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お昼の時間です  作者: ギーク
第一の世界
12/19

お茶会



瑠璃色の暖簾には山吹色の筆文字で店名が書かれていた。


〝茶苑ルリイロ〟


カラン、と軽やかな音とともに扉が開く。

ほのかに甘い、上品な香りがふわりと漂った。それは茶苑ルリイロ特有の香りだ。


「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」

わざわざ店員が出迎えてくれた。


「わぁあ……!」


真っ先に声を上げたのはミキだった。


扉の向こうは、和洋折衷の柔らかな空気。

木製の柱にガス灯風のランプ。

藤柄の和紙の行灯が仕切る空間に、精巧な円卓。

所々に置かれたガラス細工が光を受けてきらきらと揺れている。


(な、なんか……オシャレ……!)

(こんなとこ初めて来た……!)

(写真とりたーい)

(なんて見事な家具!)


四人は息を飲んで辺りを見回す。


「こちらの席をご準備しております。」


店員が静かに案内し、店の中央の席へ進む。


「うわぁ〜〜!見てよこれ!机ツヤツヤしてる!!」

「ユキミ!あんまり触ると指紋で汚れちゃうよ!」

「そういうミキだってベタベタ触ってるじゃん。」

「って言うリコだって!...あ......私もか!」


まるで修学旅行生のようにテンションが上がっている。


そんな彼女らを見て紫月は満足気な目をした。


「気に入ってもらえたようで何よりです。それと実は………今日は貸切なんですよ。」


「「「「えぇぇぇぇーー!!!」」」」


見事なハモリが店中に響いた。

お客もいないだけにその声がやけに目立つ。


「か、貸切って……」

「ええ。人が多いと落ち着いてお話できませんから。」

「流石は紫月さん。やることが違う...」


目をかっぴらいて感心するセリナ……いや、四人全員ともだ。


「せっかくですし...その...皆さんとゆっくりお話したいと思いまして……。」

「「「「おぉ〜〜!!」」」」


パチパチと拍手が起こる。


「姫様...」

(お話したい……ですか。あの姫様が……)

雪乃は一瞬、言葉を失った。

今までの紫月では、墨男以外には絶対に言わなかった言葉だからだ。



「紫月さん、どこに座ります?やっぱり私かリコの隣がいいですよね?」

「円卓だし、ウチとセリナが紫月さんの左側、ミキとユッキーが右側でいいんじゃない?」

「うん、あたしはそれでいいと思うよ。」

「おっ!この感じだとミキが紫月さんの隣ですね。よろしくお願いします!」


「...はい。よろしくお願いします。」


四人が楽しそうに席を選び、紫月も静かに腰を下ろす。


(この様子ならもう心配なさそうね...)

すると雪乃が一歩下がり、

「では、私は外でお待ちしております。」

当然のように言って頭を下げた。


その言葉にリコがすぐ反応する。


「えっ?雪乃さん、行っちゃうんですか?」

「え……?はい。従者なので当然かと。」

「えぇ!ウチらと食べればいいじゃないですか!」


セリナも慌てて立ち上がる。


「一緒に座りましょうよ!雪乃さんだって、疲れてるでしょ?」

「ですが、姫様のお付きとして……」


「“お付きとして”とかいいですって!」

リコが他の席から椅子をひょいっと持ってくる。


「そうですよぉ。今日は皆が仲良くなるためのお茶会だし、全員参加じゃないとつまんないですよ。」

セリナも雪乃の後ろに回り込んで椅子に座るよう誘導。


「ですが……」

雪乃は困ったように紫月を見る。


「......」

紫月は少し考えて静かに頷いた。


「……いいんじゃないでしょうか。セリナさんの言う通り、今日は親睦を深めるための茶会ですから。」


「えっ……姫様……!」


「雪乃もどうぞ。あなたがいてくれた方が落ち着きます。」


そう言われた瞬間、雪乃の目が大きく見開かれた。

けれど――その言葉で、彼女の胸に温かいものが灯る。


(姫様……雪乃は今...幸せです。)

「……もったいないお言葉です。では...こちらに失礼します...」


小さく頭を下げ、雪乃はそっと席に着く。


(よし!)

