第3話 姉は素晴らしい人です
「それでは、あなたから見て、お姉さんはどのような方ですか?」
エドワード様に尋ねられ、私は背筋を伸ばした。
姉のことを話すのなら、いくらでも話せる。
「姉は、とても美しい方です。金色の髪も、灰青色の瞳も、まるで宝石のようで……」
「ええ。お会いしたことはありませんが、想像できます」
エドワード様は、穏やかに相槌を打った。
私は嬉しくなって、さらに続けた。
「それに、とても頭がよくて、社交の場でも相手に合わせてお話しできます。貴族の方にも、商人の方にも、失礼なく接することができるのです」
「それは素晴らしいですね」
「はい。私にはできないことばかりです」
姉は、幼い頃から人の目を気にしていた。
貧しい家の娘だと見下されないように、姿勢を正し、言葉遣いを覚え、身につけるものにも気を配った。
私が古い靴を履いていても、姉は決して外へ出そうとはしなかった。
「そんな靴では、ヴァレンティア家の名が泣くわ」
そう言って、姉が使わなくなった靴を私に渡してくれたこともある。
あのときも、私は嬉しかった。
姉は私に、家の名に恥じないものを身につけさせようとしてくれたのだ。
「マリエル様は、お姉さんのことをとても尊敬しているのですね」
「もちろんです」
私はすぐに答えた。
「姉は、私たちの家を守るために、ずっと頑張ってきましたから」
「家を守るために?」
エドワード様が、わずかに首を傾けた。
「はい。父と母が亡くなった後、私たちの家には何も残りませんでした。爵位は叔父様が継ぎ、私たちは古い屋敷で暮らしています」
「それは……大変でしたね」
「ですが、姉は諦めませんでした」
私はテーブルの上で手を重ねた。
「姉は、もう貧しい暮らしには戻らないと言っています。きっと、私まで苦労させたくないのです」
エドワード様の表情が、少しだけ曇った。
「お姉さんは、あなたを大切にされているのですね」
「はい」
迷いなく頷く。
「姉は、私にたくさんのものをくださいます。今日着ているドレスも、姉が使っていたものです。耳飾りも、姉がもう使わないからとくださいました」
私が耳元へ触れると、銀の耳飾りが小さく揺れた。
「姉は、身につけるものをとてもよく選びます。私に似合うものを知っているのです」
「なるほど」
エドワード様は、耳飾りを見つめた。
「それは、よくお似合いです」
「本当ですか?」
「はい。ですが……」
「ですが?」
「いえ。何でもありません」
エドワード様は、少し困ったように笑った。
きっと、姉の方が似合うと思ったのだろう。
姉は美しい。姉が身につけていたものなら、誰だって姉の方が似合うと思うはずだ。
「ところで、マリエル様は何がお好きですか?」
突然そう尋ねられて、私は目を瞬いた。
「私ですか?」
「はい。お姉さんのお話も興味深いのですが、あなた自身のお話も聞かせていただければと思いまして」
私は考え込んだ。
自分の好きなもの。
すぐには思いつかなかった。
「私は……」
窓の外へ視線を向ける。
茶館の庭には、小さな白い花が咲いていた。
「焼き菓子が好きです。あとは、刺繍や庭の手入れも」
「庭の手入れがお好きなのですか?」
「はい。荒れていた場所に花が咲くと、嬉しくなります」
エドワード様は、私の答えを一つずつ確かめるように頷いた。
「それから、姉が選んでくれたものも好きです」
「お姉さんが選んだものなら、何でもですか?」
「はい」
「それは、ずいぶんと強い信頼ですね」
「信頼……」
その言葉を、胸の中で繰り返した。
私は姉を信じている。
姉が私にくださるものは、いつだって私のために選んでくれたものだと思っている。
だから、姉が今回のお見合いを断ってほしいと言うなら、私はその通りにするつもりだった。
「本日は、姉の代わりに来てくださったのですよね」
「はい」
「お姉さんには、私が怒っていなかったと伝えてください」
「ありがとうございます。きっと姉も安心します」
立ち上がろうとしたとき、エドワード様が口を開いた。
「マリエル様」
「はい?」
「もし、ご迷惑でなければ……もう一度、あなたとお会いすることはできませんか?」
私は嬉しくなった。
姉のことを、もっと知りたいと思ってくださったのだ。
「もちろんです。姉に伝えておきます」
エドワード様は、一瞬だけ言葉を失った。
けれどすぐに、いつもの穏やかな笑顔を浮かべた。
「……はい。よろしくお願いいたします」
私は、姉が素敵な方と結ばれる日を想像しながら、茶館を後にした。
その背中を、エドワード様がどんな顔で見送っていたのか。
このときの私は、まだ知らなかった。




