第五話 -10
夕焼けに染まる元藤道場内に、黒い霧が立ちこめる。
そこから出てきたのは、巧、陽芽、かなめ、白宗の四人。
「戻ってこれた……」
「はぁ……はぁ……」
気が抜けたのか、座り込む巧。陽芽はまだ息が上がっている。
「追いかけてくるか……?」
「大丈夫だと思う。追いかけてくるなら、地上に出るまえに追いつかれてる」
「逃がしてもらった、みたいな感じだな……くそっ、まだまだ力が足りねぇ……!」
悔しそうに自分の拳を見る白宗。
足音が聞こえてきた。
「おう、ここにおったのか。返事がないから勝手に上がらせてもらったぞ」
「なずな!」
「……なんじゃ?みんなで訓練でもしておったのか?」
巧は、今までのことをなずなに話した。
「そうか、玄十郎殿が亡くなられていたとは……陽芽殿、玄十郎殿から何か預かっているものはないか?」
「え?……あ、形見としてこれを持ってますけど……」
陽芽が黒い勾玉を見せる。
「うむ、それじゃ!やはり陽芽殿に渡しておったか!」
「それ、何なの?」
巧が聞く。かなめも興味ありげだ。
「簡単に言えば、水を司る玄武の気の塊じゃ。これがあれば、わざわざ玄武の協力者を探さずにすむ」
「へぇ~。んじゃ最初からこの勾玉を探せば……」
「いや、他の勾玉は存在せぬ。オロチが破壊したからのぅ」
「えっ!?」
「まぁそのへんの話は長くなるからまた今度ということにして、その勾玉は新たに玄十郎殿が作られたものじゃ」
「……んじゃ他の勾玉も作ってもらえれば……」
「簡単に言うでない。鍛練に励み、強大な力と強靭な精神力を手に入れた者でないと作れんのじゃ」
「……玄十郎さんってすごい人だったんだね……」
「うむ。で、陽芽殿。ものは相談なんじゃが……」
なずなが陽芽の方へ身体を向ける。
「その勾玉、わしらにお貸し願いたい!」
土下座。きれいな土下座。
「えっ……?でも、これは……」
「わかっておる!大事な形見なのは重々承知じゃ!じゃが、オロチを倒すには、どうしてもその勾玉が必要なんじゃ!」
「………」
陽芽が困ったようにうつむく。
「あ、そういやおっぱいの姉ちゃんよぉ」
白宗がなずなに話しかけた。
「……さっきからいるのはわかっておったが、なんじゃこのセクハラ男は?目線が常にわしの胸なんじゃが」
「仮子白宗さん。かなめと一緒に助けにきてくれた……って、さっき説明したじゃん!」
「ふむ。で、そのエロ宗さんが何の用じゃ?」
「オロチと戦ったとき、あいつ嬢ちゃんを見て動きを止めた……何か知らないか?」
「オロチが……?……そういえば、玄十郎殿が言っていた気がするのぅ。『孫はオロチの暴挙を止める切り札になるかもしれん』と」
「おじい様が……?」
「……あれ?それ、俺もじいさんから聞いたことがあった気がするな」
「……何かむかつくのぅ、エロ宗さん」
巧が、まぁまぁ……となずなをなだめる。
「ごほんっ!……気を取り直して……では陽芽殿、わしらに協力してもらえぬか?」
「え?」
「通常はスサノオとの相性で決めるのじゃが、玄十郎殿から勾玉を託されたとなれば話は別じゃ。玄武を名乗る資格がある。
本当は勾玉だけお借りして巻き込みたくはないのじゃが……玄十郎殿の言葉も気になる。オロチの反応からして、もしかしたら本当に止められるかもしれん」
「でも、うち戦いとか無理ですし……」
「大丈夫だ。俺が稽古つけてやる」
「白宗さん……」
「じいさんが嬢ちゃんにそれを託したのは、きっと何か意味がある。やってみないか?じいさんのためにも」
「…………」
悩む陽芽。
「……わかりました」
「おお、協力してもらえるか?」
「はい。どこまで出来るかはわかりませんが」
「大丈夫じゃ。すべてスサノオである巧がちょちょいっとやってくれる」
「ちょっ……簡単に言わないでよ、なずな!」
「大丈夫だ。スサノオも一緒に鍛えてやる」
「えっ!?」
「弱すぎだ」
「一緒に頑張りましょう、空島さん」
「………」
陽芽がやる気まんまんの目で見てくるもんだから、嫌とは言えない巧であった。
「さて、残りは白虎だけじゃな」
「なずな……」
「何じゃ、かなめ?」
「白虎……」
かなめが白宗を指差す。
「やつは白虎ではない。スケベ大王じゃ」
「でも、ランク6」
「……ランク6じゃと!?そんなにエロいのか!!」
「………」
「……冗談じゃ。ふむ、見たところ『金』の気のようじゃし、問題は巧との相性じゃが……最悪、勾玉作らせてポイするか……」
「全部聞こえてるからな……まぁ話はよくわからんが、嬢ちゃんが協力する以上、俺も協力させてもらうぜ。じいさんから嬢ちゃんを頼まれてるんでな」
「……よかろう、よろしく頼む」
握手を交わす二人。
「やはり胸はでかい方がいいよな」
「だまれエロ宗」
夜。なずなの部屋――
「これで全員集まったね」
巧がつぶやく。
「じゃが、これからが本番じゃ。巧がこちらの世界にくる直前に、オロチから『計画は最終段階だ』と言われた。あまりのんびりはしてられぬぞ」
「明日から仮子さんの修業始まるよ」
「道場に泊まり込みか?」
「うん」
「そうか、寂しくなるのぅ。ところで……」
テレビには『K.O.』の文字が。
「ちょっとは手加減せい!」
なずながPS2のコントローラーを投げ捨てる。
「ぬああああっ!一回も勝てぬとは!」
「あはは、数年前に似たようなゲームあって、けっこうやりこんだから」
「数年前じゃと!?こちらではつい最近発売されたものじゃぞ!どんだけ差があるんじゃ!」
「PS4とか出てるよ」
「巧、なぜ持ってこなかった!!」
「無理でしょ……」
夜が更ける――
次の日から、仮子白宗による修業が開始された。




