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魔王


 魔族と会談するフリして闇討ちをしようとしたイゼル二世に正義の鉄槌を下したり、なぜか魔族のリーリカさんに師匠になるようお願いされたり、エミリアにわざわざグルスト王国まで足を運んでもらったりと怒濤の展開が連続しているうちに、早いもので丸一日が経過していた。


 どんな時でもしっかりとした睡眠を欠かさない俺はこんな時でもいつも通りに眠り、ゆっくりと精神と肉体の休養を挟んでから翌日の昼に改めてグリスニアへと戻ることにした。


 自宅でぐっすり眠っていた俺と未玖が王城にやってくると、まともに寝る時間もなく不眠不休で動いていたらしいアリシアが出迎えてくれた。

 やらなければならない事後処理がそれだけ多かったのか、彼女の顔には明らかに疲労の色が見える。


「ふうぅ……なんとかなったねぇ」


「なんとかなった、と言えるのでしょうか……?」


「即位も終わったし魔族のリーリカさん達とも友好を結べるようになったわけだし、なんとかなったんじゃない?」


 元気がなさそうな顔をしながらも、アリシアが笑う。

 結果だけ見ればあの場で魔族の人と殺し合いになったりするような最悪の事態は避けられたといえる。

 まあイゼル二世が退位しミーシャが継承権を放棄してアリシアが王に就く、というのは彼女にとっての最悪という可能性も、ゼロではないけれど……。


 でも基本的に部屋の中でジッとしていることが多かった、インドア美少女はもはや影も形もない。

 精力的に動きながら臣下達に指示を下している彼女は、前よりもずっと活き活きとしているように見える。


「あれから問題は起きなかった?」


「はい、幸いにも和馬さん達が協力してくれましたから……」


 昨日の夜の時点でとりあえず王国の中で面倒を言う奴らを物理と魔法で黙らせ、ごちゃごちゃ言うやつをエミリアという印籠でねじ伏せ、力こそパワーな展開でアリシアの即位は無事(?)完了した。


 ただそれでもあの後も色々と問題は起こったらしい。

 イゼル二世の下で甘い汁を吸っていた者や、次代の王はミーシャか和馬君だと思って彼女達に擦り寄っていた者……色々な人達からの抗議を受け止めたりしているうちにあっという間に朝になってしまったんだとか。


「今後のことを考えると頭が痛い……というか、徹夜なんかしたの久しぶりなので普通に頭も痛いです……」


「大丈夫そ? オールヒール」


「あ、ふわああああっっ……」


 とろけたような顔をしながら回復していくアリシア。

 回復魔法はある程度であれば肉体的な疲労が回復できる。

 精神的な疲労ばかりはどうしようもないけれど、きっと今の彼女ならなんとかなるだろう。


「とりあえずしばらくの間は俺も定期的に王城にやって来て状況を確認させてもらうつもりだよ。イゼル二世とミーシャがどうなるか次第かもしれないけど」


 ひとまずはイゼル二世は退位し王城の中の私室に軟禁。

 そしてミーシャはそのまま和馬ハーレムに残留という形になった。


 前者は勝手に亡命してどこかに行ったりアリシアに迷惑をかけたりしないようにしっかりと警備をつけ、ミーシャの面倒は和馬君に任せさせてもらうことになった。


 俺がリーリカさん達を治したり、イゼル二世を普通に痛めつけていたりした様子を見た和馬君達は今のところ従順に従ってくれている。


 ただ元国王を警備するのって、心情的にも難しいものがあるだろうから……この辺りはやり方を少し考える必要があるかもね。


 殺して良いって話なら俺がグングニルで消し炭にしても大丈夫なんだけどね。

 もう勇者誘拐の罪があるから、そこに国王殺しが足されても今更痛くもかゆくもない。


「あ、そういえば俺って普通に無罪になったんだっけ」


「はい、エミリアさんとも話し合った結果、罪は問われない形になりましたから」


 昨日アリシアとエミリアという国のトップ同士によって行われた公式な会談により、いくつか決まったことがある。

 その中でもやはり一番大切なのは、和馬君や居なくなった御津川君達を含む勇者への処遇についてだ。


 勇者を勧誘して帝国に連れて行った俺は、具体的な罪状こそでたらめなものの、上層部が見られるリストに見つけたら殺していい人物として記されていた。

 そして同じように帝国へ行った勇者も可能なら生け捕り、無理なら殺害してもよいという形で手配書が回っていた。


 このたびの会見ではそれら全ての罪状が撤回され、俺は晴れて無罪放免の身になった。

 あ、ちなみに改めて三十一人目の勇者として認めてもらうこともできるようになったのだけど、遠慮しておいた。


 今更勇者って言われてもイマイチピンとこないし、そのせいで動きが制限されたりしてもつまらないしね。

 自分、陰の実力者になりたいもので!