雪乃が座るのを見届けたリコが満足そうな表情で両手を叩いた。


「それじゃーお腹すいたし、早くメニュー見よ!」

「リコさん、昨日と違って今日は食欲旺盛ですね。どうかされたのですか?」

「細かいことは気にしないの!」

「は、はい...」


紫月が自ら会話に入る頻度が少しづつ増えていく。

いい兆しだ。


「全く...敵いませんね。」

雪乃はほんの少しだけ口元を緩めた。





ーーーーーー




「ほうれん草ほうれん草ほうれん草!」

「「ほうれん草ほうれん草」」

「「ほうれん草ほうれん草」」



注文するメニューを決めた後、料理を待つ間に六人は〝ほうれん草ゲーム〟をしていた。

どんなゲームか知らない人は各々調べて欲しい。


無論、四人の世界のゲームなので紫月と雪乃は初体験だ。


「ほうれん草ほうれん草!」

「あ、ユッキー!ほうれん草2個渡されたのに1個しか持ってない!アウトー!」

「あ!しまった!」


「「「うぇーい」」」


第4回戦のゲームはユキミが負けた。

ミキとリコとセリナに指をさされ、ニマニマ笑われている。

可哀想に。


「あ...そういえば」


ふとセリナが紫月と雪乃を見る。

「4回目で聞くのもどうかと思いますけど、お二人は楽しめてますか?」


「「あ.......」」

紫月と雪乃は互いに目を合わせると少し気まづそうに伏し目になる。


「えぇ。楽しいです。...でも.....雪乃が負けた時は意外でした。」


「若い人の遊びはなかなか難しいのです……。説明を聞いた時は正直、面白いのか不安でしたけど案外楽しかったですよ。」


雪乃の言い方は少し気になるが、二人とも楽しめたようなので何よりだ。


「な、なら良かったです。...でも雪乃さーん。雪乃さんだって若いんだから〝若い人の遊びは〟なんて言い訳になりませんよ〜。25、6歳くらいでしょ?」


「いえ……私はもう30ですよ。12歳の息子もいますし...。」


「「「「えぇーー!!!」」」」


四人は心の中でツッコんだ。

((((ジューブン若いよ!!どう見ても20代だよ!!それに……息子さんいるの!?12歳なの!?))))


「そ、そんなに驚くことでしょうか……?」


雪乃は四人が何に驚いているか分かっていない。


「あれ.....ならいつも紫月さんの家にいて大丈夫なんですか?」


ここでリコがあることに気づいた。

昨日、リコとセリナを寝室へ案内したのは雪乃。

朝起こしに来たのも雪乃。

雪乃はいつ家に帰っているのだろう?


「昨日は夜までの勤務でしたので泊まりでした。普段は夕方まで勤務して自宅に戻っていますよ。」


「あ、そうなんですね!」


安心するリコを横目に、紫月は驚いた顔をしていた。


「む、息子さんがいたんですね...知りませんでした...」


「「.....?」」


リコとセリナは首を傾げる。

紫月と雪乃の付き合いは長そうに見えたのに、紫月は雪乃に息子がいることを知らなかったからだ。


((うーん...お姫様だし、そんなもんなのかな。))


二人がそう納得していると……


「お待たせいたしました。本日のランチセット六点です。」


料理がやってきた。

散々迷った末、全員ランチセットに落ち着いたのだ。


紫月は和食セットを注文しようとしていたが、1人だけ違うメニューを注文するのは嫌だったようでランチセットにしていた。


店員が銀の蓋を静かに外す。

甘い香りとあたたかい湯気がふわりと広がった。


テーブルに並んだのは――


〈茶苑ルリイロ・本日のランチセット〉


● ルリイロ特製タマゴサンド

→ ふわふわ出汁巻き玉子が挟まった “高さ30cm” の極厚サンド。


● レトロ洋食 オムライス 〜秘伝のデミグラスソースand完熟トマト使用のケチャップで飽きない2つのソース〜

→ 普通の楕円形ではなく “ドーム状”。高さ40cm。上にとろける卵がつやっと光る。


● 具だくさんのクリームシチュー(土鍋)

