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虹色の布を追いかけて敵国に捕まってしまった私は、本国よりも良い環境の中で、将軍に愛される  作者: 高取和生@コミック1巻発売中


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7/8

再会

リブロの布に書いた手紙は、オラニアに届いた。

ロイザーがオラニアを追って旅立った後、リブロの元に訪れる者がいた。

◆故国◆



 ロイザーがモブシアンへ旅立って、数日たった。


 オラニアが帰ってくるまで、絶対この家を守ろうと、リブロは決意していた。

 毎日教会で祈り、年下の子どもたちの面倒を見て、家に帰ってから掃除や洗濯をする。

 一緒に付いてきてくれた侍女は、高齢の域だ。侍女の足腰に負担をかけてはいけない。


 オラニアが居た時は、当たり前のように、全てやってもらっていた。

 それがどんなに有難いことだったのか、ロイザーは今更ながら噛みしめる。

 オラニアがいつ戻って来ても良いように、オラニアの部屋も機織り機も、毎日埃を掃っている。

 

 今こそ自分がやるのだ。

 リブロは嫡男なのだから。

 家族はもちろん、本来ならば、領地や領民を守る者なのだ。


 その日の晩、リブロは遅くまで繕い物をしていた。

 ズボンの膝が擦り切れてしまっていた。

 リブロの運針はまだ覚束ないものの、擦り切れた箇所に端切れを当てることは、なんとか出来た。


「ふうっ。姉さんほど上手くないけど、まあいいや」


 リブロがひと息ついた時である。

 風がドアを揺らしたように感じた。


 カタン、カタン。


 風の音ではない。 

 それは、誰かが、ドアをノックする音だ。


 リブロは裁縫箱から鋏を一つ持ち、静かにドアに向かう。

 戦争が終わってから、見知らぬ人々が村の中を往来している。

 盗みは横行し、治安の低下は甚だしい。


 ガタン、ガタン。


 ノックの音は先ほどよりも大きくなる。

 リブロは意を決し、低い声で言う。


「誰だ!」


「わたしだ、イシリスだ」


 

 えっ?

 イシリス?


 そんな!

 まさか!!


 ドアの向こうから聞こえる声は、確かにイシリス・インフィニィのものである。

 リブロとその姉オラニアの、実の父親が生還したのだった。




◆縁◆



「わざと、だったと思う」


 デアトリーは俯きながら言った。

 

 ここはモブシアン国のデアトリー邸だ。


「わざと……鍵を盗ませた、そういうことですか?」


 オラニアの問いに、デアトリーは頷く。

 いつもよりデアトリー顔の陰影が濃い。


 夕食後、デアトリーの自室で、二人はお茶を飲んでいた。


 繭が取れる木の葉は、乾燥させると茶葉になる。

 かつてオラニアが過ごしていた領地では、平民たちがよく飲んでいた。身体にも、良いお茶と言われている。

 戦争後の処理で疲労している、デアトリーの部下たちに勧めてみようかと、二人で相談していたのだ。


 ふと、デアトリーが、少年兵として捕まった時の話になる。

 

「インフィニィという師団長だった」


 オラニアのカップが音を立てる。


「自分にも、娘と息子がいる。年若い者を無下に扱えない。彼はそう言っていたんだ」


 デアトリーは顔を上げ、オラニアを見つめる。


「インフィニィ師団長、彼は……君の……」


「父、です。イシリス・インフィニィは、私の、私と弟の父です」


 オラニアは一粒、涙を落とす。

 デアトリーは、彼女をそっと抱いた。


「感謝する。君の父上に……。俺を救ってくれた。そして何より」


 デアトリーの腕に力がこもる。


「君を、育ててくれた」


 デアトリーの胸は厚く温かい。

 幼い日に抱かれた、オラニアの父と同じだった。




◆父と母の真実◆



 父と息子はしばし無言で、互いに抱き合った。

 イシリス・インフィニィは、息子の背の高さに驚いた。


「デカくなったなあ」


 破顔一笑。

 イシリスの表情は昔のままだ。

 だが、身体は変貌している。


 利き手の腱は切られ、左足の膝は、粉砕されたのか動かない。

 一騎当千の働きは、もはや望むべくもない。

 叙爵も断ったと父は言った。


「すまんな。お前のことを考えたら、男爵くらい貰っておくべきだったか」


 リブロは思いきり首を横に振る。


「そんなことは些末なこと。とにかく、よく、よく帰ってきてくださいました」


 命があっただけで良い。

 リブロの本音である。


「戦争が集結し、ペトラーダの軍規違反で、独房に収監されていたところを、解放されたのだ。モブシアンからの指示、というか命令だったようだな。ところで、オラニアは?」


「それが……姉さんは……」


 リブロはオラニアは捕まって、まだモブシアンから戻って来ないことを告げた。

 

「なるほど。『繭の森』か。モブシアンの武器工場がある場所だからな」


「そうでしたか。道理で今も、鉄線があちこちに張ってあります。実は、何日か前に、その鉄線に布を巻いておきました」


 今日、教会からの帰りに、リブロは一度森に入り、巻いた布の有無を確かめた。


「僕が巻いた布は、なくなっていました。布には姉さんの名前を書きました。もしも、もしも姉さんに届いたなら、きっと返事が来るはずです」


 返事が届くとしたら、同じ森の中であろう。


「僕はこれから毎日、森に通います。モブシアンの兵士が来たら、僕も一緒に連れて行ってもらいたいのです」


「そうか。……わたしも一緒に行こう」


「えっ! 良いのですか?」


「爵位だけではなく、領地も失くした今、最早、この国に未練はない」



 その夜、親子は久々に、枕を並べて寝た。

 どうしても、リブロは父に訊きたいことがあった。


 母のことである。


「リブロ。母を、我が妻を、どうか許してやってくれ」


 リブロは無言だ。

 せめて母が一緒にいたら、オラニアの苦労も半減しただろうに。


「お前たちの母は、出奔したのではない。お前たちを、捨てたのではないのだ」


「!」


 リブロは暗闇の中で息を飲む。

 父を、姉と自分を見限って、母は逃げたと思っていた。


「私の命を助ける代わりに、彼女は王の後宮に入った」


 リブロの胸が苦しくなる。

 後宮ということは、王の側妃になったのか。


「この度の戦の責を取り、王は退位し、王妃と隠棲する。側妃たちがどうなるか、それは分からん」


 リブロは枕に顔を埋めた。

 

『戦は嫌よ、リブロ』


 姉の声が耳元で蘇った。

いつもお読みくださいまして、誠にありがとうございます!!

いよいよ大団円。

誤字報告、感謝です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お父さん!無事に帰還できたー! しかし、それはお母さんの……。 なんとも切ない!わーーーーん。 後宮解散になって、戻ってきてーーーー! [気になる点] そして、オラニアとデアトリーは心を…
[一言] お母さん……!(ブワッ)
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