間――車中の会話
「ところでギュスターヴさんは惑星の賢者について何か知りませんか?」
ゴトゴトと揺れる馬車の中で偽装のため鍵のかかってない枷をはめたままアシュドとギュスターヴは会話をしている。主にアシュドの問いにギュスターヴが答えるといった形で。
「伝承ぐらいしか知らんな。大地のへそを隠したとされるぐらいしか」
「なぜ惑星の賢者は大地のへそを隠したんでしょう?」
「それはアシュド・グレイに世界を墜とされたくないからだろう」
「なぜでしょう。この世界はこんなに仮象でかりそめの物なのに」
「さあな。向こうにも事情があるんだろう。まあ俺はかりそめのままでもかまわないが」
「……なぜこの世界はかりそめなのでしょう?」
「アシュド・グレイである君がそれを問うか。まあいい。創世神話にはこうある。神は世界を作り動植物を作り人間を作ったが途中で飽きてしまった――とな」
「では神が世界を作り、途中で飽きたせいで、我々の存在は仮象なのですね」
「そうだ、神は仮象の我々に実体を与えるはずだったがその過程で飽きた。ゆえにアシュド・グレイを天から使わしたと言われている。自分の役目をそいつにやらせるために、な。まあ俺はそんなこと信じちゃい無いが」
「虚無主義者ですものね」
「そうだ。この世界は神無しで生まれ神もなく散る。それが我らの教え」
「ですがやけに神話についてお詳しいですね」
「ふん、もともといまいましいイシュマエル神学の徒だったからな。聖都の戦場へも行った。そこで虚無主義とであい、いまではそれを友としている」
「なぜ虚無主義者に?」
「戦場を見ればわかるさ」
「……そんなに悲惨なのですか?」
「ああ、もう二百年は聖都をめぐって戦争をしている。馬鹿馬鹿しい戦争を、な」
「イシュマエルと敵対するザルード帝国は実在主義を唱えているのですよね。なぜですか?」
「奴らは神の仕事は完全だと信じているのだ。だからアシュド・グレイの神話を否定する。アシュド・グレイを認めると言うことは神が不完全だと認めることだからな」
「なるほど……」
「それくらい知っていろ。アシュド・グレイを名乗るなら」
「すみません」
「まあ、アシュド・グレイと名乗ってさえいればここイシュマエルやマルクートなどの都市国家諸国ではそれなりの扱いを受けるからな。それを狙ってこれまで多くの人間がアシュドの名を騙り、これからも多くの人間がそうするだろう。お前もその一人だろうと俺は疑っているよ」
「僕は、本物です」
「どうだか」
ギュスターヴは鍵のかかってない枷をはめたまま伸びをすると目を閉じ。うつらうつらし始めた。
アシュドも眠り、馬車は一路聖都へと向かう。




