2-10 暗殺の極意
「じゃあ仕上げと行きますか」
イベントもいよいよ最終日。同時に、軍基地の戦いも終盤だ。ほとんどのサバイバーは、数がいればどうにでもなると突っ込んできて返り討ちにあった。夜という環境の恐ろしさを理解したつもりでも、大集団に膨れ上がってこのサーバーで強者として君臨していた増長を抑えられなかったらしい。けどそんな集団の意識に惑わされることなく、止まり続けたチームがひとつ。音からして4人。もしかしたら普段から固定で組んでいるパーティーかもしれない。そんなことを思いながらこっそり様子を伺うと、どこかで見たことあるような顔と装備のサバイバーだった。
「あー、そっか。さっきニアミスした人たちか」
別のサバイバーの拠点を襲撃していたグループだ。随分装備が整っているとは思っていたけど、やはり軍基地のサバイバーだったか。となると、運や立ち回りだけじゃなく実力もかなり高い。
「いいねぇ」
あのときは勝てる盤面でなかったから身を引いた。けど軍基地内部は開けた場所も多いとはいえ街路ほどではなく、十分に渡り合えるはずだ。
私が静かに観察する視線の先で、サバイバーたちは屋外の開けた場所で陣取り、互いに背を向けて死角をカバーするように布陣している。厄介な動きだ。こっちがデモンズ種だってことはばれているはずだし、ああやって開けた場所で全方位警戒されたら手出しのしようがない。姿を見せた途端に撃たれて終わりだろう。けど、サバイバーたちもこのまま凌ぎ切ることはできない。再び夜になれば、暗闇によって警戒網は崩れる。だからそれまでには動くはずだし、私もあちらに合わせて臨機応変に仕掛けることになる。
で、問題はどう動くか、だ。5時間の長丁場もいよいよ終盤。ここまで生き残ったなら最初はその気がなかったとしてもランキング上位を意識するし、慎重になっているはず。
合理的なのは、私を倒すことよりも撤退すること。キルを稼ぐのが目的の私と違って、サバイバーにとって最優先は生き残ることだ。わざわざ私に挑むリスクを取る理由はないし、どのみち4人では維持もできない軍基地を放棄して逃げるのが正解だろう。
もっとも無策で逃げるようなら背中を刺すだけだけどね。
私は接近できなければほとんど何もできないけど、間合に入れれば4人相手でも一気に落とせる。安全に逃げようと思ったら、結局最良なのは私を排除することで、最低でも居場所を特定して不意打ちされない脱出ルートを決めないといけない。
方針が決まったのか、1分くらい経ってサバイバーたちが動き出す。
まず使われたのは【ビーコンシュート】。索敵スキルに探知されたのを【逆探知】が知らせる。【セカンドサイト】じゃ広い軍基地をカバーし切れないし、縦に広い索敵範囲を持つ【ビーコンシュート】を繰り返し使って炙り出すつもりだったのだろう。その1発目で私の居場所を当てたわけだ。
けど、動かない。私も、サバイバーも。デモンズ種には索敵スキルに反応するダミーがあるから、それを警戒しているな。1発で当てたことがかえってダミーを想起させている。
「慎重だね」
けど、その慎重さが結果的に仇になった。デモンズ種は障害物を避けて動くのは得意だけど、直線での移動速度はそこまでじゃない。場所を特定された上で逆側に逃げられたら追いかけて倒すことはできなかった。
30秒が経過して、再び同じ場所に【ビーコンシュート】が使われる。しかも今度は、セットで手榴弾を投げられた。直接狙えなくても至近で爆発は動かざるを得ない。それを探知で視認するつもりだったのだろう。安全圏を確保しつつダミーかを確認する中間択。ダミーを残して移動していなかったら詰んでたな。でも、切り抜けた。
今度の隠れ先はサバイバーの位置からでは直接見えず、手榴弾でも狙えない場所だ。代わりにこっちからの視認もできないけど、【聴覚強化】で聞くことはできる。4人全員が隠密スキルを取っているなんてまずあり得ないし、動けば足音でわかるはず。
「こっからは我慢比べだね」
結局のところ、あちらが移動してくれないと仕掛けられないし、向こうもそれは理解している。だから、もう敵がいないなと油断するまで、忍び続ける。どっちが先に動くかの我慢比べ。けど、条件は全然平等じゃない。
敵がそこにいる、と知っている私と、まだいるのかもわかっていない相手とじゃ、状況の認識がまったく違う。私は動かないことが正解とわかっているけど、あっちはそうじゃない。私が潜み続けているだけで、相手は勝手に疑い出す。無造作に置かれたダミーは放置されたもの。敵はとっくにどこかへ行ったのではないかと。しかも暗くなるまでに次の籠城先を固めないといけないタイムリミットつき。
「動いた」
待つこと5分。慎重な足音は、まず私の配置したダミーの真偽を確かめてから離脱するつもりのものだな。頭の中で地図と音の情報を照会して敵の動きを描き、未来を見通す。別に難しいことじゃない。離脱するにしろダミーに向かうにしろ、取るルートは先に予想していた。もちろん、それぞれに対応する動き方も。臨機応変ってのはノープランって意味じゃない。考えられる可能性を洗い出し、それぞれに対応する手立てを用意しておくって意味だ。
事前に設定しておいたルートに沿って移動する。敵が襲撃ポイントに到達するまであと5秒。私は3秒早くつく。十字路での角待ち。どれだけ警戒していようが、完璧な奇襲には対応できない。
先頭のひとりが沈む。後続が放つ銃弾の雨あられを受けぬように射線を切り、即座に離脱。狭い通路だ。真っ向勝負をするつもりはない。
これでひとり。毒でくたばったので蘇生は不可能。【セカンドサイト】が使われたので偵察兵は生きているみたいだけど、もう今更だ。これで30秒は使えない。私は移動の音を聞き続けている。それだけじゃ情報精度は悪いけど、脳内地図と照らし合わせれば正確に捕捉可能。入念な下準備と経験が支える情報アド。敵の動きから移動先を予測し、最適な攻撃箇所を見極めルートを策定する。
「ここまできたらひとりも逃さないよ」
次の襲撃箇所は天井を這うパイプの隙間からだ。デモンズ種しか通れず、知らなきゃ絶対に気づけない真上からの強襲。無音で落下しながら、触手を伸ばして今度は2人同時に毒を刺す。残ったひとりが素早く銃を構える。いい反応。けど、手にしたショットガンは倒れるサバイバーの体が邪魔して届かない。その両サイドから触手を伸ばす。右か左の2択。どっちを撃とうが逆で仕留める。
手応えあり。どさり、どさりと3つの体が倒れる。
「ふう」
残心し、まだ生き残りがいないかを音で判断。周囲に私以外の発生源はない。ようやく軍基地内のサバイバーは全滅できたと思っていいだろう。身じろぎもせず隠れ続けているやつがいたら知らん。
「ああ、もう夕方か」
なんだかんだ4人組にかなり時間をかけてしまったようだ。窓の外に見える空の色が、少しずつ赤みを帯び始めている。これなら彼らを無視して他を探した方が効率が良かったかもだけど、まあ今更だ。大勢力を全滅させられた、で良しとしよう。
さて、長丁場だった初めてのイベントもいよいよ最終盤。とはいえまだ、ミュータントに有利な夜の時間が残っている。だったら最後まで暴れてやる。私は迷いなく軍基地の敷地外に出ると、次なる獲物を求めて闇に呑まれ始める街に飛び出すのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
これに手本作は完結とさせていただきます。
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