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お昼の時間です  作者: ギーク
第一の世界
7/19

笑わないお姫様

「姫様の………御友人になってくださいませんか!!」

リコとセリナに頭を下げる墨男。




「「「………はぁ?」」」

彼が急に何をするのかと思えば予想の斜め上をいきすぎて間の抜けた声がでる女子3人。



当然、場に流れるのは沈黙。



「あ、あのぉ…」


どういうことですか?と聞こうとしたセリナだが、辞めた。

何となく、地雷を踏みそうな気がしたからだ。


「……」

静かに墨男を見る紫月。よく見ると体がプルプル震えている。


(え〜〜〜〜〜〜〜リコ、どうしよう!どうしようこの空気!紫月さん!墨男さん!誰でもいいから何か喋って〜〜!)


墨男の土下座から誰も喋らない。

自分が喋ろうにも言葉が何も出てこない。

セリナは頭を抱える。


もし、誰かこの空気を打ち破れる者がいるならそれは勇者と言える。

だが、そんな勇敢な人間はいるだろうか?

いるはずはない。


「何故だ」と思う人は想像して欲しい。

あまり知らない人の家で食事をしたら、その家の人からうちの子と友達になって欲しいと土下座される場面を。

あまり知らない人の家で食事はしないだって?

いいんだよ、細かいことは。


「えっとー…なら提案があるんですけど…、」

しかし、勇者は存在した。

「お茶でもしませんか?」

リコである。


(え〜〜〜〜〜!お前すっげぇな!どっから来るんだよその勇気!!)

見事、この空気の中で喋ったリコを称えるセリナ。


だが、安心するにはまだ早い。

紫月がお茶の提案にどう反応するのかが問題だ。


「…」

紫月は相変わらずの無表情。頷く気配がない。


(し、紫月さーん…お茶は速かったかな?…?セリナァ頑張ったウチを褒めてー。)

(リコ…アンタはよくやったよ…。)

きっとこれは嫌がられているんだろうな、と2人が思ったその時だった。





「……………よろしいのですか?」

小さな声が聞こえた。


「「……………ぇ?」」

一瞬、聞き間違えではないかと思った2人だが、確認しようと同時にお互いの顔を見たので空耳ではないことを確信。


「姫様………!」

墨男が頭をあげて紫月を見る。

無表情だが、紫月は大変喜んでいると墨男には分かった。


(セ、セリナ〜これはOKってことだよね!ね!)

(リコォ〜!凄いよ!一生ついて行くわ!)


鈍い2人は心の中でハイタッチ。


そして

「もちろんですよ!むしろ良いんですか?ウチら、お茶してる時でも結構うるさいですよ!」

「私もお茶したいと思ってました!リコと違って味は分かりますから!」

熱い眼差しを紫月に送った。


「あ…ありがとう…ございます…。」


その眼差しに少し頬を赤く染め、俯く紫月。

今度はリコとセリナにも分かる。

彼女は喜んでくれていると。


「いつお茶します!?あっウチら明日は暇ですよ!」

「おぉっ早速、明日にでもお茶しちゃいます?」


喜んでくれたことが嬉しくてついグイグイ行ってしまう。

心の動きと同様に、2人は体も紫月に近づいていく。


「あっあの…明日は私もイトマがあるので…お茶会…しましょう。」

慣れない距離の近さにモジモジする紫月。可愛い。


(ウフフフフッ)

(ウフフフフッ)


