表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MIXミックス〜詩と音の物語  作者: 西川笑里
51/51

恋愛対象

 学園祭の準備が本格的に始まっていた。夕方、授業終了後に看板を作ったり大忙しだ。

 意外な能力を発揮したのは和音で、看板の片隅に描く絵がなかなかに上手いのだ。これは詩も今まで知らなかった。

 本を読むか、ノートの片隅に漫画を描いてばかりいたからね、と和音は言う。


「詩、上杉くん借りていい? ちょっと絵を描いてもらいたいの」

 最近はなぜか、和音に用事があるときは、みんな詩に許可をもらいにくるようになった。まあ、クラスの中ではそういうことになっているんだろう。

「どうぞ」

 めんどうなので、「いちいちなんで私に聞くのよ」とは言わない。でも。

(これじゃまるで、私が音ちゃんの飼い主みたいじゃん)

 それはそれで、ちょっと心外だった。

 そんなこともあってか、最近の和音は少し明るくなった気がする。まだ教室で誰とでもしゃべるわけではないが、詩と一緒にいるときの和音を見て、クラスのみんなも少しずつ、ただの陰気な上杉くんではないと気づき始めたようだった。


「ねえ、詩ちゃんはどうやって上杉くんとしゃべるようになったの?」

 近ごろ、何人かの女子に聞かれるようになった。彼女たちによると、いまだに和音とまともな会話をした人がいないらしい。

「実はずっと前にカラオケ屋さんで偶然見かけてね、歌ってる最中に私が上杉くんのルームに押しかけたの」

 嘘ではない。下手に隠すより、この方が言い訳が矛盾して困ることがないだろう。

「でも、詩と上杉くんの組み合わせって意外だったな。詩ってほら、中学んときから結構モテてたじゃん」

「なに? 趣味が悪いとか言ってんの?」

「そうじゃなくて。ほら、上杉くんってほとんど人としゃべらないし、どんな人かもわかりにくいじゃん。だから、選択肢にないというか、恋愛対象って感じじゃなかったっていうか」

 ああ、まあ、そっか。そうよね。

 だって私、最初はあの声に恋をしたんだもの。

……なんて、言えない。

 その和音が、だんだんとクラスになじみ始めている。

 みんなの輪の中で絵を描いている彼を見てると、私だけが知っている音ちゃんじゃなくなってきてる気がする。

「詩ちゃん、どうしたの?」

 詩織がささやく。

「えっ、何が?」

「泣いてる?」

 言われて頬を人差し指で拭うと濡れている。

 あれ? 私……

「やだ、あくびしたからかなあ。変よね」

 そう言ってごまかしたけど、私、ちょっと寂しいのかな。


「おう、詩子」

 学校帰りに和音と別れ、コンビニに寄った帰り、詩は久しぶりに石上に会った。

「あれ? こんな時間に早いわね。部活は?」

「きょうは休み」

「ズル?」

「ちげーよ。本当に休み」

 こうやってふたりで歩くのはいつだったっけ。

「学園祭、来るんでしょ?」

「ああ。和音からどうしてもって頼まれたからな」

「うれしいくせに」

 詩がそう言うと、さんちゃんはちょっと黙った。 

「なあ」

「なに?」

「あのさ、詩子と和音って、その……」

 ん?

「やっぱり付き合ってんだ、よな」

「うん。だから?」

「そ、そうだよな。うん、知ってた」

「だからさ、何が言いたいのよ」

「……いや、なんでもない」

 何よ、変なやつ。

「学園祭でよ、女の子紹介してもらうんだ」

 は?

「知ってるよ。さっきも言ったでしょ。それに紹介するの、わたしの友だちだよ?」

「そうだっけ。そ、そうか。お前も彼氏できてよかった。……和音、いいやつだもんな」

「でしょ?」

 なんだ、こいつ!

「じゃ、……学園祭で」

 それだけ言うと、石上が走り去った。

 本当に、何しに来たのよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