筏下り
「ああ、クーボー先生。ちょうど良いところに。……そちらのお二方が、ドリさんさんとネリさんですね。すみません。自己紹介も済ませないうちに恐縮なのですが、この木材を岸に上げるのを手伝って頂いても?」
筏で農業用水路をどんぶらこしていると、ちょうど集会所へと向かっているクーボー先生一行と鉢合わせた。
一人で丸太を岸へと引き揚げるのは、僕には重労働である。既に伐採した木を川まで運び筏に組んだ時点で、僕の気力も体力も底を尽きかけていたのだ。
「公爵様、随分とお疲れの様子で……ドリ、ネリ、早く手伝って差し上げなさい」
「「はい。公爵様、あとは我々にお任せ下さい」」
わ、息ぴったり。流石は双子だ。ドリとネリは打ち合わせもなしに協力してテキパキと木を岸へ引き揚げてゆく。
まるで2つの身体をひとりが操っているみたいだ。
あっという間に30本近い丸太が岸へ揚がった。
「ありがとうございます。ドリさん、ネリさん。改めまして、オステンヴォルケの新たな領主となったリヒト・クヴェーレと申します」
「僕が兄のドリです」
「私が妹のネリです」
「祖父からお話はうかがっております」
「是非ともお力になりたいと思います」
兄と妹は並び合って頭を下げた。確かにドリさんは線が細く、体格も妹のネリさんとほとんど変わらない。というか見分けがつかない。
「そ、それは大変心強いです」
もうどっちがどっちか分からなくなってしまった。二人は一組で捉えた方が間違いが無さそうだ。
「それで、その屎尿回収事業の件についてですが……これで荷車と肥桶、ヴァッハフォイアー辺境伯領までの何往復分かの燃料にはなるかと思います」
僕は丸太を指しながら、勘定をした。
「明日の朝一番に、バンで辺境伯領へ交渉に向かいます。その間に、皆さんで肥桶と荷車の用意をしておいて頂けますか?」
公爵としての僕のはじめての公務は、渉外である。ウンゲツィーファの父親とはいえ、他領の主。ちゃんとプレゼンの準備をしなくては。
「ええ、かしこまりました。しかし、よくお一人でこれだけの量の木を……おや、この切り口は? それに根本から引き抜いたようなものもございますが」
クーボー先生は、到底刃物で伐ったように見えない断面を見ながら、僕に問い掛けた。
「実は、森に入ってすぐ、運悪く凍土羆に襲われまして……これは全部、凍土羆が暴れて倒したのです。お陰で伐採する手間は省けたのですが」
僕は早速、入手した木の三分の一をバンの餌にするために、錬金術で木炭に変え、残りは加工に便利な様に水分を蒸発させ乾燥させた。
「なんと!? よくぞご無事でお戻りになられました……して、凍土羆はどうなったのです?」
「ああ、それなのですが……修道服を着た女性に助けて貰ったのです。と言っても遠くから魔法で援護して下さっただけで、御礼を言う間もなく去って行かれましたが。森の奥に教会があると聞いているのですが、彼女はそこの修道女なのでしょうか? 何か、ご存知ではありませんか?」
僕の問いかけに、ドリとネリは気まずそうに顔を見合わせた。クーボー先生は、思案顔で首を捻った。
三人共、何か訳知りの様子である。
「何か、この件については触れない方が良い事情があるのでしょうか?」
僕がそう問うと、クーボー先生は静かに首を降った。
「いえ、決してそういう訳ではないのですが……公爵様が見たのは、恐らく百年ほど前からこの土地に棲み着いている、“半屍の聖女”でしょう」




