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三章⑩



『ボクと友達になりたいの……? 別にいいけど……キミって、変わってるね』


 ルカエラ・ヨルムガンド。


 代々王宮魔法士長を務める魔法士名家のエリートであり、数多の魔法を自在に使いこなす稀代の天才魔法士。優れた錬金術の才により、他に類を見ない様々な魔法薬や魔法道具を生み出すことから、人々は彼を『ルミナリス王国の叡智』と呼び讃えているーー


(そんな叡智が、体調不良による魔力不足と研究に没頭するあまり食べることを忘れて行き倒れてたなんて……世の中、なにが縁になるかわかんないなあ)


 ともあれ、生きた屍と化していたルカエラを救うため、私は準備室にある魔法書と材料をかき集め、ゲームの知識を駆使して最上級魔力回復薬を作成。彼に飲ませた後、夕飯時の学食に走り、ルカエラの好きな『たっぷりチーズのホットサンドイッチ』と『特製クラムチャウダー』を購入。実験室に持ち帰り、こうして一緒に夕食を食べている……というわけだ。


「キミのおかげで助かったよ……! ボクの研究室でボヤ騒ぎを起こしてから、火器厳禁にされちゃってね。ここで調合を行おうとしたら、気を失ってしまって……」


「それで倒れていたんですね。手遅れになる前に助けられて、よかったです」


「うん。本当にありがとう……! キミが用意してくれたこの食事も、ボクの好物ばかりで嬉しいよ……!」


(……あれ? それにしても、なんだか好感度が高いような? ルカエラが興味を持つのは、魔法や錬金術だけ。極度の人見知りだから、目を覚まして(プリマヴェラ)を見たら、悲鳴を上げて逃げるだろうと覚悟してたのに)


 ルカエラと二人。実験室の机に並んで座って、熱々のホットサンドを齧りながら首を捻る。逃げるどころか、彼は薄衣の覆面から覗く小さな唇を綻ばせて、にこにこと微笑んでいる。ーーかと思えば、急にズイッと前のめりになった。


「ところで……!! さっき君が作成した最上級魔力回復薬は実に見事だったよ……!! あれは王宮魔法士でも調合に手こずる最高難易度の魔法薬なのに、あれほど効果が高いものを作れるだなんて、本当に素晴らしい……っ!!」


「だから好感度が高ーーハッ! い、いえ! お気に召していただけて、よかったです……! 天才魔法士と誉高いルカエラ様に褒めていただけるなんて、こ、光栄です!」


「フフッ、キミは優秀なのに、謙虚だね……! あの魔力回復薬は一朝一夕では作れない。弛まぬ努力を積み重ねられる人間は敬服に値するよ。キミの魔力は微量だから感知しにくいけど、今までに感じた覚えがないな……もしかして、編入生かい?」


「えっ!?」


(編入生って……、そうか! ルカエラは、私がプリマヴェラだと気づいていないんだ!)


 なるほど、と納得しながら、ゲームの彼の設定を思い返す。


 ルカエラは、『ウロボロスの目』と呼ばれる魔眼の持ち主だ。故に視力が弱く、代わりに魔力によってあらゆるものを感知できる。だが、本人はその能力で人の感情を見抜いてしまうことに悩みを抱いており、覆面は目の力を制御するためのものなのだ。


 でも、今の私にはほとんど魔力がないから、彼の魔眼でも見破れないらしい。


(これは、チャンスかもしれない! プリマヴェラだと気づかれなければ、魔法書を貸して貰えるかも……!)


「そ、そうなんです! 先日、この学園に編入してきた、プ……リリムっていいます! あの、私、事故に逢った後遺症のせいで魔力が回復しなくなってしまったんです。それで、ルカエラ様の魔法書を読めば、解決法が見つかるんじゃないかって。ーーお願いします! 私に、貴方の魔法書を見せていただけませんか!?」


「うん。いいよ……!」


「そ、そこをなんとかーーって、い、いいっ!? いいんですか……!?」


「うん。なにかお礼をしなきゃと思ってたからね……。でも、今夜はもう遅いから、明日の放課後、東の尖塔の天辺においで。二体の女神像の間を潜れば、ボクの個人研究室に入ることができる。他の人には、秘密だよ……?」


「は、はいっ! 絶対行きます! ありがとうございますっ!!」


 深々と頭を下げると、ルカエラはクスクス笑って、楽しみにしてるよと頷いてくれた。


 そして、華奢な白い手を私に向かって差し伸べる。


「その代わり……ボクと友達になってくれないかな……? リリムといると、とても安心するんだ……」


「は、はい! 勿論ですよ!!」


(よ、よかったあ……!! それに、なんだか泣きそう! 思えば、大好きな乙女ゲームの世界で生き返ったのに、ラスボスに下僕にされるわ、推しに殺されかけるわ、女の子に優しいはずの攻略対象に塔の天辺から突き落とされるわ、酷い目にばっかり遭って来たからなあ……! 流石はルカエラ! ファンに『天使』と呼ばれるだけのことはある……っ!!)


 「こちらこそ、よろしくお願いします!」とルカエラの手を両手でしっかりと握り締めると、彼は薄絹越しに僅かに見える双眸を見開き、いっそう嬉しそうに微笑んでくれた。




※9月15日まで、打ち合わせ完了により一章、二章の改稿作業に入ります。その間、投稿頻度が落ちますのでぜひブックマークをよろしくお願いいたします!

(改稿後、現在投稿分と差し替えを予定しております)


読んでいただき、ありがとうございます!

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