不滅の棘
「この不死の呪いは、魂に食い込んだ不滅の棘なの。この棘は、きっと永遠に抜けないのよ……あたしはあのとき死ぬべきだった。あの子と一緒に」
棘は抜けないかもしれない。仮に抜けたとしても、傷は消えないかもしれない。だけど、なんとかして棘を抜いて、何か暖かくてやわらかいもので、その傷跡を埋めてあげたいと、そう思った。
「あたしの受けたもう一つの呪いも、不死の呪いの絶望を一層色濃くするものだった。あたしの手は、ありとあらゆるとのを腐らせる。誰の手を握ることもできないし、生き物に触れる事すら叶わない。生あるものに死を齎す呪い……まさに半屍の聖女って渾名に相応しいでしょ?」
だけど僕には、聖女の悲しみを黙って聞いていることしかできないでいる。
僕はどうしようもなくなって、泣きそうになった。どうしようもなくて、何もできなくて、だからせめて、できるなら彼女と一緒に苦しみたかった。
「――リヒトさん。彼女を連れて桜の樹の下まで来てください。いまは詳しい説明はできませんが、私はそこで彼女と話さなくてはいけません。どうか、必ず連れてきてください……」
突如として、教会のなかに女神・フェロニアの声が響いた。声は聖女には聞こえていないようだ。
フェロニアが何故、この土地まで僕を導いたのか、ようやく分かってきた気がする。そして、僕は何をすべきかも。
「聖女様。僕と一緒に来てください」
聖女は当惑した様子で、動こうとしなかった。僕は彼女の手を掴んだ。
「何してるの! そんなことをしたら、君の手が……」
彼女は手を振り払おうとしたが、僕は離さなかった。僕は、彼女の右の手を、両手で包み込むように握った。
「……どうして腐らないの? 君は、いったい」
僕は、数ヶ月ぶりに魔法を使った。母から受け継いだ、僕を傷付けるあらゆるものから身を守る魔法を。
「僕なら、貴女の手を握ることができます。……貴女に会いたがっているの方がいます。どうか一緒に来てください」
この世界の母に、僕は深く感謝した。会ったこともないお母様、あなたが下さった魔法は、こんな風に使えば良かったのですね。
僕はこんなに優しい魔法を、どうして戦争になんか使ってしまったのでしょう?
この孤独な聖女の手を握る。この魔法は、ただそれだけのために使えれば充分だったのだ。
「会いたがっている方……? そんなの、いるはずがないじゃない。誰よ、そんな」
「来ていただければ、分かります」
僕は霧雨が降る森の中を奥へ奥へと進んでいった。
目指す桜の樹がどこにあるのか、僕は知らない。それなのに、どこへ行けば良いか自然と分かった。
「待って……どこに行こうとしているの?」
「泉の傍の桜の樹の下に……そこで、彼女は待っています」
聖女は不可解な顔をしたままではあったが、抵抗せず素直に僕に手を引かれるまま歩いた
雨で泉の周囲は煙ったように曇っていた。そのなかに、忘れ去られた桜の樹が一本、立ち枯れたまま佇んでいた。
「来ましたよ、フェロニアさん」
僕は幹に触れて、そう呼びかけた。枯れて落ちそうな細い枝の先に、小さな花の蕾が、心細そうにかすかにではあるが、確かに膨らんでいた。
「……フェロニア? どうして君が、その名前を?」
聖女は目を見開いて、僕を見詰めた。