部屋が和やかな空気に変わったところで襖の向こう側から女性の声が呼びかけてきた。


「お話中失礼します、よろしいでしょうか。」

「はい。何でしょう。」


紫月が返答するとゆっくり襖が開く。

出てきたのは綺麗な女中さんだった。


「姫様、セリナ様、リコ様。湯殿の準備が整いました。」

「分かりました。あなたはセリナ様とリコ様を大浴場に案内してください。私は少し後に行きます。」

「かしこまりました。ではセリナ様、リコ様。ご案内致します。」


どうやら風呂の時間のようだ。

実は、今日1日リコとセリナは食事や風呂や寝床を紫月の厄介になるのだ。


「ではリコさん、セリナさん。また後でお話しましょう。大浴場まではあの者が案内します。ついて行ってください。」

「分かりました。ありがとうございます。行こ、セリナ。」

「ありがとうございます、紫月さん。」


リコとセリナが部屋から出る。


「大浴場だってよ!セリナ!」

「大浴場だってよ!リコ!」


大浴場と聞いてウッキウキの2人。

料理もそうだが、紫月の家は全てが大きくて豪華なのである。

彼女の家は最初に見た街並みと違い、由緒正しき日本家屋で大豪邸。

家の中もかなり綺麗で、障子や木製の家具など様々な部分で藤の花があしらわれている。

家にある物、1つ1つが目玉が飛び出るほど高いことは想像に易い。


なので2人が大浴場と聞いて浮き足立つのは仕方のないことなのだった。


「藤の花とか浮いとるんやない?」

「今は時期じゃないでしょー。」

「じゃあセリナはどんなお風呂だと思う?」

「それは見てのお楽しみってやつでしょぉ。」


大浴場に想像を馳せ盛り上がっていると


「あの…失礼かとは思いますが…少しお聞きしてもよろしいでしょうか?」

前を歩いていた女中に話しかけられた。


「何でしょう?」

セリナが聞き返す。


すると少し強い口調で質問をしてきた。

「お2人は本当に姫様の御友人になられたのですか?」


「「え?」」

質問の意図が分からなかったので、思わず疑問形で返事をしたリコとセリナ。



実はこの女中、墨男が土下座をしていた時からこっそり話を聞いており、リコとセリナは紫月の持つ権力や財力などのおこぼれを狙っているのではと疑っているのだ。



(姫様を貶めようというのなら絶対に許さない…)

その空気感で女中が疑いの目を2人に向けている事は容易に察する事ができるだろう。


だがそれは普通の人の場合。


「はい!」

「友達になれたと思います!」


普通とはズレたリコとセリナにそんな機能はない。

ここで悩んだら怒られそうということだけは察知したので、とりあえず素直に答えたのだ。


「そ、そうでしたか…。失礼しました。えっと…すいません…もう1つよろしいですか?」


意地悪な言い方をしてしまったが、曇りなき眼で答えられてしまい気まづくなる女中。

だが、どこか安心したような顔になる。


「なんですか?」

続きをリコが聞くと、女中が立ち止まって2人の方へ振り返った。



「お2人は、姫様の笑顔を見ましたか?」



紫月の…笑顔?

リコとセリナは紫月を思い出す。

「……」

「……」

笑っていない。

どの場面を思い出しても笑っていない。


紫月にちゃんと喜怒哀楽があることは確かなのに。

墨男絡みで何回か感情をあらわにしているのだから。


「その様子だと見てないのですね…。」

2人の顔を見て女中は方を落とした。


「まだウチらとそこまで親しくないから笑ってないんじゃないですか?」


「私もそう思いました。それと感情表現が苦手なんだろうと。えっと…紫月さんの笑顔がどうかしたんですか?」


わざわざ聞いてくるということは、何かあるのだろう。


セリナの質問に女中はそっと目を伏せた。

「…姫様は…2年ほど前から笑顔を見せなくなりました。」


「え、2年も前ですか?」

リコが驚きの声をあげる。

何かあっても寝たら大体は忘れるリコからすると信じられない年月だ。


「元々、物静かな方でしたが…それでも嬉しいことがあると穏やかに笑う御方でした。」


「…どうして、笑わなくなったんですか?」

当然、理由が気になるセリナ。


「実は……」






ーーー客間に残った紫月&墨男ーーー


「………ふぅ。」

墨男と2人、部屋に残った紫月は息をつく。

そして

「墨男、少しお話があります。」

墨男を自分のそばに呼び寄せた。



「……申し訳ございません、姫様。」

呼ばれた墨男は頭を畳に擦り付け謝罪し、罰を受けることを覚悟する。

主人である紫月の顔に泥を塗ったからだ。

従者の自分が頭を下げた時、紫月はどれほど恥ずかしい思いをしたのだろうか。

きっと誇り高い紫月は自分を許さないだろう…


そう考えていると

「顔をあげなさい。」

凛とした声が聞こえた。


ずっと墨男の心を掴んで離さない、声が。


言われた通り顔を上げる墨男。


紫月と目が合う。

この世の何よりも綺麗な紫色の瞳が見えた。


ずっと墨男を見てくれる優しい、瞳が。


罰の覚悟をしていたはずなのに、紫月の声や瞳で一喜一憂してしまう心を窘める。


(馬鹿なことを考えるな。姫様や大旦那様への恩を思い出せ。お前のその心は不敬以外の何物でもない。)


「墨男…その…」

何かを伝えづらそうにしている紫月。


墨男はその様子を良くて解雇、またはそれ以上の罰を言い渡そうとしているのだろうと思った。


「あの……………えっと……」


(姫様が困っている…ここは俺から申し出るべきか。)

紫月から離れるのは嫌だが、迷惑をかけるのはもっと嫌だった。


「姫さ…」

「ありがとう。墨男。」


(……?俺は今、礼を言われたのか…?)

