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お昼の時間です  作者: セリーナ
始まりのお昼
2/3

始まりのお昼②

「「異世界の人々を助けて欲しい」」


確かにそう聞こえた。

佐々木さんのあまりの突飛な発言に、4人はこの現状をまだ飲み込めていない。



「さ、佐々木さん。少し待って貰えますか?ちょっとだけ4人で会議したいです。」

セリナが佐々木さんの話を止める。一旦、他3人の意見を聞きたいと思ったからだ。


その申し出に佐々木さんは穏やかに笑った。

「ごめんね。急に話したし、混乱させてしまったよね。勿論、いいよ。」


「ありがとうございます!」

セリナはお辞儀をすると少し佐々木から離れ、3人を近くに呼ぶ。

各々小声で会話ができる距離に近づいたところで、

「はい、では宣言通りプチ会議をします。何か意見がある人はどんどん言ってください。」

第42回プチ会議が開催された。


会議が始まり、一番に口を開いたのはユキミだった。

「正直、ちょっと反応に困った。佐々木さんどしたのかな。」

ユキミの言葉に3人が頷く。


続いてミキ、リコ、セリナの順で意見を述べていった。

「ちょっとしたレクリエーションのつもりなんじゃない?2週間前にお題を出し合ってエチュードで対決したよね。」

「あーあれね。「好きな人の前でコケた侍」とか変わったお題が多かったやつ。」

「確かに、ミキの予想が妥当な気がする。今回は「異世界へ旅立つ勇者」とかそんなお題じゃない?」


セリナの意見が出たところで5秒ほど間を置き、

「「「「うーーーん」」」」

4人いっせいに首をかしげる。


それから、視線を交わして笑顔で頷きあった。

恐らく、皆同じ事を考えているだろう。


そしてこの会議で出した答え、それは…。




分からん。


まず、何かを深く考えるという習慣が4人にはないのだ。

別に、成り行きでいいじゃないか。

そう考え、とりあえず佐々木さんの設定に乗っかることにした。


「会議終了です。ありがとうございました。」

「うん。君たちが会議している様子はいつ見ても面白いよ。」

ミキからのお礼に笑顔で返す佐々木さん。


実はこのプチ会議、店の名物の1つなのだ。

先程の様に、プチ会議はたまに開催されるが殆ど「何とかなるさ!」や「いいんじゃない!」で終わっている。

あまり意味のなさそうな会議でも、本人たちからすると大真面目に行っている様子が常連さんたちに人気なのだ。

本人たちは小声で話しているつもりだが、普通に丸聞こえなのがまた笑いのタネとなっている。


会議の終了を報告したところで、

「それで、異世界を助けるって何をすればいいんですか?」

リコが異世界に話を戻す。


「それはその世界とそこに住む人によるね。最初は小さい問題を抱えるところから行ってもらうつもりだよ。だんだん難易度は上がっていくようにしようかな。」


しようかな?

少し妙な言い方だとセリナは思った。

だが、あまり気にしなくてもいいかとスルーすることにした。

そして

「どうやって異世界に移動するんですか?」

質問を投げた。


「この店の扉を媒介にしたよ。11時〜14時の間、この店のドアならどこでもいい。」



「佐々木さん、それは困ります。どこのドアでも異世界に繋がるならトイレ行けないんじゃないですか?」

4人で1番トイレの近いリコ。当然の疑問である。


「確かに、それは困るね。なら合言葉を決めようかな。合言葉を言ってドアを開けたら異世界に繋がる、それでどうかな?」

なるほど、それは面白い。


そうして合言葉を決めることにした。

合言葉候補は

「開けゴマ 」「パワー」「味噌汁」「セリナ可愛い」

など、いつも通りのまとまりの無さが発揮されるものばかりである。

もうカレコレ10分は言い争っている。

「あたしはシンプルに開けゴマがいいな」

「ミキはパワーがいい。覚えやすいし。」

「ウチは味噌汁かな。ワカメあるといいね。」

「もうここは間を取ってセリナ可愛いにしとこうよ。」


「合言葉は何でもいいけど…もう少し寄せる努力をしようよ。ユキミの開けゴマはシンプルだけど、他3人はどうしたの。」


「セリナと一緒にしないでください!」

「ウチらは単語だけど、セリナは論外でしょ!」

「いやいや、セリナ可愛いで1単語だよ?」

ミキ、リコ、セリナが言い争っている。


そんな3人を見かね、ユキミが

「佐々木さんに決めてもらおうよ。」

と、提案してくれた。さすがユキミ。


ユキミの提案を受け、佐々木さんが10秒ほど考える。

「うーん。私はいつもランチしにこの店に来ているし、「lunch」と言ってドアを開けるのはどうだろう?少し安直すぎる気もするけど、異世界への扉も11〜14時のランチタイムしか開けないし。」


