飲んだくれ、ダンジョンを知る。
「『1年前、勇者パーティによって魔王は倒され、世界に平和が訪れた。めでたし、めでたし。』……ってか? はぁ、、、世の中おめでたい奴らが多くて羨ましいねぇ。」
ドンッと木製のジョッキをテーブルに叩きつけ、俺は深い深い溜息を吐き出した。
俺の名はジャック。しがない冒険者だ。元々はB級パーティでシーフをやっていたが、今や見る影もないただの飲んだくれである。
「毎日毎日、昼間っからくだ巻いてねえでテメェも仕事しろ、仕事!」
カウンターの向こうから、呆れ果てた声が飛んでくる。この酒場の店主、ブルーノだ。
「いいじゃねえか。街のガキどもがよぉ、『勇者様のおかげで平和になってよかったね!』なんて言ってるのを聞くと腹が立つんだ。こちとら、その偉大なる勇者様のせいで商売あがったりだってのに!」
小馬鹿にするように口を細めて真似をするジャック。
「あんまバカにすっと不敬罪でしょっ引かれるぞ!」
「ハッ!こんな飲んだくれの俺の言葉を本気にするやつなんかいねぇよ。何が平和だこのやろう、ただつまらねぇ世の中になっただけじゃねぇか。」
空になったジョッキを差し出し、呂律の回らない舌で愚痴をこぼす。ブルーノは鼻で笑いながらも、手際よく新しいエールをなみなみと注ぐ。
「はぁ、何言ってんだ?実際に勇者様が魔王を討伐してくれたおかげで魔王軍は撤退、そこら中で暴れてた魔獣どもも数を減らした。平和になったのは紛れもない事実だろ?それに平和の何が悪いんだよ。」
「そんなこたぁ、俺だって分かってるよ! 魔獣は少ねぇ方がいいに決まってるし、世界が平和なのは何よりだ。だがなぁ、その魔獣を間引いて日銭を稼いでた俺ら冒険者はどうなる? ギルドの掲示板には依頼の一つも乗ってねぇ、、、なのに生活のためにカネはどんどん減っていく。どうやって稼げってんだ、このやろぉ......。」
「平和ってのはそういうもんだ。危険がねぇなら、冒険者なんて必要ねえのさ。」
「そりゃそうだけどよぉ……。俺はガキの頃から冒険者一筋。これくらいしか能がねえんだ。愚痴くらい言わなきゃやってられねえだろ? なあ、ブルーノ……。」
いつもの無限ループに入った俺の言葉を、ブルーノが「あ、そうだ」
と遮った。彼はカウンターの奥から、くしゃくしゃになった1枚の羊皮紙を放り投げる。
「そこまで稼ぎがねえって言うなら、これに志願してみりゃいいんじゃねえか? 腐っても元B級パーティのシーフだろ?」
「あぁ?……『ダンジョンの調査依頼』? トラップ解除および最深部調査のため、腕利きの同行者を求む、ねぇ……。おいブルーノ、そもそもこの『ダンジョン』ってのは何だ? 魔王軍の跡地とは違うのか?」
さっきまでの酔いが少しずつ醒めていくのを感じる。
「知らないのか? 最近になって見つかった、魔王軍の『隠し跡地』らしいぞ。どうも普通の拠点とは違って、ヤバい魔獣がいたり、凶悪なトラップがある代わりに、魔王軍のお宝が山ほど眠ってるって噂だ。」
「おいおい……そいつは一攫千金も夢じゃねぇな。なんでこんな楽しそうな話もっと早く言ってくれねえんだよ!」
胸の鼓動が高鳴り、久々に目に力が入る。俺はジョッキに残ったエールを一気に煽り、勢いよく立ち上がる。
「よし、今からギルドに行ってくるわ!」
「あ、おい待てコラ!! 今日の酒代払ってけや!!
はぁ、、だが久しぶりにあそこまで気合の入ったジャックを見たなぁ。こりゃもしかするともしかするかも知れねぇな。」
これは、世界に遺されたダンジョンで、一人の飲んだくれシーフが命の危機に陥ったり、あるいはとんでもないお宝をを掴み取ったりする、かもしれない物語。