予想外の出来事に目を開く。


その顔を見た紫月は少し不服そうな表情をした。

「…私がお礼を言うのはそんなに意外なの?」


「い、いえ…その…てっきり姫様に恥をかかせてしまった罰を言い渡されるものかと思っていたので…」


驚きのあまり思っていたことをまんま言ってしまった。


「ま、まぁ!墨男ったら私をなんだと思っているの!」

怒る紫月。

器が小さいと思われていたような気がしてショックを受けていたのだ。


「あっ…も、申し訳ございません!」

今頃になって主人へ向かっての無礼に気づく。


「はぁ…」

顔を上げろと言ったのにまた下げる墨男に紫月はため息ひとつ。

そして出来の悪い従者のそばに寄った。


「墨男、顔をあげなさい。それとよく聞きなさい。」

「は、はい。」


墨男が顔をあげると、紫月は墨男の目をジッと見つめた。


「あっ…あの……」

至近距離で紫月に見つめられて赤くなる墨男。


対する紫月は無表情だが、頬をほんのり染めて話始めた。


「墨男…ありがとう。私のために頭を下げてくれたのよね。確かに少し…あの時は恥ずかしかったけど、今はとても嬉しいわ。素敵なお友達が2人も出来たのですもの。だから…ありがとう。あなたがいてくれて良かった。」


トクンッドクンッ

墨男の鼓動がどんどん大きくなる。


(姫様…)


黒である自分に優しくしてくれる紫月。

その上こんな幸福までもらっていいのだろうか。

ここは夢ではないのか。

きっと…今が1番幸せだ。


そう思えるほど墨男は舞い上がっていた。


だが同時に悲しい事実にも気づく。

(姫様…やはり笑われないのですね…あの2人なら…と思ったのですが…。)


2年前から彼女は笑わない。

紫月に何か大きなきっかけがあれば笑ってくれる、そう思っていたのに。



「墨男?」

固まっている墨男に首を傾げる紫月。


「あっ…失礼しました。ありがとうございます、姫様。」


紫月に呼びかけられたことで夢から戻り、緩みかけていた表情を引き締める。

そして自分の考えてることが悟られないよう、まっすぐ紫月を見た。



(……あら…いけない)

自分を見るその目に、紫月は今頃になって墨男との距離の近さに気づいた。



「そ、それにしても…不思議ね。あの2人。」

「姫様もそう思われましたか。」

紫月が新しい話題を出して離れたことにより、近づいていた距離が元に戻る。


「えぇ。当たり前じゃない。あの2人には身分差を感じないわ。リコさんは赤なのに、青のセリナさんを呼び捨てだし…ネギを押し付けていたし…。あとは赤と青にしてはお転婆すぎるわ。」