なるほど。確かに覚えやすいし、それはいいと4人とも納得した。

だが、それと同時に疑問を覚えた。

「何で11時〜14時なんですか?」

4人の疑問を代表してミキが質問した。


「そんなの決まってるじゃないか。朝と夜は眠いから、疲れることはしたくないんだ。世界を繋ぐには、結構力を使うんだよ。」


「えーどういうことですか。」

佐々木さんの返答に、ミキは余計に謎が深まった顔をしている。


「世界を繋ぐって…佐々木さんは神様設定ですか?」

ミキに続き、ユキミからの質問。


「えーそれは嫌だけど…。そんな感じかな。今は、その認識でいいよ。」


「どういうことですか。」

ユキミがミキと同じ顔になった。


「そういえば、佐々木さんは異世界に行ける時間と同じ11時〜14時の間しかお店にきませんよね。」

「確かに。そこ重要な気がする。」

セリナの気付きにリコも同意する。


「何の仕事をしてるんですか?前に職業聞いても内緒だって教えてくれませんでしたよね。」

「仲良しになった今なら、教えてくれたりします?」

ユキミ、ミキが詰め寄る。


「内緒だよ。謎は多い方が面白いじゃない。」

追及をかわした佐々木さんは二ッと笑った。

普段は上品に笑う人だが、こうして少年のような笑顔をすることがある。

もしかすると、この笑顔の方が素なのかもしれない。

こういうあまり見ない顔を見ると、ますます佐々木さんのことを知りたくなってくる。


「えーー。そうだ、ウチらで佐々木さんの職業予想しようよ。」

「お、いいね!じゃあ、5分以内で当てられた人は冷蔵庫に1個だけあるプリンが景品ね。」

リコが提案し、賛成するセリナ。


「いい景品だね。じゃあ、誰も当てられなかったらそのプリンは私が貰ってもいい?」

佐々木さんは受けて立つ姿勢をみせる。


リコがニヤリと笑い、

「勿論です。よしっ3人とも、絶対にあてるぞ!」

「おー!」


ここから佐々木さんの職業当てクイズが開催された。

「パン屋さん!あったかい雰囲気がそんな感じ。」

「実は俳優じゃない?かっこいいもん。」

「小説家とか?」

「絵描きさんかも。」

などと、ユキミ、ミキ、リコ、セリナの順で職業を予想してゆく。

プリンがかかっていることもあり、皆ガチである。


そして5分後…。

誰も正解は出来ず、プリンは佐々木さんのものになった。


「結局、佐々木さんにプリン取られちゃったね。」

「結構自信作のプリンだから自分で食べたかったな。」

恨めしそうにプリンを見るユキミと、残念がるプリンを作った本人であるセリナ。


「確かに、このプリンすごく美味しかったよ。商品にしなくて良かったの?」

「おやつ用に作ったやつなので大丈夫です。」

セリナは佐々木さんに褒められて頬を赤らめた。

単純な女である。


景品のプリンを食べ終わったところで

「よし、そろそろ異世界の話の続きをしよう。」

佐々木さんは話題を異世界に戻した。


「とは言っても、より細かいところは君たちが異世界に行く決断を終えたあとの方がいいな。

そうだ、何か質問のある人はいる?」

そもそもこの話は何なのか、という質問は野暮だろう。


少し間を置いて、ミキが質問を投げかけた。

「異世界に皆で行くとお店ってもぬけの殻ですよね?お客さんが来たりするとお店が回せなくなるんじゃ…」

ユキミもミキの質問に頷く。


「定休日とかに行けばいいんじゃないの?」

リコからのツッコミ。

そのツッコミに「そっか!」とミキも納得した。


リコによって質問は解決したかのように見えたが、

「質問を受けたから答えさせてもらうよ。何も全員が移動をしなくてもいいよ。異世界への切符は一人一人が持っているからね。行く人数、時間は君たちが状況に応じて決めるといい。」

