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108 「美凰様に殺されます!」

 六日目には、直轄領の中央部へ入った。


 街道はさらに広くなり、地方から皇都へ物資を運ぶ車列が絶えなくなる。人間の商人だけでなく、仙人や夜叉(やしゃ)乾闥婆(けんだっぱ)、河童の姿もあった。


《華麟、あれは・・・。》


 前田が苦手な生物を見た顔をする。上半身裸の女が狐に乗って街を歩いていたら嫌でも目立つ。


《ああ、荼枳尼(だきに)ですね。》


《いや、そうじゃなくて、なんであいつらがここに・・・。》


《荼枳尼も公民ですから。》


《寛容過ぎない!?》


《四神や鳳凰、麒麟は人類じゃなくても公民権があるのに、人間や仙人と同じ人類の亜種に公民権が無ければ理不尽ですよ?》


 そう、この世界では人間も仙人も夜叉も乾闥婆も河童も、そして荼枳尼も、せいぜい犬と狼程度の違いしかないと思われているのだ。


 空には荷物を抱えた龍族や、鳥の姿で移動する鳳凰が行き交っている。確かに彼らに公民権があるならば荼枳尼に公民権があってもおかしくはない。


 宿に行くとやけに人だかりが出来ていた。


「おお、あれか!あれが素王様か!」


「鳳凰たちが死にそうな顔でこの宿に出入りしていたわけだ。」


「素王が来るという噂は本当だったんだな。」


 人々が口々に言う。


《あの二人、何やってんだ?》


《前田様、心の声が聞こえています・・・。》


「一昨日なんか、面白かったなぁ。『早く返事をくれないと美凰(みおう)様に殺されます!』と泣き叫んでいた鳳凰が宿屋の主人に頭を下げていたっけ。」


「一日に三回は別々の鳳凰が来るもんなぁ。」


 彼らの話を聞いて前田は華麟に念話を送る。


《宿を一軒取るだけで、どうしてこんな騒ぎになるんだ?》


《前田様を確実にお泊めいただけるまで、何度も念を押したのでしょう。》


 前田はため息をつきながら降りて、華麟も人間の姿になる。


「ごめんくださ~い!」


 前田は入口から声をかけるが、そうこうしている間にも野次馬が集まってきていた。


 前田が姿を見せた途端、宿の周囲にいた人々が一斉に入口へ押し寄せた。街道の向こう側にいた商人たちまで足を止め、荷車の上から首を伸ばして前田を見ようとしている。


 中には少しでも近くで素王を見ようと、宿の敷居を越えかける者までいた。華麟はすぐに前田と人々との間へ立ち、近づき過ぎた者を鋭い視線と手振りで追い払った。


 人垣はそのたびに少し後ろへ下がるものの、別の場所から新しい野次馬が集まってくる。華麟が追い払っても追い払っても、宿の周囲から人影がなくなることはなかった。


 宿屋の主人が出てきて言う。


「あんたが、鳳凰様方の言っていた前田弘貴(こうき)様か?」


「はい。こちらに部屋を取っていただいていると聞いたのですが。」


「わかった、とりあえずちゃんと部屋はあるから安心してくれ。あと・・・なんかあんたの身に何かあると数羽の鳳凰の首が飛ぶそうだ。」


「え?解雇ですか?」


 主人は静かに首を横に振り、言った。


「物理的な意味らしい。」

小説PickUp7週連続掲載、ありがとうございます!今後ともよろしくお願いします。


毎日3桁の人が更新していなくてもみてくださっていると、本当に感謝しかないです。

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