カラフルおにぎり
五年生の鍛錬遠足で宝満山に登るのが母校の小学校の伝統だ。宝満山は修験道の山で、高さは八百メートルほどだが険しく、厳しい。
登山者は修験者とは別の道で、筋力トレーニングしながらのハイキングというくらいの辛さを体験する。つまり、けっこう辛い。
私は太っていて、運動が非常に苦手だった。三合目付近で他の生徒の姿が見えなくなり、五合目で先生も待っていられず先に行ってしまい、この日、体調が良くなかった美樹ちゃんと学年の最後尾を競った。
山頂に近づくにつれ、めまいと吐き気が酷くなり、汗が冷たくなっていく。それでも登らねばならない。下山は別のルートを通るのだ。
「もうみんな下りてるよ」
先に行っていた美樹ちゃんが石段を下りて私を迎えに来てくれた。下山道は山頂から少し下ったところに曲がり角があるという。私は山頂からの景色を見ることなく下山道に向かった。
やっとのことで合流した担任の先生は容赦なかった。
「時間がないからすぐに下山する。悪いんだけど、お弁当は山を下りてから食べて」
同級生たちはすでにお弁当を食べ終わっていて広場で駆けまわり、まったく元気だ。私は過労からの吐き気でお弁当どころではない。膝はがくがく震えているし、汗が流れなくなっていた。
ありがたいことに下山道はやや勾配がゆるく、登りと違って呼吸のたびに喉が焼けそうになることもない。麓から駅まではだらだらの下り坂。電車の中では死んだように眠り、駅から小学校までは道が平らなことに感動しながら歩いた。
校庭で校長先生の長すぎる話を聞いて解散すると、美樹ちゃんがおもむろにリュックからお弁当箱を取り出した。
「お腹すいたー」
そう言って私の腕を引っ張り中庭へ連れて行った。美樹ちゃんと私は学校が飼育しているウサギを見ながらお弁当を広げた。
俵型のおむすびが四つ。ハムで巻いたものと、薄焼き卵で巻いたものがそれぞれ二つ。そんなおむすびは始めて見た。母が張り切って考えてくれたんだろう。ピンクと黄色のおむすびをみんなの前で開けば、きっと「かわいい」と言ってもらえたはずだ。
そっと美樹ちゃんを見てみると、すごい勢いでがつがつお弁当を食べていて話しかけづらい。ウサギはみんな知らんぷりだ。
お弁当箱に鼻を近づけて匂いをかいだ。ハムのしょっぱい匂いと、卵焼きの甘い匂いがして、食欲を揺さぶられたが、私の胃腸は固形物が食べられる状態ではなかった。おにぎりが食べられないと思うだけで涙が浮かぶ。美樹ちゃんがお弁当を食べ終わるのを待って、鼻をかんで学校を出た。
家に帰り牛乳を飲んで、やっと人心地付いた。食卓で改めてお弁当箱を開けた。家で食べたハムと卵焼きで巻かれたおにぎりは優しい味で、やっと鍛錬遠足が終わったのだとほっとした。
安心するとまた涙が出た。汗と涙の二色のおにぎりは塩気が甘くて心に沁みた。