→ 完全にファミリーサイズ。土鍋いっぱいのクリームシチュー♡



ミキとユキミは固まった。


「……ねぇミキちゃん。」

「うん…分かるよユキミ…見た目は美味しそうなんだけど……」

「なんでオムライスが“スイカ”みたいなサイズなの……?」

「なんでサンドイッチが建物みたいに“自立”してるの……?」


二人の声が震える。


目がイカれたのかと不安になるユキミとミキをよそに、リコとセリナは……


「わー!オムライス光ってる!絶対美味しいやつじゃん!!」

「タマゴサンドのこの厚みよ〜!シチューにつけるの楽しみ〜!」


……完全に食べる気でいた。


いや、実際にはリコとセリナも一瞬...

((食べれるかな?))

とは思ったのだが

((まぁいけるっしょ!))

空腹なので大丈夫だろうと解決した。



ユキミが震える指で鉄鍋を指す。

「こ、これ……喫茶店の〝ランチセット〟よね……?」


ミキが震え声で復唱する。

「〝ランチセット〟...?特盛なんか頼んでないよね……?」


そこへリコがさらっと爆弾を落とす。

「あれ、言ってなかったっけ?この世界来ると食べ物がアホみたいに大きくなるよ。」


続いてセリナも。

「私は黙ってた方がビックリするかと思って黙ってた!」


「「いや言えよ!!」」

ユキミとミキが見事にハモった。


「では頂きましょう。お腹が空きました……」

周囲の混乱を完全にスルーして、紫月は静かに手を合わせる。

食べ物以外が視界に入っていない。


「じゃー食べましょう! せーのっ!」


セリナの掛け声で全員が手を合わせる。


「「「「「「いただきます」」」」」」


巨大オムライスの山が、湯気をたてて六人を待っていた。




ーーーーーー






「食べきれちゃったよ...」

ミキが空になった3つの皿を見て呆然とする。


「シチューの中の野菜はほぼ私に渡してたじゃんよ。」


セリナがツッコむがミキは食い下がる。


「いやいや〜。セリナだってシチューの鶏肉は全部ミキに渡してたじゃん。ていうか野菜抜きにしてもとんでもない量だよ!?」


「セリナ様、ミキ様。お行儀が悪いので次回からは食材の交換はやめましょうね。」


雪乃からのこわーい笑顔でシュンとする二人。


「...セリナさんはお肉が苦手なのですか?」

紫月が口元をナプキンで拭きながらセリナを見る。


紫月はセリナとミキの間に座っていたため、目の前で二人が嫌いな食べ物を交換している様子を見ていた。


「はい。どーも昔から苦手なんですよね。特に脂身。あっ内臓系も苦手です。モツとかレバーとか...」

「お肉が苦手な人もいるんですね...」


信じられない、という顔をする紫月。

そして次に、ミキに目を向けて話そうとするが...


