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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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空の大群

夜明け。


王都の東の空から、黒い大群が飛んできていた。


その数は――


多い。


とにかく多い。


王城のベランダにいる魔王軍と国王は、全員で空を見上げていた。


「……」


「……」


「……」


誰もしゃべらない。


あまりにも数が多いからだ。


魔王が小さく言った。


「昆布さん」


「はい」


「……多くない?」


昆布は双眼鏡を覗いている。


「多いです」


「どれくらい?」


「正確な数は分かりません」


「また分からないんだ」


「数えるには多すぎます」


便意も空を見上げる。


「一、二、三、四……」


五利武が聞く。


「何羽までいきました?」


「三十七です」


「おお」


「そこから先が無理です」


「やっぱり多いですね」


殴打が言った。


「でも、こっちに向かって来ていますよ」


「そうですね」


昆布が答える。


「王都へ向かっているように見えます」


国王が城壁を見る。


すでに弓兵が大量に配置されている。


「弓兵、構え!」


城壁の上で兵士たちが一斉に弓を構えた。


ザッ!


「……」


全員が空を見る。


黒い大群は、どんどん近づいてくる。


兵士Aが言った。


「近いぞ……」


兵士Bが言う。


「まだ撃たないのか?」


隊長が答える。


「命令があるまで撃つな!」


「分かりました!」


弓を構えたまま待つ。


しかし――


黒い大群は攻撃してこない。


ただ飛んでくる。


魔王が言う。


「……まだ攻撃してないね」


昆布がうなずく。


「はい」


「じゃあ、待つ?」


「待ちましょう」


五利武がゴルフクラブを持ち上げる。


「私も待機ですか?」


昆布が言う。


「はい」


「分かりました」


五利武はゴルフクラブを下ろす。


「……」


「……」


「……」


再び待つ。


黒い大群は近づく。


王都まで、あと少し。


魔王は少し緊張してきた。


「本当に攻撃してきたら、どうする?」


昆布が答える。


「まず観察します」


「その次は?」


「攻撃してきたら、防ぎます」


「その次は?」


「状況によります」


魔王がうなずく。


「さすが昆布さん」


「はい」


「でも、できれば戦いたくないね」


昆布も頷いた。


「それが基本方針です」


すると便意が手を挙げた。


「魔王様」


「何?」


「もし攻撃されたら、ファイアーですか?」


昆布が振り返る。


「まだ使わないでください」


「ウォーター?」


「それもダメです」


「竜巻?」


「もっとダメです」


「じゃあ何ならいいですか?」


昆布は少し考えた。


「……何もしない」


便意は驚いた。


「それも魔法ですか?」


「魔法ではありません」


魔王が笑った。


「でも一番安全だね」


その時だった。


黒い大群が、さらに近づいてきた。


「来るぞ!」


城壁の兵士が叫ぶ。


弓兵たちが一斉に弓を引き絞る。


ギリギリギリ……


弦が鳴る。


「まだだ!」


隊長が叫ぶ。


「まだ撃つな!」


「はい!」


魔王軍も身構える。


父さんは不思議なスーツ。


母さんは巨大なしゃもじ。


殴打は魔法のバット。


五利武はゴルフクラブ。


便意は瞬間移動の杖。


昆布は双眼鏡。


鍋はヘル鍋。


ゴプリンは鋼鉄のプリンカップ。


全員、戦闘態勢。


ただし――


攻撃してくる気配はない。


黒い大群は王都の上空までやってきた。


そして――


一斉に旋回した。


ブワァァァァァ!!


