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第11話 「昨日の敵は今日の友? ツンデレ令嬢と闇への招待状」

【実技試験翌日:王立学園】

私のアシュトン学園生活は、一夜にして劇的に変化していた。

 

登校時の並木道。  


私が歩くと、まるで魔法みたいに、生徒たちが左右にざっと道を空ける。

 

その視線に含まれるのは、以前のような侮蔑ではなく、「畏怖」と「困惑」。


「見ろ、あの方が『魔法殺し(マジック・キラー)』のマリア様だ……」


「炎を素手で殴り消したって本当か?」


「目を合わせるな、一週間筋肉痛になる呪いをかけられるぞ」


「実は魔法使いではなく、人の皮を被ったドラゴンだという説も……」


囁かれる二つ名が、どんどん物理寄りかつモンスター寄りになっていく。  


私は深いため息をつきながら、逃げるように人気の少ない学生食堂へと足を向けた。


「はぁ……。ローズマリーさんが考えた『病弱で儚げな令嬢設定』は、もう粉々になっちゃったなぁ。……ま、いっか。とりあえず教室行こう」


私の切り替えは早い。  


今の私にとって、自身の評判よりも胃袋の平和の方が最重要事項なのだ。


                  ◇


【昼・学生食堂】

私は学生食堂の片隅で、山盛りのランチプレートと格闘していた。  


昨日の「実技試験(物理無双)」の噂は既に学園中に広まっており、周囲の生徒たちは遠巻きに「あれが……」

「まさか一人であの量を……」と私を珍獣のように眺めている。


視線が痛い……。でも、今日のメインの『特製ハンバーグ』は冷める前に食べないとシェフに失礼だよね。


肉汁溢れるハンバーグにフォークを突き立てようとした、その時だった。


「……ここ、よろしいかしら」


トレイを持った女子生徒が、向かいの席に立った。  


包帯を巻いた右腕が痛々しい、イザベラ様だ。  


いつも彼女の周りを取り囲んでいた取り巻きたちの姿はない。


たった一人。


「イザベラ様? お怪我、大丈夫ですか?」


「……ええ。魔力枯渇による軽い目眩だけですわ」


 気丈に振る舞っているが、彼女の包帯を巻いた右腕は微かに震えている。


「本当にもう、いいんですか?」


「もちろんですわ。医務室の食事があまりに質素で、耐えられませんでしたの」


イザベラ様はツンとした態度で椅子に座ると、優雅に、しかしどこか気まずそうにサラダを口に運んだ。

 

沈黙が流れる。

 

