
そう言い捨てて寝室に引っ込んでしまった。
己の不手際に僕は頭を抱える。
(……下手くそか……)
理子さんは、相手が自分より弱くないと感じると、途端に頑なになってしまう。
失敗した。もっと、違う聞き方をしなければいけなかった。
このままでは僕は明日、高遠奏汰に戻り、理子さんとは他人になってしまう。
とりあえず僕は勝手にリビングの棚の引き出しを開け、離婚届を隠匿した。





