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異世界彼女は純和風  作者: 凪沙一人
重なるは時間
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20/38

廿葉 ‡ 相殿

北条さん、将軍様に直談判

『久しいな、小娘。』

「いつまでも小さくはないわよ、猿。」

 目の前に現れたのは将軍ではなかった。しかし、北条さんには面識があるようだ。

「猿? 」

「鍋島さんが会ったのが将軍なら、彼は関白ってところかしら。聖位大将軍って人は居るかしら? 」

 あれ? とすると北条さんは向こうの世界を知っていたのか?

『狸に用か。つまらん。奴なら、まだ先だ。』

 猿の次は狸か。こちらの世界の有名な将軍や関白も、そんな呼ばれ方をしていたな。何処までが真実なのかは分からないが。

「私ね、筝葉ちゃんの話しを聞くまで、関白って幽霊だと思ってたのよ。」

「分かります。魔法の話しが無ければ日本史聞いているみたいですよね。」

 つまり、僕が色葉と出逢うより前に北条さんは関白に会っていた事になるよな。今にして思えば、関白を幽霊だと思っていたとはいえ、どうりで不可思議な出来事に動じなかった訳だ。でも、何故関白がここに居るんだろ?

「ここは家康公、秀吉公、頼朝公が奉られているからかしらね。案外、日本史にも影響しているのかもしれないわね。」

 北条さんに言われると、そんな気もしてくる。後で知ったのだが日光東照宮には相殿《あいどの》、つまり後から秀吉と頼朝が合祀されたらしい。大友も気にはなるが、北条さんを一人で先に行かせる訳にもいかない。僕と色葉がついているからと、ミッチーを二人の所へ返した。

『久しいの。どうやら、その娘を守り抜いているようではないか。天晴れ天晴れ。』

 関白ではないが、確かに狸爺に見えてくる。こちらの世界の征夷大将軍が武家の頭領ならば、この聖位大将軍は魔法使いの頭領のようなものだと思っていたが、威厳に欠けている気がする。北条さんも平伏する感じではない。

「貴方が将軍様? 」

『いかにも。関白から聞いたが、貴公がこちらの世界の北条の末裔か? 』

「一応、後北条の末裔の一端、という事になっているらしいわ。でも、そちらの北条さんとは無縁ではなくて? 」

『こちらも、何故この世界と繋がったのか、取り調べさせておってな。こちらの過去世界の多重世界と唱える者もおる。捨てきれぬ可能性ならば拾っておくのが良策であろう? 』

「で、繋がってしまったものは仕方ないし、閉じられると色葉ちゃんが困るから私的にNGなんだけど、違法な転移者の取り締まりは出来ないの? 」

『一本道であれば関所を設ける事も出来ようが、難しい問題じゃな。』

「つまり、転移者の情報共有も難しそうね。それなら要求は2つ。色葉ちゃんみたいに竜紋さんにも人別を作っていただけるかしら。こちらの世界、特にこの国に常駐するなら無いと不便な事が多いの。それと、私にも守る力が貰えないかしら? 積極的に戦うつもりは無いけれど、関わってしまった以上、身の危険は増えると思うの。その全てを鍋島さん一人で守るのは無理があるのではなくて? 」

『その為に遠山は竜紋を遣わしたのではないか? 』

「色葉ちゃんは女の子なのよ? 同性しか入れない場所で女の転移者に狙われたらどうするの? 」

『遠山に… 』

「あなた、天下の将軍様でしょ? お奉行に言っても、どうせ老中を通して来るんだから、この場で決断した方が早いのではなくて? 」

 北条さんが将軍を圧倒している。まぁ、戦場《いくさば》なら、こんな事もないのだろうけれど。僕と色葉が離れた場所に居る事は、ほぼ無いとはいえ、将軍の言葉を借りるならば、捨てきれぬ可能性なら拾っておくのが良策という事になる。ミッチーも、何かの拍子に不法滞在者扱いをされないとも限らない。見た目はどう見ても日本人だが、言葉遣いと現代日本の事を知らなすぎる。職質でもされたら分からない。

『遠山のところの与力の件については考えよう。じゃが、お主に力を与えるというのは難しいのぉ。その代わり、二人の能力《ちから》を引き上げてやろう。』

 そう言うと将軍の放った光が僕と色葉を包み込んだ。

『これで娘の魔力は同心程ではないが、目明かし程度にはなった。己が身は己が守るとよい。ただし、それはこちらの世界限りじゃ。鍋島は元々魔力が無いので当然、懐鏡の能力を上げた。攻撃は最大の防御。心して用いるがよい。』

「ちょっと待て。将軍、何が起きた? 」

「直? 」

 色葉は怪訝そうにしているが、明らかにおかしい。色葉を守る為に北条さんに能力《ちから》を与える代わりに色葉の魔力を上げる。それはいいとしよう。僕以外の人に能力を拡散するのは避けたいのは分かる。問題は頼んでもいないのに僕の懐鏡の能力を上げた事だ。それこそ、ミッチーがこちらの世界にいるのに、だ。

『さすがに鋭いのぉ。実はじゃ、益田四郎が脱獄しおった。目的は、自分を捕らえたお主らへの復讐と思われる。』

「おい… そうにこやかに話す内容じゃないだろ? 」

『そう申すな。こちらの世界では魔法使いの頭領でも、こちらの世界では、何の権限も持たぬ、ただの爺じゃ。』

 それだけの魔力があれば“ただの”爺じゃないだろうに。

『今は豪族、天草の姓を名乗っていると聞く。詳しい話しは遠山から聞くがよい。』

「ちょっと、将軍。虫のいい話しね。色葉ちゃんを危険に晒して自分たちは何もしないつもり? 」

 北条の指摘に将軍も慌てた。

『異世界への干渉は避けたいのじゃよ。代わりと言っては何じゃが、此度の件、無事に落着したあかつきには、その娘に恩赦として所払いを無効にいたそうではないか。』

 都合のいい話しだが、色葉がO.E.D.O.に戻れるかもと思った時の笑顔の為に僕は将軍の提案を飲む事にした。

天草四郎脱走!

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