屎尿回収事業開始
惜しんでわずかに種を蒔く者は、
わずかに刈り取ることしかできない。
惜しまず豊かに種を蒔く者は、
豊かに刈り取ることができる。
「コリント人への手紙Ⅱ」9章6節
翌朝、ドリさんネリさん兄妹と僕は、集会所で落ち合った。
荷車もちゃんと完成しているうえ、肥桶もかなりの量が揃っていた。種まきまでの束の間の農閑期とはいえ、短い時間でみんな良く頑張ってくれたものだ。
「それでは行きましょうか。今回の試験的な運用で見つかった問題点を改善した後、次回から本格的に回収事業を始めていくことになると思います」
肥桶を荷車に満載し、バンに牽いてもらう。徐々にスピードは上昇し、無人の街道をゆく。
朝の9時に出発して、ヴァッハフォイアー辺境伯領へは3時過ぎに到着した。予想していたことではあるが、やはり荷物を積んで走るとなるとかなりスピードが落ちる。
バンのポテンシャル的に言えば、もっと速度を出しても問題はないのだが、これ以上のスピードでの走行は荷物が落下したり崩れたりしかねない。
往路は許容できるにしても、屎尿を満載した復路で荷崩れが起こった日には……。
それに、いくらバンが頑強だとはいえ、あまり無理させる訳にもいかない。ゆくゆくは、オステンヴォルケから流れる川を疎水して、ヴァッハフォイアー辺境伯領まで船路でも行けるようにしたい。
そうすれば輸送量も格段に上がるうえ、往路の移動時間も短縮できる。保存が困難な蔬菜の余剰生産分を輸出することも可能だ。
人口増加率の高いヴァッハフォイアー辺境伯領にとっても、下水処理能力の向上が見込めるこの工事は悪い話ではないはずだ。オステンヴォルケが行う屎尿回収事業だけでは、どうしても追いつかない部分も出てくるであろうし。
「こんにちは、辺境伯。こちらの二人が、この間話していたドリさんとネリさんです。次回以降、彼らが僕の代行としてこの事業の中心的役割を担って下さいます」
「早速のご対応、誠に感謝いたします公爵殿。到着早々、急な話で申し訳ないのですが領内貴族と商業ギルド首脳を交えての、会議に出席して頂くことは可能でしょうか? 内容は回収事業の対象地域の確認と、優先度、一回当たりの回収量と回収頻度、そして報酬についての打ち合わせなのですが……」
おっと、これは本当に急だな。ヴァッハフォイアー辺境伯領内でも、この屎尿回収事業に対する早急な着手が求められていることが良くわかる。
「分かりました。出席させていただきます。こちらの二人も、同席させて頂いても?」
「ええ、もちろん。それではこちらへ」
僕らは応接間から会議室へと移動した。領内の有力貴族が四人、商業ギルトからはギルドマスター、補佐、会計主任、事務長の四名、それに辺境伯と僕ら三人の計12人での会合となった。
オステンヴォルケの主張は、今月から辺境伯領の下水処理能力を超えて排出されている月間約50トンの屎尿のうち、その10パーセントにあたる5トンの処理を担うことであり、ひと月ごとに回収率を10パーセントずつ増やし、一年以内に人口増加分を加味した過剰排出量の50パーセントを処理すること。
対象は過剰排出が深刻な(栄養価の高い)歓楽街を優先し、一回の回収で500キログラム、頻度は三日に一回を基本とする。報酬は1トンあたり白金貨1枚(≒金貨10枚≒銀貨100枚)に加えて、復路の燃料(石炭10キログラム)、郊外にある空家で良いのでオステンヴォルケの屎尿回収事業の出張所の提供を要求した。
形式上の値下げ交渉はあったもの、控えめなこちらの主張は最終的には全て問題なく通った。