「えっと...ミキさんは...」


モジモジしてしまっている。

馬車から多少会話をしてきたとはいえ、まだ少し人見知りしてしまうらしい。


そんな紫月を見てミキは自分から話しかけた。


「ミキは野菜が嫌いです!甘いものが好きです!」

「そ、そうなのですか。..正直....予想通りです。」

「……?予想通りなんですか?」


アホっぽい表情で首を傾げるミキ。


「ミキちゃん。多分、そういうとこだよ。」

「どーゆーとこだよユキミーー!」


「...ユキミさんは何が好きなのですか?」


紫月はユキミに話しかける。

話のペースを掴んできたようだ。


「あたしは寿司とお酒が好きです!嫌いなものはトマトとレバーと焼いた果物です。」

「お酒が好きなんですね。...その..私はお酒が苦手なので羨ましいです…。」

「そうなんですねぇ。紫月さんは何が好きですか?」


「...え?私ですか?」


ここで話を聞いていたセリナ、リコ、ミキも紫月に詰め寄る。


「私も知りたいでーす!」

「ウチも知りたいでーす!」

「ミキも知りたいでーす!」


「はい、姫様が答えますから落ち着きなさい。」


寄りすぎて雪乃に止められてしまった。


「私は……」

一同が紫月を見る。

「私は……練り切りが好きです。」


「お〜!練り切りですか!可愛いですもんね!」

セリナが拍手。

イメージ通りの可愛らしくて上品なお菓子で納得だ。


「姫様は幼少の頃から練り切りが好きでしたね。墨男が上手に作ってくれてましたし。」


「も、もう。雪乃ったらよして...。」


「紫月さん可愛ーい♡」


「セリナさんまで.....。」


盛り上がる三人。


しかし、〝練り切り〟と聞いて急に静かになった者もいた。


「「「……」」」

ユキミ、ミキ、リコである。


「……?どうかしましたか?」

紫月が不安そうな顔で尋ねる。


すると、ミキが口を開いた。

「……練り切りって何?」


「……は?」

セリナがあんぐり口を開ける。

まさか、と思ってユキミとリコを見ると...


「聞いたことはある……」

「ウチも知らん。」


案の定知らなさそうだ。

これには紫月も雪乃もポカンとしている。


(ど、どうしよう〜!!私らの世界ならまだしも、和の要素がちょくちょく見えるこの世界で知らないは不自然だよ多分!!紫月さんと雪乃さんの反応がそう言ってるもん!!)


セリナが頭を抱えていたその時ーー!


「お待たせいたしました。デザートのケーキセットです。」


店員がワゴンを押してやってきた。

((((た、助かった〜〜!))))

ナイスタイミングだ。


テーブルに並んだのはーー


● ルリイロチーズケーキ&バニラオレ(ミキ)

→ 直径30cmのケーキ。青いゼリーが宝石のように光る。


● モンブラン&コーヒー(ユキミ)

→ マロンクリームが噴火口のように巻かれた巨大サイズ。


● 苺ショートケーキ&味噌汁リコ

→ 直径30cmの白い雪山。苺の赤が鮮烈。


● クレームブリュレ&紅茶セリナ

→ 表面パリパリ、甘い香りがふわり。飾りのベリーが可愛い。器は中華鍋サイズ。


● 季節の上生菓子・練り切り&抹茶(紫月)

→ 薄桃の花びらをかたどった、小さくて繊細な和菓子。巨大スイーツの中で、ひときわ優雅に輝く。数がおかしい。



● ティラミス&ルリイロ特製ノンアルカクテル(雪乃)

→ 淡い洋酒の香り。ティラミスが収まっている木箱の大きさは縦、横、高さ共に30cm。



「「「「わーお」」」」

四人とも同じ反応になった。


((((お、大きいな...でも...))))


