第46話 第二の影武者騒動
第46話 第二の影武者騒動
その日の昼休み。
俺の回りには、沙織を含むグループ6人の女子と、俺のグループ男子5人(この前のカラオケ組で一緒になった奴ら4人と俺)で、合わせて11人もの大所帯が集まった。
特定の話題を提示して招集されたのではなく、女子6人のグループとお近づきになりたい男子4人組が、
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」って訳で、俺にすり寄ってきたというのが正解だ。俺は馬かよ。
女子6に、男子1というバランスの悪さが解消できるから、女子たちもノリ良く男子の合流を受け入れた。
どうやら俺は、お一人様解消どころか11人のグループのトップに祭り上げられてしまったようだ。
ああ、面倒くさい。
まあ、みんなで一緒に飯を食うのは、一人よりはずっと楽しいが。
「おいおい、またパーチンのニュースが更新されたぜ」
「あ、アタシも今見てる。
また一人別の影武者がパーチンを裏切ったっていう見出しが出てる。ユーチューブで」
何でも今度はパーチン大統領が、先の影武者騒動を否定するために、
「西側の策謀に踊らされるな国民よ」
と、ラシア国民に結束を訴える、緊急会見が開かれた場でのハプニングらしい。
かなり熱の入った演説で、諸悪の源泉は、ラシアを目の敵にするイメリカと欧州が結託したNATOにあるとし、この困難の中今こそラシア国民が結束する時だとパーチンは主張する。
我が国は現在、様々な経済制裁と称する嫌がらせを受け、罪なきラシア国民は困窮の中にあるが、中つ国、エラン、べラルーシ、中南米、アフリカ諸国の理解と協力を得て、エクライナに対する特別軍事作戦を引き続き戦い抜くとパーチンは宣言した。
予め演説会場には、パーチンのシンパやバイト連中が集められているようで、パーチンが声を張り上げるごとに、
「「「ウラー!」」」と、大合唱する。
まるで指揮者の指揮棒に合わせて、演奏しているようにしか見えない。
「さて諸君、最後に私の髪の毛が地毛であることを証明してみせよう。
あ君、そう君だよ。この壇上に上がって私の髪を引っ張ってみてくれないか」
パーチンはそう言って、民衆の中からとてもウソを言いそうにない、汚れなき天使のようなブロンドの女の子を手招きする。
それに答えて壇上に上がった可愛らしい少女に、パーチンが頭を差し出すと、
「髪の毛を引っ張ってもよろしいのですか、パーチン大統領閣下」
と、見た目にふさわしい可憐な声で少女が確認する。
「良いとも、強く引っ張ってご覧。遠慮はいらないよ」
パーチンのその返事に答えて少女が髪を引っ張ると、あらら見事にヅラが取れてパーチンはハゲ頭になりました。
この後の展開は前回と同じで、パーチンが懺悔の言葉を漏らし、大衆に向かってひざまづくやいなや兵士らしき者たちに拘束され、何処かに連れ去られてしまった。
生中継は突如中止され、TVは真っ白くなりラシア国歌が流される事態となったらしいが、これをクレムリンはどう説明するのだろうか。
「ラシアは一体どうなってるんだ」と、村田君。
「この影武者騒動も、ひょっとして仲村くんの予想通りなの」と、おそらく高橋さん。
「そんな訳無いだろ、俺は至って普通の男子高校生なんだから」と、俺。
「普通じゃないよ、お前は。
中間テストで突如第4位ていうか、実質学年トップじゃねえか、もしかして」と、男子の誰か。
「そうかも、仲村くんとさおりんが学年ワンツーだよ」と、高橋さんか鈴木さん以外の女子。
また中間テストの話になってしまったのは遺憾だが、影武者騒動の予知をしたとかを追求される方が面倒なので流れに任せることにした。
最後の授業が終わって帰り支度をしていると、ささっと沙織が近づいてきた。
「今日はコウタの家に寄らせてもらうわよ。フライに、事の次第を確かめなきゃいけないんだから」
なんとも楽しそうな沙織を、ここで断ると大声を上げそうなので、やむを得ずその申し出を了解することにした。




