飲んだくれ、準備をする。
ドンッ、とブルーノの目の前に金貨の袋を叩きつける。ジャラリ、と鈍い金属音が店内に響き渡った。
「ツケを返しにきたぜ。」
カウンター内で木製のジョッキを洗っていたブルーノが、袋の中を覗き込み目を丸くする。
「どうしたんだ、こんな大金。テメェ、ついに犯罪にでも手を染め……。」
ブルーノがジャックに訝しげな眼を向ける。
「おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。さっき受けてきた依頼の前払い金だよ。これで今までのツケ、利子をつけて全部チャラだ。」
ブルーノは金貨の袋を手に取り、その重さを確かめると、呆れたような、だがどこかホッとしたような溜め息を吐いた。
「へぇ……本当にあの『ダンジョン調査』の依頼を受けやがったのか。大丈夫か? ここ1年、ろくに体動かしてねぇんだろ?」
「ハッ、安心しろよ。俺は天下のジャック様だぜ? 体が鈍ってようと、腕までは鈍らねぇよ。」
「まぁ、稼げるなら何よりだ。ツケはきっちり払ってもらったぜ。」
ブルーノは金貨の袋を仕舞うと、店の奥へと引っ込んだ。しばらくして戻ってきた彼の両手には、埃を被った木箱が握られていた。それをジャックの目の前へと置く。
「この木箱はなんだ? ブルーノ。」
「開けてみればわかるんじゃねえか?」
ジャックは不思議に思いながら埃を払い、パカリと木箱を開けた。
中に入っていたのは、使い込まれ黒ずんだ革製のベルトに、特異な形状をしたピッキングツール。そして──見事に手入れされ、光を吸い込んだような一本の漆黒の短剣だった。
「なんでこれをお前が持ってんだよ。質に入れた後、すぐに別の商人に売り払われたって……。」
「あんな業物、その辺のクズ商人に流せるかよ。テメェが酒代のために二束三文で売っ払ったって聞いて、俺が裏から手を回して買い戻したんだよ。……テメェがまたこれを使う日が来ると思ってな。」
ブルーノはぶっきらぼうにそう言うと、木箱をジャックの方に押し出した。
「元Bランクパーティのシーフが、そこらのクズ鉄を使うわけにもいかねえだろ? それに、俺は知ってるからよ。お前がこんな所で一生燻ってるようなタマじゃねぇってことをな。」
ジャックは絶句した。そしてフッと自嘲気味に笑うと、木箱から短剣を取り出した。ずっしりとした重みが、手に吸い付くように馴染むのを感じる。
「……ハッ、せっかくツケを払い切ったってのに、また大きな借りが増えちまったじゃねぇか。」
「死に物狂いで稼いで、生きて返しやがれ、この飲んだくれ。」
ジャックはベルトを腰に巻き、ピッキングツールをしまう。そして、愛用の短剣を鞘に収める。錆びついていたはずの冒険者の魂が、今一度、激しく燃え上がるのを確かに感じた。
「待たせたな、嬢ちゃん──さぁ、夢を掴みに行こうじゃねぇか。」




