第八話 -1
なずなの話は、巧達を混乱させるのには十分な内容だった。
「えっと……え?なずなって……何者?」
「わしはこの時代の者ではない。遠い昔の人間じゃ。……いや、人間じゃったと言うべきか。
オロチの首のひとつとして眠りにつき、封印が弱まる度にその時代のスサノオを探し、オロチの本体が目を覚ます前に封印し直す。そんなことをずっと続けてきた」
「んじゃ今僕の目の前にいるなずなは?」
「今回も同じようにスサノオを探し出し、封印してもらうつもりだったのじゃが……ちとトラブルが起きてのぅ。『転生の術』という反則ギリギリというかむしろアウトな術で、精神体のみじゃがオロチから抜け出し、転生したというわけじゃ」
「……もっと早くその術で抜け出したらよかったのに」
「痛いとこ突くのぅ、かなめ。オロチの中にいるのにもメリットはあったんじゃよ。オロチの本体が寝ている間は、わしとアマテラスは人としての意識を取り戻せたからのぅ。
それに、もともとオロチのことはずっと語り継がれていくはずが、今では知っている者はいないに等しいじゃろ?もしわしとアマテラスが転生して人間として生きて死んでいってたら、オロチを知る者もスサノオの存在を知る者もおらず、封印の解けたオロチを止めることが出来なくなっていたかもしれん」
「たしかに……」
「それに、『転生の術』とは言うが、実際は誰かの身体を奪う恐ろしい術じゃ」
「えっ!?んじゃなずな、その身体は……」
「もともとはこの山田神社の一人娘、『山田なずな』のものじゃ。
天変地異のとき、まだ幼かった山田なずなは瀕死の重傷を負ってのぅ。転生の術は誰にでもかけられるわけではないのじゃが、山田なずなはその条件を満たしておった。それで、命が尽きる前に取引したのじゃ。
わしは身体をもらい受ける代わりに、両親を悲しませないよう『山田なずな』を一生演じ抜くことを約束した。まったく、強い幼子じゃった。自分の死に直面しているときに両親の心配とは……」
「あ、だからなずなは……」
普段のなずなと家にいるときのなずなは、性格が違う。
普段はオロチ討伐のために奔走し、少しミステリアスでときどき妖艶な雰囲気なのだが、家にいるとどこにでもいそうな女子高生なのだ。何より、しゃべり方が普通になる。
「うむ。まぁたまに素が出そうになって焦るがのぅ」
今まで少し緊張していた空気が、ふっとゆるんだ気がした。
「でも、それならそうと言ってくれればよかったのに」
「タイミングを見て話そうとは思っていたんじゃが……」
なずながうつむく。その目は、今まで見たことないほど悲しい目をしていた。
「……恐くてのぅ……拒絶されるのが…………じゃがその結果、敵の口から知らされることになってしまった……本当にすまぬ」
深々と頭を下げる。
「ちょっ、なずな!そんな別にーー」
「もう一度……!もう一度だけ、わしと一緒に戦って頂きたい!頼れるのはおぬし達しかおらんのじゃ!」
なずなは頭を上げようとしない。
おろおろする巧を横目に、かなめがなずなに近付く。
そして、
「……えい」
なずなの髪をぐしゃぐしゃにしながら、なでた。
「……?……?」
突然のことに頭を上げ、はねまくった髪のままきょとんとするなずな。
「ボクも巧も、なずなの友達だから……協力するのは当たり前……」
「かなめ…………」
なずなの目に涙が浮かぶ。
「僕達だけじゃないよ」
その巧の言葉が合図だったかのように、建物の裏や木の上などから、静春、朱伽、白宗、陽芽が顔を出した。
「だいぶぶっ飛んでる話だったな」
「まったく……隠してないでちゃんと言ってくれれば何も問題なかったのに」
「まぁまぁ静春さん、朱伽さん。なずなさんにも事情があったんですから……うちは信用しますよ」
「ちょっ、陽芽ちゃん!あたし達が信用してないみたいな言い方しないでよ~」
「みんな……なぜここに……?」
びっくりした顔のなずな。
「巧が、なずなに話を聞きに行くまえにみんなに声をかけようって……」
「巧……」
「いや……まぁ……きっと話せばわかり合えると思ってたから……」
かなめにバラされ、巧は照れくさそうに目線をそらす。
「ありがとう……ありがとう……!」
なずなは、目の前にいるかなめを強く抱きしめた。
「むぐ……むぐむぐむぐ…………」
かなめが何をしゃべっているのかはわからない。が、
「……なずな、そろそろ放さないとかなめが……」
なずなの胸に顔が埋もれ、かなめは息ができていないはずだ。
「わしは……わしは……良き友人に恵まれた……!
オグナよ、見ているか?こやつらが今の……山田なずなの最高の仲間達じゃ!」
なずなの目からぼろぼろと涙が落ち、同時に、かなめの腕が力なくだらんと落ちた。