私が気を使って自分のハンバーグを差し出そうとした瞬間、彼女が口を開いた。


「昨日は……助けていただき、感謝します」


消え入りそうな声だった。


「わたくし、勝ちたい一心で周りが見えなくなっていました。もし貴女が止めてくださらなければ、わたくしは観客席の生徒たちを巻き込んで、取り返しのつかないことを……」


イザベラ様の手が震えている。  


私は直感した。


この子、高飛車で嫌味な性格だけど、根は真面目で責任感が強い「素直な子」なんだ。


「気にしないでください。私も、暴れる口実が欲しかっただけですから」


私が笑い飛ばすと、彼女はキョトンとし、それからフッと小さく笑った。


「……貴女、本当に変な方ね。噂の『公爵令嬢』とは大違いだわ」


そして、イザベラ様は居住まいを正し、真剣なまなざしで私を見つめた。


「どうしてわたくしが一人で来たのに、追い返さないんですの?」


「え? どうしてって……ここ、みんなの食堂ですし」


「わたくしは昨日まで、貴女をいじめていたのですよ? 決闘を申し込んだり……」


 彼女の声が震えている。


自分がしたことの報いを受ける覚悟で、ここに来たのだろう。  


私はフォークを置き、まっすぐに彼女の方を向いた。


「でも、昨日の試合中、イザベラ様は観客席に被害が出ないように、必死で炎を抑え込もうとしてましたよね」


「ッ……見ていましたの?」


「はい。暴走した魔力に振り回されながらも、貴女の魔力が必死に『止まれ』って叫んでた。……根っからの悪人の魔力が、あんな表情をするわけないです」


私の言葉に、イザベラ様はハッと目を見開き、そして唇を噛み締めた。


「お見通し……だったわけですわね……。魔力の質まで見抜かれていたとは……、初めから勝負はついていましたわね」


「そ、そんな! 私なんて魔法なんて全然ですし! たまたまですよ! たまたま!」


私は慌てて両手を振って取り繕った。


「イザベラ様の魔法はすごくきれいで、研鑽を積み重ねた魔法だって感じました。私なんかと違って、高潔な貴族義務ノブレス・オブリージュを立派に果たしている素晴らしい姿勢だと思います。今回の決闘も、家のためというその一端でしょう? それに……」


そして、勇気を出して言葉を紡いだ。


「人って、追いつめられれば追いつめられるほど、周りが見えなくなるものですから。私みたいに……」


私は、借金に追われ、今日のパンのために泥水をすすったバイト生活の極貧時代を思い出した。  


私は照れ隠しをするように、テーブル越しにイザベラ様の手をギュッと握った。


「だから、顔を上げてください」


「ごめんなさい……。わたくしは……」


ポロリと、彼女の目から涙がこぼれ落ちる。


「……怖かったのです。保守派の筆頭である父の期待に応えなきゃって。アシュトン家に負けるなんて許されないって……焦れば焦るほど、自分が惨めに思えて」


「イザベラ様……」


「貴女に助けられた時、ホッとした自分がいました。……悔しいけれど、完敗ですわ」


イザベラ様は涙を拭うと、真っ直ぐに私を見た。  


そこにはもう、昨日のようなドロドロとした嫉妬の色はなかった。


「マリア・アシュトン様。……いいえ、アリアさん。昨日は、わたくしを止めてくれて、本当にありがとうございました」


深々と頭を下げる彼女。

 

