番外編 白虎 -1
『勝者、ガイアっ!』
アナウンスが俺の勝ちを宣言する。
「もっと強いやつはいねぇのかぁ!!」
俺の叫びに沸き上がる歓声。
これで何十連勝目だ?もう覚えていない。
ラインファイト。
五行使い達の闘いの場だ。たまに五行が使えないやつもいるが。
もともとケンカっ早く、知らない野郎との衝突は日常茶飯事。場合によっちゃ警察にお世話に~なんてことをやってた俺にとって、この大会は天国だった。
ケンカして金もらえるなんて、楽な仕事だぜ。
もちろんこれは、天変地異後『金』の五行が使えるようになったおかげだ。
どうやら気の使い方がうまいらしく、ランク4になるまでさほど時間はかからなかったしな。
今じゃチャンピオンのさらに上、レジェンドと呼ばれている。負けることを知らない、俺のための称号だ。
「今日も勝ちか?」
控え室に戻った俺に、一人の男が話しかけてきた。
「よう、久しぶりだな」
男の名は、ブラズ。もちろんリングネームだ。本名は知らない。
こいつと俺は、同じ時期にラインファイトへ参加した。気も同じ『金』ということもあってお互い意識し、競いあったライバルだ。
「最近ランキング上がってきたな。そろそろおまえがチャレンジャーとして挑んでくるか?」
「はっ!なんならここでやりあったっていいんだぜ?」
「………」
相変わらず血の気が多い。が、それは俺も一緒だ。
てめぇがそう言うなら、今すぐここで――と、言いたいところだが……
「悪ぃが、今日はこれから用事があってな」
「怖じ気づいたか、ガイア?」
「行くところがあるんだ。ケンカならまた今度買ってやるよ」
「……ちっ」
ブラズはさっさとどこかへ行ってしまった。
ファイトマネーでためた貯金をおろし、柳市の西に位置する百戸区へと移動。
街でおもちゃやら何やらを買い込み、それを持って、夕焼けに染まる町外れの小高い丘を目指す。
そこにあるのは、孤児院。
その玄関前に買ったものと残った現金を置き、そそくさと――
「白宗」
帰るつもりが、声をかけられた。庭の方からだ。
「仮子 白宗……でしょう?」
そこにいたのは、白髪混じりのばあさん。……ここの院長だ。
「……お久しぶりです、先生」
返事をかえす。少し照れくさい。話すのは何年ぶりだろう。
俺はこの孤児院の育ちだ。物心ついたときにはここで暮らしていた。
今の俺からわかる通り、先生達にはずいぶんと迷惑をかけた。ここを出ていくときも、追い出されるような感じだった。
「毎月お金といろんなものを置いていたのは、やはりあなたでしたか」
他の先生達には怒られまくったが、院長だけはいつも優しかった気がする。柔らかな話し方は、今も変わっていない。
「俺にできることは、これくらいですから」
「いいえ、とても助かっていますよ。ありがとう。あの天変地異のあと、ここで面倒をみている子が増えましてね。やりくりがなかなか大変なんです。
そういえば、咲もここを出て富士取区に住んでいるはず。会いましたか?」
「咲が?」
大神 咲。
俺よりいくつか年下の、一緒にここで育った女の子――いや、今はもう女性というべきか。
「いや、会ってないです」
「そうですか。あそこは活気はありますが、物騒なニュースもよく聞きますから少し心配でね。五行使えるから大丈夫だ、なんて言ってましたけど」
咲も五行使えるのか。
昔はかなりおてんばだったが、まさかあいつもラインファイトを………まさかな。第一、咲っぽいやつを見かけたことがない。
「咲の連絡先、教えましょうか?」
「いや、今更そんな話すこともないですし」
「一緒に過ごした家族ではないですか」
「俺はみんなに迷惑かけるだけかけて出ていったバカ野郎ですから」
「それでも、ここで育ったことにかわりはありません。それに、家族に迷惑をかけない人なんて、どこにもいませんよ」
「……」
ああ、やべぇ……ちょっと泣きそうだ。
この孤児院は、この人は、乱暴者のバカを今でも優しく受け入れてくれるのか……
「先生、夕ご飯の準備が――」
孤児院から一人の女の子が飛び出してきた。客が来てるとは思わなかったのか、俺を見てきょとんとしている。
「ああ、みちる。ありがとう」
先生が女の子に話しかけ――
「みちるっ!?おまえ、みちるかっ!」
女の子の名前を聞いて、俺が大声を上げてしまった。
「え?は、はい……」
女の子がおずおずと答える。……おびえてるようにも見えなくもないが。
みちる。
俺がまだここにいた頃は、まだ物心もついてないようなチビだった。ずいぶん大きくなったなぁ。
「みちるは覚えてないかもしれませんね。この人は仮子白宗。あなたがまだ小さい頃にここを卒業していった、先輩ですよ」
院長がみちるに俺を紹介すると、みちるが少し安心したような表情になる。
「あの……先輩も一緒にどうですか?」
「え?」
「夕ご飯です」
「いかがですか、白宗?たまには一緒に――」
「いや、俺は――」
とっさに断っていた。
嫌なわけじゃない。ただ……心の準備ができていないんだ……優しさの中に身を置くことに慣れていない……
「……またいらっしゃい。待ってますよ」
院長がそれを察したのか、声をかけてくれる。
「……はい」
「いってらっしゃい、白宗」
「………いってきます……」
俺は孤児院を後にした。
富士取区に戻った俺を待っていたのは、荒くれ者共の鋭い眼差し。レジェンドの称号はダテじゃない。
……いいねぇ、この殺気。緊張感。
『仮子白宗』が『ガイア』へと切り替わっていく。
そうだ。これが……ここが……俺の日常だ。