量は驚きだが、普通ならこのデザートだけで「うぷっ」ときそうなものを、今の四人の胃は受け入れ態勢になってしまっている。


「あの...リコさん?ひとつお伺いしても...?」


さすがの紫月も驚いた顔をしている。

しかし、視線の先は大量生クリームのショートケーキではなく……


「み、味噌汁ですか?苺の洋菓子に...?」


その横に並んでいる味噌汁だ。


「甘いもの食べたらしょっぱいもの食べたくなるでしょうが!なんだその目は!!」


リコを「えー...」という目で見ているのは紫月だけではない。

その場にいる全員だ。


「いつものことだけど...やっぱリコの舌って……」

「おだまりミキ!!」


ディスってきたミキを指さしてアホっぽく顔をしかめるリコ。


「ま、リコの舌がイカれてるのは置いといて。せっかくケーキが来たんだし食べようぜ。せーのっ、いただきまー...」

「ちょっと待ったぁぁぁぁああああああ!!」


セリナがいただきますの挨拶をしようとした時、やかましくミキが割り込んできた。


「ミキ?どしたの?...あぁ……」


「スイーツには恋バナ!!甘いものには甘い話!!これは世界共通デス!!」


「「「そんな世界しらなーい」」」


暴走を始めたミキを呆れ顔で見るユキミ、リコ、セリナ。

紫月と雪乃はついてこれず目が点になっている。


「さ、ルール発表します!恋バナがある人は恋バナを語る!ない人は好きなタイプをカミングアウト!!」


「いやミキちゃん、あたしらの恋バナ知ってるやないかーい!」


「ユッキー……今ツッコむとこはそこじゃない...」


ユキミとリコのお手軽なボケツッコミを披露したところでセリナが挙手。


「はい!セリナ!どうした!」

「やってもいいけど……言い出しっぺのミキが最初ね。」

「えぇ!?ミキが!?」

「当たり前だい!ミキから時計回りで語っていく。紫月さん、雪乃さん、それで大丈夫ですか?」


「え!?……私は構いませんが...姫様は...」


雪乃はチラッと紫月を見る。


紫月の幼い頃から仕える雪乃は、婚約者のいる彼女の想いが誰に向いているのか把握している。

しかし、それは紫月が明かしたからではない。女の勘というやつだ。


そのため紫月が恋バナを嫌がる可能性は大きい訳だが...


「……いいですよ。私も皆さんの恋のお話...聞きたいですから。」


意外にも紫月は承諾した。


紫月の事情を知るリコ、セリナ、雪乃は心配した目で彼女を見るが……


「じゃあミキからね!ミキは今好きな人いないから過去の恋バナを話す。あ、食べながらきいてね。」


暴走モードのミキにはそんなの関係なかったのだった。



〜episode MIKI〜


「ミキが3年付き合ってた人がいたんだけどね...ちょっとした喧嘩が多くなって別れることになったのよ。

それで最後にミキは「ちゃんと話してから別れたい」って言ったのにあの男は……拒否した!

なのに少したったら手紙とか電話とかで「やっぱりお前と話したい」とか言ってきて!!

ミキはもうアイツがどうでもよかったからどう断ろうかとリコ達に相談したら……」



「その相談したことがバレて、手紙と電話の内容を知ったウチらは元カレにクズ呼ばわり。」

「学年で元カレ派とミキ派に別れてバチバチ。」

「あの時は大変だったね……」


ミキのエピソードでリコ、セリナ、ユキミが遠い目をする。



「そ、そんなことが...」

「ミキ様方も苦労されたのですね……」

紫月と雪乃も同情の目を向けていた。



「つ、次はあたしだね。あたしは……」



〜episode YUKIMI〜


「あたしは...スマホ...は通じないか……手紙のやり取りをしている相手が好きな時期があったな……優しいし、あたしの話をいっぱい聞いてくれるし……電話をかけた時も……グフフフ」



「あ、ユキミが……おーい、戻ってこーい。」

「ミキ、しばらくそっとしておこう。」

「ウチもそれがいいと思う……」


ミキがユキミの顔の前で手を振るが無意味だった。

その証拠に、今もユキミの顔がどんどん溶けている。



「手紙でやりとりですか……ロマンチックですね。」

「ふふっ。姫様も字の練習の際は墨男と雪太郎に手紙を書いていましたね...。」

「ゆ、雪乃ったら……」


耳が赤くなる紫月。

雪乃はそんな紫月を見て母親のように微笑む。



「あら...次は私ですか……私も、過去の恋の話でも……久しぶりにしましょう...」



〜episode YUKINO〜


「あれは私が14か15でしょうか……姫様の元で働き始めて1年経ってない頃です。私には慕っていた人がおりました...同じ屋敷で働いていた青年です。寡黙でしたが、とても……優しい人でした。」


雪乃は語るたびに、遠くを見るような目になる。


「ですが、私の婚約が突然決められてしまいました。家の都合でした。でも...私は……納得できなくて」


彼女は手を重ね、指先を震わせた。


「彼と、駆け落ちを約束しました。未来を信じて……必死に、準備をしてくれて……」


紫月の息が止まる。


「けれどある日、荷馬車の事故で……彼は……息を引き取りました。」


テーブルの上に落ちる沈黙。

甘い香りすら、胸に痛い。


「私は……何も考えられず、決められた人と結婚しました。夫はとても優しい人でしたが……だからこそ…最初は…余計に、苦しかったのです。ですが…私は…夫の私への愛に気づくことができて...かけがえのない息子と出会うことができて、今は幸せです。」


