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第五話 -1

クロスアークの件があった次の日――


巧とかなめは、柳市の北にある見府区(みふく)へと来ていた。


「えっと……こっちかな?」


巧の手には一枚の地図。なずなの手作りだ。


「……巧、こっちじゃない?」


「え?そっち?」


正直見づらい。

絵も下手だし、「ネコがよくひなたぼっこしている交差点を右」とか書いてある。ネコを目印にしてはいけない。

……ネコはいたので、とりあえず右折できたのだが……。


そんなこんなで到着することができた。


元藤道場(もとふじどうじょう)


時代を感じさせるような年期の入った門で、雰囲気ぶち壊しのチャイムを鳴らす。


ピンポーン――


『はい』


女の子の声が聞こえた。


「あ、えっと……」


巧が言葉につまる。


「……何て言えばいいんだ?」


「……さぁ」


助けを求めるも、かなめも何て言えばいいかわからない。


『元藤道場にいる、元藤玄十郎(もとふじげんじゅうろう)というじいさんに会ってこい』と、なずなに言われただけなのだ。


『あの……』


チャイムの先の女の子が困っている。


「えっと!あの!山田神社の者ですけど……元藤玄十郎さん、いらっしゃいますか!?」


巧が慌てて応えた。


『……どうぞ、中に入ってきてください』


通じたようだ。ほっと胸をなでおろし、巧とかなめは門をくぐった。



「いらっしゃい。どうぞこちらへ」


出迎えてくれたのは、チャイムで話した女の子だった。


着物を着た、物静かな雰囲気の女の子。体格はかなめと同じくらい。肩にかからないくらいに切りそろえられた黒髪が、さらに清楚さを感じさせる。


建物は外見同様、内装も純和風で、どこかの高級な旅館にでも来たような気分にさせる。

案内された客間も、もちろん和室。外には手入れの行き届いたきれいな庭が見え、心なしか入ってくる風がさわやかだ。


「どうぞ」


女の子は馴れた手つきで巧達にお茶を出す。


「あ、ありがとうございます」


「……」


かなめも無言でちょこんと頭を下げる。


「えっと……うちの名前は元藤(もとふじ) 陽芽(ひめ)といいます。玄十郎の孫です」


女の子が話す。


「あ、山田神社からの紹介で来ました。空島巧と、津薙かなめです」


「それで、おじい様なんですが……」


「あ、はい。玄十郎さんに会ってこいと言われて……」


「すみません。もう亡くなってるんです」


「えっ!?」


「もう七年くらい前になるでしょうか。オロチを倒すために世界中から腕に自信のある人達が集まったのを知ってますか?」


「いや、僕は……」


つい最近この世界に来たので……とは言えない。


「かなめは?」


「知らない……」


かなめはずっと入院していたうえに「いつ死んでもいい」と塞ぎこんでいたため、けっこうな世間知らずなのだ。


「オロチに気付かれないよう、人を集めるにも公にはされませんでしたから、知らないのも無理はありません。その戦いにおじい様も参加し、命を落としました。結果は……今の状況を見ればわかりますが、敗北です。これがきっかけで、人類はオロチへの抵抗をやめたと聞きます」


「そんな戦いがあったなんて……」


「ちなみに、おじい様にはどんなご用事で?」


「あ~……ただ『会ってこい』って言われただけなんですけど……おそらく協力を求めようとしてたんじゃないかと……」


「協力?」


「はい。僕達、オロチと戦う仲間を集めてて」


「えっ!?」


陽芽は、おそらく今日一番になるであろう大きな声で驚いた。


「し、失礼しました」


照れるしぐさもおしとやかだ。


「しかし、オロチと戦うだなんて……勝算はあるのですか?」


「………」


それは巧も正直不安だ。勝てる気がしない。しかし……


「助けたい人がいるんです。そのためには、オロチと戦うしか……」


「……そうですか……」


「それと、僕、なんか『スサノオ』っていうのに選ばれたらしくて」


「なに?おまえがスサノオ?」


そう応えたのは陽芽ではない。

いつの間にか、外には男が一人立っていた。


「よう、嬢ちゃん」


「いらっしゃい」


男の挨拶に、陽芽が笑顔で返す。


身長は190cmくらいあるだろうか。背が高い上に、鍛え上げられた筋肉がさらに身体を大きく見せており、野性的な感じがどこかブラズに似ている。


「この方は仮子(かりこ) 白宗(しらむね)さん。おじい様の知り合いです」


陽芽が巧達に紹介する。


「あ、こんにちは」


「………」


無精髭の生えたあごをさすりながら、無言で巧を見つめる白宗。


「……あの……えっと……」


「………よし!」


「え?ちょっ……!」


突然白宗は巧の腕を引っ張り、歩きだした。



連れてこられたのは、道場。


今まで稽古していたであろう道着姿の青年達十数人が、突然の来客にポカ~ンとなっている。


「またあなたですか……」


その中の一人が、白宗に近付いてきた。


「師範のお知り合いとはいえ、許容できないこともありますよ!」


だいぶ怒っているようだ。

が、白宗は気にした様子もなく、


「まぁまぁ、ちょっと場所貸してくれよ。すぐ終わるから。な?上里(うえざと)師範代」


下里(しもざと)ですっ!」


強引に下里を壁際に追いやる白宗。


「さて少年!」


巧と向き合う。


「素手でもよし!竹刀を使ってもよし!五行もがんがん使え!俺におまえの力を見せてみろ!」


「え、でも……」


「大丈夫だ!俺だって腕にそれなりの自信はある!さぁ来いっ!!」


「………」


実は戦えない……とは言えない雰囲気。


でも、とりあえず本気で戦うわけじゃないし……


巧は竹刀を手に取り、


「やああああっ!」


白宗へと走った。

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