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アシュド・グレイと灰の亡霊たち  作者: remono
第一部 世界を墜とすと騙るものが奇蹟を起こすまで
12/18

ネジカの大牢(後編)

 ギュスターヴが壁を叩く。ドシンとした音が周りを振るわせた。それを見てアシュド・グレイは思う。なんとかこの人を聖都まで連れて行かねばと。アシュド・グレイは案内人に誘いをかける。

 


「案内人さん。案内人さん。僕がギュスターヴさんを見張り、聖都まで護衛をするというのはどうですか?」


「アシュド・グレイが空虚主義者を護衛するとは! どんな冗談ですかな! ねえギュスターヴ氏!」


「それでいい、とにかくここから出せ!」


 アシュドの提案にギュスターブがわめく。けれども案内人は渋い顔のままだった。


「いや……それは……上に報告しないと……」


 案内人が困ったように口ごもるとギュスターブが鋭く言う。


「幾時かかる!」


「枢機委員会にかけねばなりません。速くても四~五日かと」


「くそ、それでは遅すぎる!」


「すみません。僕にもっと信用があれば良いのですが」


 アシュドが本当にすまなそうに言った。


「いや、解放を主張してくれただけでもありがたい。アシュド・グレイ。我々は相容れぬ主義を持つ物同

士だが。今回の発言、ありがたく思う」



 そういってギュスターヴは手を差し出してきた。握手のサインである。アシュドはそれを握り返すと体が急に引っ張られた。


「わわ」


 そのままアシュド・グレイを羽交い締めにする。そしてのどもとには鋭いペンが。


「アシュド・グレイを捕らえたぞ! 殺されたくなければここから出せ!」


 そして大声でギュスターヴ・アイリスは叫びだした。 


「おお、ギュスターヴ氏、アシュド・グレイを傷つけたり殺したりしたら、あなたは灰殺しになりますよ!」


「それでもかまわん! トーニオのためだ!」


「大人しくしていてください案内人さん。この人は本気です」


 アシュドが厳しい顔で案内人に言う。


「ギュスターヴ氏、このようなことは……」


「やかましい! 俺を解放しろ!」


「……」


「解放しろ! こいつを殺すぞ!」


「わわわ、案内人さん、僕はまだ死にたくありません!」


 アシュドは今度は情けない声を出す。


「……しかたありませんな。我らが希望、アシュド・グレイを人質にされては」


 案内人はゆっくりと歩み寄りギュスターヴの足につながれた鎖を外す。


「お気は済みましたか?」


「まだだ! 牢の出口までは人質だ!」


 そうわめくとギュスターヴはアシュドを連れて出口へ。出口で門番相手に同じような問答を繰り返し牢屋の外に出た。



「協力、感謝する」


 外に出て小道に入りギュスターヴはアシュド・グレイを解放するとそう言った。


「いえいえ、僕は死にたくなかっただけですよ」


「そうか。義母の面倒まで見てくれた恩人だ、貴様は。その貴様を人質に使うとは、はは、このギュスターヴも墜ちたものよ」


「いえいえ、さっきはあれが最適解でした」


 自嘲するギュスターブをアシュドがなだめる。ギュスターヴは鼻を鳴らした。


「ふん、まあいい。それより俺は聖都に向かうが、貴様はどうする」


「僕も聖都に向かいます」


 アシュドは答えた。


「そうか」


「一緒に行きましょう」


「はは、愉快だ! 空虚主義者とアシュド・グレイが共に旅するとはな」


 アシュドの提案にギュスターヴは大いに笑って答えた。


「そうですね。ところでアシュド・グレイと関わるなの掟はいいんですか?」


「もともと俺は空虚主義者。それに貴様を本物のアシュドと完全に認めたわけではない。貴様はアシュド・グレイにしては知識が貧弱すぎる。本物かどうかも疑わしい」


「そうかも知れません。ですがそれでも僕はかまいません。誰かと一緒にどこかへ行ける! それは嬉しいことです。でも聖都へはどうやって……」


「歩いてと行きたいが……それでは時間がかかる。馬車が使えれば……」


 ギュスターヴがそう言った時遠くの方で大声が聞こえてきた。




「人狩りだ! 人狩りだ! みんな逃げろ!」


 それを聞いてアシュドが呟く。


「人狩り……馬車で……聖都ヘ……これですね!」


 アシュドの提案にギュスターヴも同意する。


「ああ、俺もそう思っていたところだ。だが人狩りに捕まるのは面白くない。枷をはめられるしな。奴らが聖都へ出発する際にこっそり後ろに乗り込むとしよう」


「賛成です。とりあえず人狩りからは隠れましょう」


 アシュドがそう言うと二人は慣れた様子で身を隠した。



 そして夜遅く。集められた人間は幌馬車に押し込められた。押し込めると言ってもその人数は馬車の容量の半分ほどでしかない。


 なのでアシュド・グレイもギュスターヴも夜陰に紛れてあっさりと馬車に乗り込むことができた。驚いたり騒ぎ立てたりするような人もおらず、皆じっと聖都で散りゆく自分の運命だけを考えている。


「見たところおじいさんばかりですね。若い人はほとんどいない、この幌馬車を見張る人すらいない」


「人が足りんのだ。どこでも! どこにも!」


 アシュドの小声の感想に小声でギュスターブは吐き捨てるように小声で返した。


 そのまま二人が人混みに紛れていると、早朝、馬車は動き出した。


「よし、このまま聖都に行けるぞ!」


 ギュスターヴが言う。アシュドは無言で同意の意を示した。


 馬車は一路、南へ向かって走る。激戦の聖都イシュマエル目指して。

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