雪乃は紫月を見た。


「姫様。私は……姫様のお気持ちが痛いほど分かります。ですからどうか……あまりおひとりで抱え込まないでください。」


「雪乃……」


ここで紫月は察した。


雪乃は自分の想いをとっくに勘づいていること。

そして境遇の近い者同士、もっと頼って欲しいと願われていることに。

そのためにわざわざ辛い過去を思い出してまで、この話をしてくれたのだろう。


「雪乃……ありがとう...」

「姫様……」




「じゃー次はウチか。ウチは特に恋バナとかないし好きなタイプだな。」



〜episode RIKO〜


「ウチは笑った時に目が細くなる人が好き。ちゃんと笑ってくれてる気がするし。」


「リコは人に興味がないから恋をすることはなさそうだよね〜」


「うるさいなぁ!!」


セリナのからかいに怒るリコ。


「私も……あまりリコさんが異性と二人でいる想像はできませんね……」

「紫月さんまで!?」


「リコ、紫月さんにまでそう思われてるんだよ。」

「ミキひどい!」


ちょっぴり重くなっていた店内の空気が少し柔らいだ。



「次は私のターンか。私も特に語る話は無いし、好きなタイプにしとこうかな。」



〜episode SERINA〜


「私はたくましい人がタイプ!あとイケメン!」


「え、おわり?」

あまりに短くてユキミがツッコむ。


「うん。あとは巡り合わせじゃない?運命ってやつかな。誰かいないかな〜♡」


「セリナは結婚できなさそうー。」

「ミキひどい!」



ここで紫月が挙手した。


「どうしました?」


「こんなこと聞くのも失礼かと思いますが...皆さんには縁談の話は無いのですか?特にセリナさんとユキミさんは青ですし、誰かから申し込みがあるものだと思ったのですが……」



「「「「あー……」」」」

四人は顔を見合わせる。


(((ミキが恋バナしようなんて言うからでしょ!?)))

(ごめーん☆)


「えっと……お転婆すぎて...向こうから断られることが……多くて...」


とりあえずセリナが言い訳をしたが、やや苦しい言い訳だ。


しかし……


「あ……そうなんですね。」

「だからお淑やかにと申し上げたのです。」


二人には妙に納得されてしまうのだった……




「最後は私ですか……」




〜episode SIDUKI〜


「えっと……私は……」


その瞬間、紫月の呼吸がほんの少し乱れた。


リコとセリナに話した時は、勢いと空気に押されて“抑えきれずに”言葉がこぼれただけ。

だが、自分から語るとなると話は別だ。

胸の奥がぎゅっと強張り、喉の奥がひどく重くなる


(あれ……?)


その時だった。

紫月の両手が、ふいに“あたたかいもの”に包まれた。


右手はセリナ。左手はミキ。

二人の指は、逃げ道をふさぐのではなく——支えるようにそっと重ねられていた。


「話したくないなら無理に話さなくて大丈夫ですよ?」

「ミキが変なことを言い出したせいですいません。辛いなら無理しないでください。」



(……手を握られただけで不思議と落ち着いた気がする。)



「二人ともありがとうございます。……よろしければ、このまま握っていてくれますか?」

「「はい!」」



「姫様……私は失礼します。」

「雪乃、気を使わなくて結構です。あなたもいなさい。」

「...かしこまりました……」



紫月はゆっくり息を吸うと、胸に押し込めていた想いを少しずつ言葉に変えた。


「私には……婚約者がいますが……慕っている人がいます。……私は彼ではなく、婚約者と結婚する覚悟を決めました。なのに……やはり彼のことが頭から離れません。もう……苦しくて……」