「でも意外だったね」


「意外って、何が?」


「私、もっと皆帝国に行くものだと思ってたから」


「ああ、そのことね」


 エミリア達の会談により俺達勇者は、帝国と王国のどちらについても良いということになった。

 戦いへの強制参加義務などもなく戦い人は戦い、そうでない人も成長率は高いのだから在る程度は鍛えてから好きなことをする……といった感じに落ち着きそうだ。


 一応その話をクラスメイトにしにいったわけなんだけど、彼らの中に別に今居る場所から動こうとする人は少なかった。


 恩田君達は王国より過ごしやすくて生活水準も高い帝国に根を張るつもりのようだし、御津川君はこのまま一所に留まらずに冒険者として好きなように生きたいらしい。


 そして和馬君達はそれでもグルストに残るつもりのようだ。

 ミーシャを捨て置けない和馬君は、なんやかんやで結構情が深い男なのかもしれないね。


 ちなみに絶対に移動するという固い意思を持っていたのは、国王によるハニートラップ命令がなくなったことで急にそっけなくされて血の涙を流したクラスメイトの数人くらいなものだった。


 彼らは帝国で彼氏彼女を作るべく、本気で鍛錬に励むつもりのようだ。

 あれが本気になった人間か……と思ってしまった。

 地獄を見てきた彼らは、面構えが違った。


 とまあそんな風に、俺達獅子側高校一年一組の異世界事情はひとまず落ち着くことになった。

 今後は戦いたい人達は戦って、そうでない人は自分達の得意なことを活かして、この世界で生きていくことになるだろう。


 経済が低迷し周囲の国からの評価も最悪に近いグルスト王国側を押しつけられることになってしまったアリシアとしては大変だろうけれど、彼女が辣腕を振るっていけば、退位したイゼル二世の功績なんてあっという間に超えることができるはずだ。


 未玖や俺が焚きつけた側面もあるし、彼女が稀代の名君として語り継がれるよう、俺達もできることはやらせてもらうつもりである。


「さて、それなら俺はそろそろ行こうかな。未玖はここでアリシアを手伝っていてあげて」


「うん、わかった」


「あ、一ついいでしょうか、マサルさん」


 この場を去ろうとしている俺の背中に声がかかる。

 くるりと後ろを振り返ると、そこにはこちらに手を伸ばしかけているアリシアの姿があった。


「ん、何かな?」


 アリシアは胸の辺りに置いた左手を掴んで、開いて、もう一度掴んだ。

 そしてゆっくりと息を吸ってから、ぺこりと頭を下げた。


「その……ありがとうございます。それと私のことは、どうかアリスと呼んでください」


「――うん、わかったよ……アリス」


「はいっ、今後とも、よろしくお願いしますね!」


 そう言って笑う彼女の笑みは、出会った頃よりもずっと力強く、そして美しさに満ちていた。

 今の彼女であればきっと、この国の舵取りをしていくこともできてしまうだろう。

 思わずそんな風に考えてしまうほどに。


 俺はゆっくりとその場を後にする。

 そして向かう先は……彼女達が逗留している貴賓室だ。


「失礼します」


 ノックをしてから中に入る。

 するとそこには居住まいを正して正座の姿勢を取った、リーリカさんとプリオラさんの姿があった。


「よくぞお越し下さいました」


「うん、その……色々聞きたいこともあったので」


「どうぞ、私達が知っていることであれば全てお話致します」


 全て、か……となるといささか、長い話になりそうかな。

 俺は二人と一緒に改めて椅子に座り、何から聞くべきかを考えた。

 気になることは色々とあるけれど……こういうのはまず、一番聞きたいところから聞くのがいいだろう。


「リーリカさんは……なぜ、この国にやってきたの?」


「はい、それは私が――魔王にならなければいけないからです。魔王を僭称するオッドよりも早く魔王になり、魔族領に秩序をもたらす……私は先代の魔王である父と、そう約束しましたから」

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