紫月はネギごときで喧嘩をしていたリコとセリナを思い出す。


「そうですね。黒である私を庇ってくださったお2人には失礼ですが…あまり令嬢らしさを感じませんでした。いい意味で、ですが。」

墨男は桐生と口論するセリナと自分を抑えていたリコを思い出す。



ここで補足


紫月はリコとセリナに「不思議」という言い方をしたが、実際は「かなり変」という表現が正しい。

優しさでオブラートに言っているだけで、赤のリコと青のセリナの関係性、そして令嬢には見えない数々の行いから誰もが「変人」という印象を持つのが普通だ。


補足終わり



「…改めて、とっても愉快な2人よね。」

「私もそう思います。」


身分関係なく仲の良さそうなリコとセリナを少し羨ましく感じる紫月と墨男。


「……」

「……」


2人の間に少しの沈黙が流れる。



「………それにしても墨男、よく私があの2人と…その…お…お友達になりたいと…思っていたことが分かったわね。」


これは紫月が1番疑問に思っていることだった。

紫月は自分の感情が顔に出ないことを自覚している。

なので、尚更分からないのだ。


これに墨男はあっさり答えてみせる。

「…幼き頃より共にいますから。」


少し淡白に聞こえるかもしれないが、この答えには墨男の想いが全て詰まっていた。

…言えない想いまでも。


「…そう。流石ね。」

何となく嬉しくなる紫月。


「……」

「……」


「さて、私も湯殿に行くわ。墨男、リコさんとセリナさんの布団の準備をお願い。」


「かしこまりました。部屋は…一緒がよろしいでしょうか?」


「ええ。湯殿もなんの抵抗もなく2人で行ってたもの。一緒がいいでしょう。早速、準備なさい。」


「かしこまりました。まず、姫様と湯殿までお供する女中を呼んで参ります。では失礼します。」


墨男が部屋を出た。



部屋に残ったのは紫月1人。


(全く…今日の墨男には驚いたわ。墨男のおかげでお友達が出来たのは嬉しいけれど…。あら…そういえば、お友達って何をすればいいのかしら?)


1人で冷静に考えると、友達との付き合い方が分からないことに気づいた。

それもしょうがない、今までいなかったのだから。


(うーん…ひとまず明日のお茶会の場所を決めればいいかしら?リコさんとセリナさんはかなり少食だから…難しいわね。)

無意識に体がソワソワし始める。


(そうだ。湯殿から出たら2人に聞いてみましょう。友人同士なら相談して決めるものよね。)

名案だ!と自分で感心してしまう紫月。


1人で楽しくなっていると

「姫様、お迎えにあがりました。」

リコとセリナを案内した女中とは別の女中が紫月を呼んだ。


「ありがとう。すぐ行きます。」

すぐ返事をして部屋を出た。


「行きましょう。」

「はい。」


「……」

女中と共に、無言で廊下を歩く。



(あっそうだ)


「ねぇ、1つお願いしていいかしら?」

「はい、姫様。なんなりと。」



「アレを用意して欲しいの。」




ーーー風呂上がりのリコ&セリナーーー




入浴を済ませたリコとセリナは紫月の部屋の1つに案内された。

紫月も後に来るらしい。


「セリナ〜紫月さんの家、広すぎん?」

「まさかこの豪邸が紫月さん専用の家とは思わなかったよねぇ。」


これは2人を大浴場に案内した女中 雪乃さんに聞いた話だ。

雪乃さんと話したのは移動の間だけだが、もうすっかり仲良くなったのだ。


今いる部屋は紫月が夜食を摂る部屋らしく、ちょっとしたキッチンが備わっている。

夕食の時の畳の部屋とは変わり、木で出来た床や壁が特徴だ。

部屋の真ん中には机が1つと高そうな椅子が4つ。

そのうちの2つの椅子にリコとセリナは座っている。


「なんかジ〇リで出てきそうな部屋だよね。」


「確かに。リコ好みの部屋だね。私は机の上の紫陽花がお気に入り。」


「おっセリナ好きそうだと思ってた。」


「リコは花に興味ないからね。」


「なんやとぉー」

リコが机の下で足を蹴ってきた。


「やめんかいっ」

すぐやり返すセリナ。


「やめてセリナ!虐めないで!」

「何言っとんねん。」

とりあえず蹴り合いは終了。


紫月が来るまで暇なのでダラダラ会話をすることにした。


「それにしてもお風呂凄かったよね。温泉かと思ったよ。紫陽花が浮かんでたし。」


「それ!ウチもびっくりした!豪華すぎたよね。」


「美肌の湯とかあったよ?一応は家なのに。」


2人の興奮が未だ治まらないほど、案内された大浴場は非常に素晴らしかった。

高級温泉旅館のような造りで、なんと露天風呂付き。


そして、風呂のことを思い出すともう1つ思い出す事がある。


「…ウチびっくりしたよ。紫月さんが笑わなくなった理由。」


「ちょっとリコ、それは紫月さんの口から聞くまで知らないフリをする約束でしょ。いくら今が2人しかいないからって迂闊だよ。」


「そうやったね。ごめーん。」


「もー話題変えよう。」


2人とも今すぐ語りたい気持ちもあるが、雪乃との約束があるのでまだ話さない。


「…ユッキーとミキ、どうしてるかな?」


「そら心配してるでしょ。私らが呑気すぎるよ。」


「間違いない。でも仕方ないよね〜。」


「まぁねぇ。あっそれよりも明日のお茶会だよ!勢いで明日!とか叫んだけど、明日帰るんだよ?」


「あっ!そうだった!」


話題を変えてユキミやミキの話を始めたは良いものの、余計なことを言っていた事を思い出した。


((うーーーーん))

