廿壱葉 ‡ 天草の乱
令和の世に天草の乱
どうやら大友たちは何事も無かったようで、土産物を買って待っていた。
「どこ行ってたんだよ? 」
「すまない。」
大友には悪いが、ちょっと具体的に答える訳にはいかない。
「ちょっと、色葉ちゃんに見せたいものがあったの。鍋島さんは色葉ちゃんの付き添い。」
こういう時の北条さんは助かる。大友が余計な詮索を出来なくなるからだ。東京に戻ると僕と色葉を降ろして大友たちは鎌倉へ向かった。ミッチーと佐野さんには北条さんから説明してくれるそうだ。
「なんか、大変な事になっちゃいましたね。」
「大丈夫だよ。将軍も懐鏡の能力を上げてくれたし、色葉の事は僕が守るから。」
僕は色葉をそっと抱き締めた。この時、色葉が浮かない顔をしていた事に気づかなかった。
***
「天草殿。何故、この世界に拘られる? 」
「あぁ、蘆塚か。幕府の連中は僕があの劣等種に怨みを抱いていると思っているらしいね。でも、それは間違いだよ。僕はあの能力が欲しいんだ。如何なる攻撃魔法をも跳ね返す。防ぐんじゃなくて跳ね返すんだよ。凄いよね? 倒幕の為に必要な能力だと僕は思っている。それに、あの劣等種は佐幕という訳じゃないらしい。あの娘を守る事しか考えていない。あの能力は僕の全力をも跳ね返してしまうけど、あの娘の魔力は普通の町人だ。あの娘を手に入れられれば、あの劣等種はついてくる。」
「あの娘を手に入れろと? 」
「うん。でも、あの劣等種の怒りを買うような真似はするなよ。目的に対して逆効果だからね。転移魔法実験の失敗が転じて僕たちの福となるかは蘆塚に掛かっているんだ。期待しているよ。」
「はっ。」
***
ここ数日、特に目立った動きは無かった。僕が大学へ行っている間はミッチーに色葉の警護を頼んでいた。ただ、急須の中に居ると持ち去られる恐れがあるので出ているようにはさせた。
「キャーッ。」
突然、キャンパスに悲鳴が聞こえた。奴等に関係があるとは限らないが嫌な予感がした。
「ミッチー!? 」
そこにはキズ傷だらけのミッチーが倒れていた。
「鍋島、知り合いか? 取り敢えず医務室に。」
駆けつけた助教授と一緒にミッチーを医務室に運んだ。
「申し訳ござらぬ… 色葉殿を拐われもうした。」
「分かった。色葉は僕が助ける。ミッチーは怪我を治すんだ。」
まだミッチーは何かを言おうとしたが、僕はそれを聞かずに飛び出した。
「おお、若い者は威勢がいいのぉ。」
僕と入れ替わりに医務室に入って来た赤髭の老人はミッチーを見下ろすと眉を顰めた。
「こりゃいかんの。早ぅ手当てせんと。」
「あ、あなたは? 」
「小川と申す、小石川の町医者じゃ。心配せずとも治してやるからおとなしく寝とれ。」
そこから先はミッチーも気を失ってしまったそうだ。色葉も筝葉もミッチーも居ない状況で飛び出したはいいが見当がつかない。そこへタイミングよく佐野さんからGPSの位置情報が送られてきた。ありがたいが佐野さんも危険だ。タクシーで、送られてきた位置情報の場所に着いたが人の気配が無い。
「鍋島さん、こっち! 」
声を掛けてきたのは北条さんだった。おそらく僕と同じように佐野さんから位置情報を送られてきたのだろう。魔法的な戦力にはならないが、居てくれるだけで心強い。もっとも守る相手、助ける相手の数に対して僕一人というのは、些か分が悪い。
「ほう。もう嗅ぎ付けたか。鼻が利くようだな? お陰で呼び出す手間が省けたわ。」
あっさりと見つかったか。だが、ミッチーが居ない以上、跳ね返すしか出来ない能力じゃ、敵の前に出るしかない。将軍め、どんな能力を追加したのか説明しとけよ。何が攻撃は最大の防御だ。使い方が分からなければ、ただの持ち腐れじゃないか。
「色葉を返せっ! 」
ありきたりだが、それしか言葉が浮かばなかった。
「そうだな。貴様がその能力を貸すのであれば、いつでも会えるようにしてやろう。ただし返すのは我々の目的を果たしてからだ。」
「貸す? 貴様らの目的は僕への復讐じゃないのか? 」
「復讐? 天草殿は、そのような器の小さき御仁では、ござらぬ。悪しき現在の幕府を倒し、新たなる平等な秩序を創り上げようとされているのだ。」
「魔法を持たない者を劣等種と呼び、人質をとって協力しろと脅す。それが平等なる秩序なのか? 」
「これは大義の為の必要悪。その汚名は、この蘆塚が甘んじて受けよう。」
僕の質問の後半にしか答えになっていない。一種の盲信というやつだろうか? ともかく、この蘆塚という男にとっては益田… 天草四郎の言う事が正義なのだろう。だが、あいつの正義がO.E.D.O.の正義でも、この世界の正義でもない。ましてや僕の正義なんかじゃない。取り敢えず何とかして色葉を助け出さないと。話しはそれからだ。
色葉を取り戻せ




