第四話 -10
「咲さん!」
朱伽が咲に駆け寄る。どうやら咲は寝ているだけのようだ。
「じゃが、一時的とはいえオロチの思念に取りつかれたんじゃ。数日は眠り続けるじゃろう」
「生きててくれたなら……それでいいよ」
朱伽が咲に抱きつく。朱伽の目には涙が浮かんでいた。
「………」
その姿を、鈴音が見つめる。
「む?今おぬし、笑っておったか?」
「……笑ってないわ」
「いやいや、かなり穏やかな感じで――」
「うるさいわね。私は帰るわ」
鈴音は逃げるように姿を消した。
「かなめ、巧、大丈夫か?」
「僕は大丈夫だけど、かなめは……?」
「……調子よくない……」
「神器のひびの影響じゃろう。しばらくすれば治るはずじゃ」
そのとき、いくつかの足音が聞こえてきた。
「しまった!クロスアークの援軍か!?」
扉が開かれる。現れたのは、
「朱伽!大丈夫か!?」
「……阿坂!?三森も!」
「お迎えにあがりました」
この二人だった。
「早く逃げるぞ!第ゼロ部隊のやつらが集まってきてる!」
部屋には戦いの痕跡があり、教皇が死亡している。この状況を誰かに見られたら、巧達は完全に犯罪者扱いだろう。
しかも相手はクロスアーク第ゼロ部隊。即死刑でも不思議ではない。
阿坂が咲を抱き上げる。
「かなめ、乗って」
巧がかなめに背中を向ける。
「……うん」
かなめが巧の首に腕を回し、巧はかなめの足に手を回して、
「よっ、と」
立ち上がる。
「……ふらふらしとったが、大丈夫か?」
「だ、大丈夫だよ!」
なずなのツッコミにむきになる巧。ちょっとバランスを崩しただけだと付け加える。
実際、かなめは小柄なせいもあって、巧が思っていたよりも軽かった。
「みなさん、ついてきてください」
三森を先頭に、次々と部屋を出る。
が、
「……?静春、早く行くよ!」
動く気配のない静春に、朱伽が声をかけた。
「いや、おれはいい。ここであったことを伝えなきゃ」
「でも、犯罪者扱いされるかもしれないんだよ!?」
「姉を探すために侵入したとはいえ、おれはクロスアークの隊員だ。真実を伝えられるのは、おれしかいない」
「……捕まったら連絡ちょうだい。助けに行くから」
静春は、苦笑しながら朱伽の背中を見送った。