わざわざ律儀に返答してくれた。


「他には何かあるかな?」


次はセリナが手を挙げる。

「異世界って、どんなところですか?」


「色々だね。君たちの世界と似たようなところもあるし、魔法を使用する世界もあるよ。」


「へぇ、なんか楽しそうですね!」

魔法、と聞いて4人とも目を輝かせた。

冗談での話とはいえ、異世界を想像するのは楽しいのだ。


そんな4人の姿を見て

「あはは、君たちの楽しそうな表情は大好きだよ。ずっと見ていたいな。」

笑顔でいきなりとんでもないことを言ってくる佐々木さん。

この言葉にハートを撃ち抜かれる音が4つした。


「あと、質問がある人は?」


誰も手を挙げなかった。もう、聞きたいことは特に思いつかないようである。


「いないみたいだね。質問もある程度終わったことだし、改めてお願いするよ。君たちに異世界に行き、その世界の人々が抱える問題を解決して欲しい。やってくれるだろうか。」

佐々木さんは真面目な顔で4人を見つめた。


佐々木さんの視線を受け、4人は顔を見合わせ小声で話し合う。第43回プチ会議が始まった。

「どうする?」

ユキミからの問に3人は

「どうするも何も、冗談でしょ?ミキはOKでイイと思う!」

「ウチもOKしていいと思うよ。セリナは?」

「私もミキとリコに同意。ユキミは?」

承諾する姿勢である。

3人の話を聞いてユキミも頷き、

「OKしても、問題ないか!」

GOサインをだした。


返事が決まったので佐々木さんを4人いっせいに呼ぶ。

「佐々木さん!」


声が大きかったからか、少し驚く佐々木さん。

そして、佐々木さんと最も親しいセリナが叫ぶ。

「私たち、やります!異世界で困っている人たちを助けます!」



YESの返答を聞き、佐々木さんは

「ありがとう。」

と微笑んだ。


嬉しそうに、だけどどこか暗く。


「佐々木さん?」

何となくいつもと違う笑みを察知してか、セリナが心配そうに顔を覗き込む。


そして、心配に気づいたのかすぐにいつもの穏やかな表情に戻り

「承諾を得たことだし、異世界に行く時のルールを説明するよ。」

と、異世界への移動の際のルールを話し始めた。


少し心配なセリナだったが、話をきくことにした。


佐々木さんが語った異世界へ行くルールは4つであり、

箇条書きにまとめると

・異世界の行き道はストロベリーローズのドア、帰り道はドアまたは扉であればどこでも良い

・11時〜14時の時間を過ぎると、次の日の11時になるまでは移動ができない

・ユキミ、ミキ、リコ、セリナのうちの誰かが「lunch」と唱え、ドアに触れるとお互いの世界への道になる

・ドアまたは扉をくぐったら、必ず閉めること

というものだった。


「とりあえず、重要なのはこんなところかな。あとはやっていきながらだね。」


佐々木さんが語ったルールを聞いて、

細かいところまでよく考えた設定だ、と4人は思った。


ユキミとセリナが「すごいね!」と話すなか、

こっそり、やや話に飽きてきてるリコがミキに小声で話しかける。

「ねぇ、ミキ」

「ん、何?リコ」

「この異世界の話どのぐらい続くのかな?」

「さてはリコ、飽きてきてるなぁ。うーん…合言葉使うところまでじゃない?せっかく決めたし。」

「そっかぁ。もうちょっとか。」


リコが話し終えたところで

「佐々木さん、早く合言葉使ってみたいです!」

ユキミが提案した。ユキミも、リコが飽きてきていることを察知したらしい。


「うん、そうしようか。玄関のドアでもいいけど…手頃にトイレのドアでもいい?。」

提案を了承した佐々木さんは、近くにあるトイレのドアを指さした。


「はい!ちょっと嫌ですけど!」

ミキが勢いよく返事をする。

せっかく決めた合言葉をトイレのドアで使うのはもったいない気がするが、仕方ないだろう。


4人はトイレに近寄った。


「まずは、普通に開けてみて。」

佐々木さんからの指示にリコがドアを開ける。


セリナの趣味で少しレトロチックになっている、いつものトイレだった。


「うん、トイレですね。」

リコはしっかりトイレを確認した。


「じゃあ、次は合言葉を言って開けて。」


4人は顔を見合わせた。

そういば、合言葉を誰が言うか決めていなかった。


「4人いっせいに言おう。」

セリナがそう言うと、他3人は頷いた。


リコが先ほど開けたトイレのドアを閉める。

そして、

「じゃあ行くよ、せーの」


「「「「lunch」」」」


リコの掛け声に続き、4人で合言葉を唱える。

そして、扉を開けた先は…












トイレではなく、暗い空間の中で輝く虹色の道が存在した。

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