どうしたものかと頭を悩ませる。


(ハッ)

先にセリナが閃いた。


「ねぇリコ。明日はお店営業すると思う?」


「え、…多分仕込みとかやってないよね。ユッキーもミキも心配性だからそれどころじゃないでしょ。」


「ってことは明日は臨時休業でしょ?ってことはだよ。」


「なんとかなるってことか!!」

意外と速く解決。


「「いぇーーーーい」」

仲良くハイタッチ。


「もう考えるのめんどいし暇だし、数字しない?」

「えー、リコ負けたらめっちゃ強く叩くじゃん。」

「えっへへ。いいじゃーん。お願い!」

「今日こそは負けないからな?」


リコとセリナはやる事も無いので、とりあえずゲームをすることにした。


「「すーうーじ!」」

「123!」

「456!」

「789!」

「あ!やば!」


10分後……


ようやく紫月が部屋にやってきた。何やらお盆を持っている。

その頃、セリナの手は真っ赤っか。


コトッ コトッ コトッ

机に置かれた3つのコップ。


「遅くなってごめんなさい。暖かい牛乳を用意しました。最近、雨が多くて冷えるのでお召し上がりになってください。」


(暖かい牛乳を飲むと何故かよく眠れるのよね。2人は知っているかしら。)


紫月が用意させたのはホットミルクだ。

今まで友人がいなかった紫月が考えた気遣いであり、彼女なりの友人らしい行動なのだ。


「ありがとうございます!ウチ、ホットミルク大好きです!」

「私もです!寝つきがよくなりますよね!」


(あら、知ってたのね。少し残念。でも喜んで貰えて嬉しいわ。)


コップに手を伸ばすリコとセリナ。

この時、紫月がセリナの手が真っ赤になっていることに気づいた。


「セリナさん、その手はどうしたんですか?」

「うぅ…紫月さん、数字っていう手遊びをしてたんです。知ってますか?」


「いいえ、知らないわ。教えてくださいますか?」


空いている椅子に座り、知らない遊びに目を輝かせる紫月。


「もちろんです!ジャンケンをして、勝った方が数字を3つ数えるんです。まずは1、2、3。次は4、5、6。こんなふうに。それをずっと続けていって、アイコになったらそれまで数えていた数の分だけ直前のジャンケンで負けていた人の手を叩くんです。あっあと、1番最初のジャンケンだけはすーうーじって言いながらやります。」


「なるほど、中々面白そうな遊びですね。」

言葉とは裏腹に、紫月の声のトーンは暗い。


(あれ……?紫月さんどうしたんだろう?)

(あ!)

セリナがルール説明をしただけなのに落ち込む紫月に困惑していると、リコが何かを閃く。


「紫月さん、ウチと数字やります?」

「「え?」」

リコが紫月に勝負を持ちかけた。

紫月はその申し出に驚いた表情になる。


それはセリナも同じ。

(えぇーーーーーー!リコォ!相手はお姫様だよ!勝ったらま紫月さんの手を叩くんだよ!最悪打ち首の刑だよ!それに…怒るんじゃない?)


恐る恐る紫月の方を見る。


「いいんですか?やりたいです。」

意外と乗り気のようだった。


「じゃあ行きますよ!」

リコもやる気満々だ。


(負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ)

こんなくだらない事で死にたくないセリナ。

全力でリコに呪いをかける。


「せーのっ」


「「すーうーじ」」

「1、2、3」

「4、5、6」

「7、8、9」

ここまで紫月が全て勝っている。

いい調子だ。


「10、11、12」

あっマズイ。紫月が負けた。


「13、14、15!」

とてもマズイ。アイコになった。


ということは…

「いぇーい!ウチの勝ち!!」

リコの勝ちということ。


「負けました。15回ですよね?」

そう言って手を差し出す紫月。


(リコ……どうしてそういう時は勝っちゃうんだよ…いつもゲームはバカ弱いくせに…)

セリナは、これは自分に返ってきた呪いだろうか?と思った。


「はい!じゃあ行きまーす!せー…の」

何故か紫月の手の甲を叩こうとしたてが止まる。


「リコ?」

「リコさん?」


「え……っと」


(…セ、セリナーーーー!ウチ紫月さんの手を叩いていいの!?死刑にならない!?)