私は照れくさくなって、皿の上のハンバーグをナイフで切り分け、彼女に差し出した。


「お礼なんていいですよ。それより、これ食べます? 特製ハンバーグ、絶品ですよ」


「……ふふっ。貴女って、本当に緊張感のない方ね」


イザベラ様は小さく笑い、差し出したハンバーグをパクりと口にした。


「……美味しいですわね。悔しいくらいに」


「でしょ?」


空気が和らいだ。  


しばらく、二人はゆっくりと食事をとった。


友情と呼ぶにはまだ早いかもしれないが、確かな「和解」の空気が流れる。  


私はふと、気になっていたことを切り出した。


「ねえ、イザベラさん。昨日のあの赤い石……『魔力増幅石』でしたっけ? あれ、どうやって手に入れたんですか?」


イザベラ様の表情が強張る。


「あれは……買いましたの」


「買った?」


「ええ。どうしても貴女に勝ちたくて……王都の裏通りで噂になっている『奇跡の石』を求めて」


「まさか、冒険者ギルドとかじゃないですよね?貧民街の闇市とか?」


「少し違いますわ。貧民街にある廃教会。そこで夜な夜な開かれる『闇の市』で手に入れたのです。……もう二度と近づきませんけれど」


「廃教会……」


私の目が鋭くなる。


「貴女も、興味本位で近づかないことですわよ。あそこは、まさに王国の闇ですわ」


イザベラ様はそう忠告を残し、席を立った。  


私は確信した。


これは、ご主人様に相談したほうがよさそうだと。


                  ◇


【その夜:アシュトン公爵邸・作戦室】

放課後、アシュトン邸に戻った私は、制服から着替えるのももどかしく、ローズマリーさんのいる作戦室へと駆け込んだ。


「ローズマリーさん! 聞いてください! 例の『魔力増幅石』のことなんですけど……!」


勢いよく扉を開けた私は、そこで言葉を失った。  


薄暗い部屋の壁一面に、王都の地図や盗撮写真、そして複雑な相関図がびっしりと貼り出されていたからだ。  


中央の円卓には、ローズマリーさんとカミーラさんが深刻な顔で向かい合っている。


「……騒がしいですね、アリア。ノックくらいなさい」


ローズマリーさんは振り返らず、地図上の一点を赤いペンで丸く囲んでいた。


「あ、すみません。でも、イザベラさんから重要な情報を……」


「『貧民街の廃教会』でしょう?」


ローズマリーさんが先回りして言った。  


私は目を丸くする。


「えっ、なんで知ってるんですか?」


「カミーラ、説明を」


カミーラさんが無表情で指示棒を振るう。  


壁に貼られた写真には、黒いフードを被った男たちが木箱を運ぶ姿が写っていた。


「ここ数日、当家の情報網を使って、王都内の違法魔道具の流通ルートを逆探知していました。下流貴族やチンピラたちの動きを追跡した結果、全ての線がこの『廃教会』に繋がっていたのです」


カミーラさんが示した場所は、まさに私がイザベラ様から聞いた場所と同じだった。


「すごい……全部お見通しだったんですね」


「ですが、内部で行われていることの確証がありませんでした」


ローズマリーさんが眼鏡を光らせ、私の方を向いた。


「アリア、貴女が持ち帰った情報は『最後のピース』です。実際にそれを購入したイザベラ嬢の証言があるなら、間違いありません。……そこが敵のアジトです」


ローズマリーさんは、資料を読みながら地図上のポイントを指さした。


「合言葉は『赤い薔薇は夜に咲く』……。なるほど、会員制の闇オークション会場になっているようですね」


「オークション?」


「ええ。保守派の貴族たちが集まり、帝国から流れてくる違法な品々を競り落としているのでしょう。……アリア、準備はいいですか?」


ローズマリーさんの瞳に、狩人のような鋭い光が宿る。


「私たちは今夜、そこに潜入します。顧客リストを入手し、保守派と帝国の繋がりを白日の下に晒すのです」


「りょ、了解です! じゃあ私は、護衛としてローズマリーさんの背中を守れば……」


私が意気込むと、ローズマリーさんはニッコリと、ゾクリとするほど美しい笑みを浮かべた。


「いいえ。護衛は外で待機させられます。中に入れるのは『出品者』と『客』、そして……」


ローズマリーさんの視線が、私の健康的な身体をいやらしく舐め回す。


「客が連れ込む『商品(ペット)』だけです」


「……はい?」


私の背筋に悪寒が走る。

 

カミーラさんが、どこからともなく「ボンテージ風のレザー衣装」と「首輪」を取り出した。


「ローズマリー様。アリア様のサイズに合わせて調整済みの『潜入用衣装』です」


「仕事が早いですね、カミーラ。さぁアリア、着替えなさい。今夜の貴女は、私の『愛玩奴隷』ですよ?」


「ひぃっ!? やっぱりそうなるんですかー!?」


アシュトン邸の地下に、私の情けない悲鳴が響き渡る。

 

イザベラ様との友情(?)で得た情報は、結果として私を「地獄のコスプレ潜入作戦」へと導くことになったのだった。

次回予告: 露出度高めのレザー衣装に身を包み、首輪をつけられた私(奴隷役)と、妖艶なドレス姿のローズマリーさん(主人役)。 爛れた欲望が渦巻く闇オークション会場で、私たちはとんでもない人物と遭遇する。 「あら、こんなところで会うなんて奇遇ね」 隣国の死の商人、ベアトリス・ヴァン・ルージュ。 彼女の鋭い視線が、私の「異質な魔力」を見抜く!?

次回、「潜入! 闇オークションと紅の死の商人」

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