サラダとドリンクバー
そのサービスエリアについたのは、ちょうど昼の12時だった。アストは、車を駐車場に停めた。谷口は、ぼうっと考え事をしているようだった。
「さあ、谷口さん。香住さんを探して下さい。僕達は、まだ写真もみせてもらってないんですから。」
そう言われて、谷口ははっと正気にかえり、車を降りた。
わたしもドアを開けて辺りを見渡した。
さすがに平日とはいえ、昼食時のサービスエリアは混雑していた。
「探しましょう、谷口さん。」
わたしは、そういうと谷口の手を引っ張った。
「アストは、ここで待ってて。」
車をすぐに動かせる状態にする、そういう癖がついていた。別にアストを仲間外れにしたかったわけじゃないよ。
香住は建物の外にはいなかった。そこで、わたしと谷口は建物の中へ入っていった。店内は混雑していた。食券を買い求める客や、おみあげを探す客であふれかえっていた。
店の中へ進み、空いているスペースを探した。落ち着いて、あたりを見渡そうと思ったのだ。
「あ。」
谷口が声をあげた。
「あの人?」
「ええ。そうです。」
そういいながら、谷口は姉の方に近付きはじめた。伏し目がち。顔は、まあ、整っている方。服装は暗め。仕事帰りだったのを差し引いて。
香住が、弟の姿に気付き、それから・・・。
彼女は、立ち上がり誰かを探した。その目線の先に、彼女と同い年くらいのコートの男がいた。眼鏡を掛けたひよわそうな男。
「姉さん。」
谷口が、そう声を掛けた瞬間、コートの男が走り出した。
谷口は、それには気付かなかった。
わたしは、とっさに走り出す。コートの男は香住の腕を掴むと走り出した。
「おい!誰だお前!」
谷口は、そう言いかけた。
香住は、こちらをふりかえりつつも、男に引きずられるように走っていく。
わたしは、男が走り出た入り口に向かって走った。谷口も走りはじめた。だが、人の波に押し返されて、思うように進めなかった。
わたしと谷口が入り口を出ると、男はそばに止めていた銀色のスポーツカーに香住を押し込むところだった。
「姉さん!」
谷口は、もう一度叫んだが、その声はぶ厚そうなドアの向こうには届きそうに無かった。男は、運転席に回り込み、ドアを閉めると同時に発進した。爆音が響いた。マフラーが替えられた改造車のようだった。近くのおばさんが、驚いて手に持っていただんごを落とした。
わたしは、アストに手を振った。手まねで、早く来い、とやったつもりだった。
アストは、一瞬変な顔をしたが、カローラバンのエンジンをかけて動かす。わたしと谷口は目の前にやってきたそれに乗り込んだ。
「アスト、さっき出ていった銀色の車を追って。」
「あの人が香住さんか?」
アストは、目一杯アクセルを踏み込んで駐車場を飛び出した。
「そうよ。」
「あの男は誰だ?」
「知らないわ。」
「谷口さん。見覚えありますか?」
谷口は、一瞬考えたようだが、すぐに首を振った。
「とにかく、アスト。あの車に追い付いて。」
アストは、ため息をついた。
「まあ、やるだけやってみるけどね。あれ、3000ccターボのスープラだぜ。こっちの4倍はパワーがある。」
大型トラックや、観光バスの間を縫いながら、アストはカローラバンを走らせた。140キロくらいの速度で、追い越し車線を走っていた。だが、一向に銀色のスープラの姿は見えてこなかった。
「いいわ。アスト。もうスピードを落として。」
谷口は、抗議しようとした。
「無理よ。さっき、インターを通り越した。降りたかもしれない。何処か近くの路線バスの停留所でわたしをおろして。」
「どうするんだ、奈々。」
アストは、アクセルを緩めずに答えた。
「わたしは、戻るわ。香住さんの情報を集めてみる。行き先の手がかりが見つかるかも知れない。」
谷口は、それまで黙って話を聞いていたが、ふっと口を開いた。
「蓮田さん。僕に、姉のことを聞いて回る役をやらせて下さい。」
「え?」
「僕は、いままで、姉のことを良く知らないでいました。姉の勤め先にも姉の友達にも会ったことが無い。だから、いい機会だと思うんです。姉のことを知りたいんです。」
アストは、ダメだ、といいかけたようだった。
「いいわよ。」
わたしは、アストを手で制した。
「今回は、仕事としてやっているわけじゃ無い。あなたの手助けをしているだけ。あなたのやりたいようにして。」
近くのインターチェンジで高速道路を降り、谷口を駅まで送った。
わたしは、アストと二人、近くのファミレスに入った。
「あ、わたしドリンクバーと、サラダ。」
アストは、メニューを顔の前からずらして、向いのわたしを見た。
「おまえ、朝もレタスしか食ってないだろ。ちゃんと食えよ。」
わたしは、窓の外を眺めた。
「だって、お金ないんだもん。」
「馬鹿。おごってやるから、食え。」
「いいわよ。おなか、減ってないもん。」
アストは、不機嫌そうな顔で、テーブルの上のボタンを押した。
アルバイトのウエイトレスがやってきて、メニューを聞いた。
和風サラダはおいしくなかった。
ホットコーヒーのお代わりを入れてきてテーブルに戻ると、アストが地図を広げていた。
「どう思う、奈々。」
「え?」
「香住さんを連れていった男だよ。」
「さあ。」
「さあ、じゃなくってさあ。何処に言ったと思う?」
「ああ、そのこと。」
「そのことって、なんか閃いたのか?」
「あ、少し。」
「なんだ?」
アストは、地図から目を離し、わたしを見た。
「あのスープラ、ナンバーの地域名がうちのカローラバンと同じだった。」
アストは、眉を釣り上げた。
「それが、どうかしたか?」
「あのサービスエリアって、県境を超えてから入ったよね。」
「ああ。」
「ってことはさ、あの男は香住さんや、わたしたちと同じ地域に住んでるわけじゃない?」
「ま、そうだろうな。」
「でさあ、わたしあの男を見たんだけど、ひよわそうなんだよね。」
アストは首を傾げた。
「それが、なんだって?」
「たぶん、地元以外には土地勘がないと思うんだ。」
「どういう理屈でそうなるんだ?」
アストは、わたしを睨んでから、地図に目を戻した。
「わたしたちが降りたインターから先は山岳地方よね。あんなスポーツカーで雪道走ると思う?」
「ってことは、この街にいるって?」
「わからない。けど、あのサービスエリアからだとインターは二つしかなかった。どちらかだと思うの。」