リコは今頃気づいた。

(た、助けてぇ!セリナァァァァ!)

救いを求めセリナを見る。


「うふふ…」

ダメだ。諦めた顔をしている。


「リコさん、遠慮しなくて良いんですよ。怒ったりしませんから。思いっきりやってください。」

紫月はずっと手を差し出したままだ。


(もう後には引けない…やってやんよぉ!)

「では、紫月さん。いきますよ?」

「はい。思い切りお願いします。」


「……1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15!!」

お願いされた通り思いっきり叩いた。

現実を見るのは怖いので、目をつぶったまま。



フンっ


何か聞こえた。……今誰か笑っただろうか?

少しづつ目を開くリコ。

最初に見えたのは無表情の紫月、次に見えたのは驚いた顔をしたセリナだった。


「紫月さん……今、鼻で笑いましたか?」

「…………………………え?」

セリナの指摘に目を大きく開く紫月。


「え、そうなのセリナ??」

目を瞑っていたリコには分からなかったが、確かに「ふっ」という音は聞こえた。


「ごめんなさい、怯えながら手を叩く様子とリコさんの顔が可笑しくて。でも……自分でも…驚いたわ。」


サラッと失礼な事を言った気がするが、気にするべきはそこではないだろう。

紫月は認めたのだ。鼻ではあるが、笑ったことを。



「リコォーーーー!すごいよ!確かに、私もビビってるリコの顔見て笑いそうになったもん!」

「セリナァーーーー!その性格の悪さがブレないところは流石だよ!でもありがとう!!」

お互いディスりながら仲良くハイタッチしていると、


ふんっ


また鼻で笑う音が聞こえた。


「ご、ごめんなさい。その…久しく笑っていないものだから…可笑しいと口ではなくて鼻で反応してしまうの…」


鼻で笑う行為に自分で感じが悪いと思ったのだ。

申し訳なさそうに眉尻を下げている。


「いえいえ良いんです!リコを見て少しでも笑えたならそれで十分ですよ!」

気にしてないですよっ、とセリナは手を振る。


「え、それウチの台詞……」

「いいじゃない、細かいことは。」

あはははっと笑うセリナにリコは呆れ顔になった。



「……ありがとうございます。そして…知っていたんですね。私の…顔のこと。」

「「!!」」


ここで2人はミスに気づく。

紫月が本当に小さくだが鼻で笑った時、喜んでしまった。

紫月が笑わないことを知っていたことがバレたのだ。


「「あっえっと…あの」」

こういう時に嘘がつけないリコとセリナ。

2人揃って目が泳いでいる。


そして

「はい……ウチら知ってました。」

「少し小耳に挟みました。」

観念して正直に白状した。


これに紫月は「ふぅ…」とため息をつく。

「………おしゃべりな従者がいるものですね。ということは、その理由も聞いたのですか?」


「はい。…ウチらは外国の人との婚約がきっかけだと聞きました。」

「まぁ……そうですね。」


リコが聞いた通り答えたのだが、紫月はいまいち歯切れが悪い。


「あの……紫月さん。ひとつ聞いてもいいですか?」

「何でしょう、セリナさん。」

質問の許可が出たところでリコとセリナはお互いの顔を見る。


(言うよ?リコ。お風呂で話したことを。)

(セリナ、ファイト!)

同じタイミングで頷いた。




「あの……紫月さんは……その…………………………墨男さんが好きなんじゃないですか?」

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― 新着の感想 ―
新作待ってました!墨男さんの一言で、りこさんもせりなさんも受け入れる姿がとても素晴らしいと思いました!これから姫様と2人の女子会が気になりますね!偶然にも数字という遊びがあるとは驚きました!墨男さんと…
この世界にも数字という手遊びはあるのですねw リコさんがセリナさんの手を思いっきり強く叩いたんだな〜ということが想像できました。 私は墨男さんが紫月さんを好きだと思っていたので両思いだといいですね!墨…
今回の物語もすごく面白かったです。相変わらずのリコとセリナのおバカさ。これが面白くて沼から抜け出せないです。これからもエピソードが更新されるのを楽しみに待っているので頑張ってください!墨男さんファイト…
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