リコが小さく尋ねた。


「...婚約者は嫌な人なんですか?」



「いえ……とても素敵な方です。優しくて、お洒落で、気品があって...だからこそ...私だけがワガママを言っているようで辛いんです...」


「……」

誰も、何も言えなかった。

何かを言ってどうにかなる状況ではないからだ。


そのはずだったが……


「「紫月ざーーーん」」

「きゃっ」


突然の大声に顔を上げると、

涙でぐしゃぐしゃのミキと、隣で同じく崩壊しているユキミが、

ほとんどゼロ距離で迫ってきていた。


「ミキは紫月さんとその人を応援します...グスッ」

「あ...あたしもでずぅ……ズビッ」


「ミキさん……ユキミさん...?」


二人は立ち上がって紫月にさらに迫る。


「恋はパワーなんです!ね、ユキミ!」

「その通りだよミキちゃん!当人の気持ちが1番大事なんです!」


「は...はい……」


近寄られすぎて紫月が困っていると、


「「はいはい」」


リコとセリナが二人を剥がした。


「「お騒がせ致しました」」


「いえ...でも...嬉しかったです。応援してくれると言ってくださって……そうだ...」


紫月は何かを思いついたように顔を上げた。


「実は……この後...婚約者と会うんです。よろしければ皆さんも来ませんか……?」


「姫様……!」

「お願いです雪乃……」


「……」


「私の婚約者に……あなたたちを紹介させてください。」


リコ・セリナ・ミキはすぐに手を挙げる。

「ウチは行きたい!」「私も!」「ミキも!」


ユキミは少し迷う。

「さすがに今日は帰った方がいいんじゃない...?」


「でもさユッキー。明日は定休日でしょ?」

「うん。……なら大丈夫か!」

リコの説得によりユキミも了承した。



「全員来てくださるんですね。嬉しいです。」




こうして四人は紫月の婚約者と会うことになった。

果たして、紫月の婚約者はいったいどんな人物なのだろうか……?




その後……


「甘いものでずっと同じ味はキツくない?」


互いのケーキをシェアすることで、デザートは何とか完食したのだった。


ーーーーーー





「「ただいまでーす」」


リコとセリナがストロベリーローズのドアを開けると…


「やぁ、おかえり。二人とも無事で何よりだよ。」


佐々木さんが柔らかい笑顔で迎えてくれた。


二人はまた異世界に残ることになるため、無事を伝えるために佐々木さんに顔を見せておこうという話になったのだ。

ユキミとミキには説明が面倒だったので、「トイレ!」と言い残してある。


「あのー、佐々木さん。実は今日も向こうの世界で過ごすことになりそうです。」


セリナが申し訳なさそうに言うと、

佐々木さんは「うん、うん」と優しく相槌を打った。


「分かったよ。君たちはすごいね。もう異世界に馴染んだんだ。……よければ、誰と出会ったのか聞いてもいいかな?」


これにはリコが答えた。


「紫月さん、墨男さん、雪乃さんです。あとは……ロメオさんかな。」


その名前を聞くと、佐々木さんはわずかに目を見開いた。


「紫月だけでなくロメオ君もか……。本当に凄いね君たち。いったい何をしたの?」


「え、佐々木さんは...紫月さんやロメオさんを知ってるんですか?」


セリナが驚いて聞き返す。


「うん、知ってる。だけど、紫月やロメオ君に私のことを聞いても“ 知らない”って言われるよ。」


柔らかい語り口のまま、しかし内容だけが妙に意味深だ。


二人は思わず顔を見合わせた。


「そんなことより。この後は何をしに行くの?」


空気を切り替えるように佐々木さんが問いかける。


「このあとはウチら四人で紫月さんの婚約者に会いに行きます。なんか紫月さんがウチらを紹介したいらしいです。」


「へぇー。なんだか楽しそうだね。帰ったらゆっくり話を聞かせてよ。」


「「はい!」」


「みんなが待ってるのでもう行きますね。行こう、セリナ。」

「うん。佐々木さん、明日は帰ってきますから!」


「「lunch」」


「行ってらっしゃい。気をつけてね。」


手を振りながら、佐々木さんは二人の背中を見送った。

扉が閉まり、店内が静寂に戻る。


カウンターに残った彼は、

さきほどまでの柔らかい笑顔をふっと落とし、

小さく、誰にも聞こえない声で呟いた。







「君たちが紫月を救えなければ、君たちが出会った人は全員死ぬことになる。」

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― 新着の感想 ―
 今回のお話もとても面白かったです!ついにロメオと再開する時が来るのかとワクワクが止まりません!久しぶりの佐々木さん登場だったのに最後のセリフでとても心がざわつきました…。  次回のお話も楽しみに待っ…
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