黒い影が空を覆う。


「うわ……」


魔王が空を見上げる。


「本当に多い」


国王も驚いている。


「これほどの数が王都に集まるとは……」


昆布は双眼鏡を覗き続ける。


「……」


「どうですか?」


魔王が聞く。


「まだ分かりません」


「ですよね」


「ですが、攻撃の動きはありません」


「じゃあ、まだ大丈夫かな」


すると突然。


一匹が急降下した。


「来た!」


兵士たちが叫ぶ。


「撃つな!」


隊長が止める。


そのモンスターは――


城壁の少し手前まで降りてきて。


スッ。


上昇した。


「……」


「……」


「……」


魔王が言った。


「今の何?」


昆布が答える。


「分かりません」


「ですよね」


すると別の一匹が急降下。


スッ。


また上昇。


さらにもう一匹。


スッ。


上昇。


魔王が言う。


「……」


「……」


「……」


「これ、攻撃じゃないの?」


昆布が答える。


「今のところは違うようです」


五利武が言う。


「飛行訓練でしょうか?」


殴打が言った。


「王都の上で?」


「鳥なら普通かもしれません」


便意が言う。


「じゃあ、飛び込みの練習ですかね」


昆布が答える。


「分かりません」


魔王が笑った。


「昆布さん、今日は何回『分かりません』って言ってるんだろう」


昆布は真顔で答えた。


「数えていません」


「そこは数えてよ!」


その時。


黒い大群の一部が――


王城のベランダに向かって降りてきた。


「!」


全員が構える。


父さんのスーツが――


ギュッ。


少し縮んだ。


「父さん!」


「大丈夫だ」


父さんが言う。


「メンタルガード」


メンタルアタックネクタイが叫ぶ。


「仕事だ!」


「何の仕事だ?」


「来客対応」


「鳥の来客か?」


「そうだ」


「どう対応する?」


「まず挨拶」


父さんは空を見た。


「こんにちは」


魔王が思わず笑った。


「父さん、真面目すぎるよ!」


鳥のようなモンスターが近づいてくる。


あと少し。


あと少し。


そして――


ベランダの手すりを越えてくる。


「……」


全員が固まった。


モンスターは翼を広げる。


「来る!」


殴打がバットを握る。


五利武もクラブを構える。


便意も杖を構える。


昆布が言う。


「まだ攻撃しないでください!」


モンスターは――


ベランダを通り過ぎた。


「……」


「……」


そして城の屋根に止まった。


「止まった」


魔王が言った。


モンスターは王城の屋根から、王都を見下ろしている。


そして――


「グルル……」


低い声を出した。


魔王が言う。


「……何か言った?」


昆布が双眼鏡を向ける。


「分かりません」


「ですよね!」


鍋が小声で言う。


「お腹が空いているのでは?」


魔王が見る。


「鍋さん、また?」


「料理人なので」


母さんが言った。


「でも、もしかしたら本当にお腹が空いてるのかもしれないわよ」


国王も考える。


「オオカミモンスターの時も、腹を空かせていたな」


昆布がうなずく。


「確かに」


魔王が言った。


「じゃあ、このモンスターたちも……?」


その時。


屋根のモンスターが、王城の中を覗き込むように首を伸ばした。


そして――


「グルル……」


魔王は言った。


「……」


「……」


「……」


「鍋さん」


「はい」


「料理はまだ出さないでね」


「分かりました」


鍋は少し残念そうにヘル鍋を撫でた。


すると。


空からまた一匹。


さらに一匹。


さらに一匹。


屋根に着地していく。


「増えてる!」


魔王が叫ぶ。


「屋根が狭くなるぞ!」


昆布が周囲を見る。


「王都の上空を飛んでいたモンスターが、少しずつ王城に集まっています」


国王が言う。


「何か目的があるのか?」


昆布は双眼鏡を覗いた。


「……」


しばらく観察する。


そして――


「やはり分かりません」


「最後まで分からないんだ!」


魔王がツッコむ。


その瞬間。


黒い大群の中から、一匹が大きく旋回した。


そして王都の上空を――


グルッ。


グルッ。


グルッ。


何度も旋回する。


すると他のモンスターたちも一斉に同じ動きを始めた。


「……」


国王が空を見る。


「これは……」


昆布も見る。


「……何か合図をしているのでしょうか」


魔王が言う。


「攻撃の合図?」


昆布は首を横に振る。


「分かりません」


「ですよね!」


その時。


空の黒い大群が――


一斉に高度を上げた。


王都から離れていく。


「帰るのか?」


国王が言う。


しかし――


山の方へは向かわない。


王都の上空を、さらに大きく旋回し始めた。


「……」


魔王がつぶやく。


「やっぱり、何かを待ってるのかな」


昆布は答えなかった。


ただ空を見上げている。


そして――


黒い大群の中心に。


ひときわ大きな黒い影が現れた。


「……!」


魔王が目を見開く。


昆布も双眼鏡を止める。


国王も空を見上げる。


その巨大な影は――


ゆっくりと王都へ向かって下降してきていた。


弓兵たちが一斉に弓を構える。


「隊長!」


「まだ撃つな!」


「しかし!」


「まだ攻撃していない!」


城壁が緊張に包まれる。


魔王軍も構える。


父さんのスーツがまた動く。


メンタルアタックネクタイが叫ぶ。


「来客対応!」


父さんが言う。


「だから何で来客扱いなんだ!」


そして――


巨大な黒い影が、王都の上空に近づいてくる。


その姿が、少しずつ明らかになっていく。


魔王は息をのんだ。


「……あれは……?」


昆布が双眼鏡を握りしめる。


「……」


国王が言った。


「何者だ?」


巨大な影は、ゆっくりと翼を広げる。


王都全体に、その影が落ちた。


「……」


果たして。


この黒い大群は――


王都を攻撃するために集まったのか。


それとも。


別の目的があるのか。


そして、巨大な影の正体は――?

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