表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界農楽集  作者: 夢忌無意味
第三章 農本主義糞リアリズム
34/100

利用できない資源

「しかし、水を差すようなことを聞きますが……この痩せた土地を、元の、肥沃とは言えないまでも飢えない程度の生産力にまで戻すことができるのでしょうか? 既にクーボー先生からお聞きお呼びではございましょうが、鉱物由来の肥料を買う財源は言わずもがな、屎尿肥料にしても……それに今年は凶作で、冬を越すために村中の家畜を絞めてしまいまして。鶏糞や牛糞をこの土地で賄うことも……」

 一人の老人が、尤もな質問を投げ掛けた。その言葉に、ある者は水を差すようなことを、と目くじらを立て、ある者は絶望で目を伏せた。


「ええ。その事について、これから皆さんにお話ししようかと思っております。立ち話はなんですから、皆さん車座になって話しましょう」

「ああ、誰か領主様に椅子を……すみません。この冬、暖を取るため、集会所の机や椅子、家財も全て薪にしてしまって……」


「いえ、態々ご用意していただかなくても。私も皆さんと同じところに座ります。……しかし、どうしてそんなことを? この土地は森林に囲まれていますから、薪ならば豊富に取れるでしょう?」

 むしろこの土地にある資源は、炭鉱が活用できないいま、森林だけである。これを活用しない手はないだろう。バンの食糧となる炭も、石炭の利用が困難な場合は木炭で賄うつもりである。


「かたじけない……それが、今年は森の木の実も不作でして、それで小型の動物が人里近くまで降りて来たため、それを追って大型の魔物も。冬の始めに薪をとるために森に入った者が帰って来ないことが何度かありまして。先生と相談して、森には近付かんようにしておったのです」

 八方塞がりということだったのか。むしろ、よくこの冬を越せたものだ。クーボー先生が指導者としてこの土地にいなかったら、すでに壊滅的な打撃を受けていてもおかしくない。


「成る程……そのような事情が。さぞ、大変でしたでしょう。して、大型の魔物というのは?」

凍土羆(ツンドラベア)でございます。普段は氷に閉ざされた土地か、雪深い山の頂き付近にしか生息していないのですが……」

 クーボー先生はそう溜め息を吐いた。凍土羆といえば、上級冒険者でもなければ狩れない強力な魔物である。雪深い土地では、この凍土羆を専門にする「羆討ち」と呼ばれる冒険者までいるほど、対策の必要性の高い魔獣だ。


 ある国では、この凍土羆が人間の食物の味を覚えてしまい、村一つが壊滅し、討伐のために軍隊が出動する事態にまでなったこともある。この事件に取材した『凍土羆吹雪』というノンフィクション作品は、世間に大きな衝撃を与えたものだ。


 村にまで降りて来られた日には、農民たちは餓死する前に餌になってしまうだろう。


「土地から地力を奪ったことが、巡りめぐって魔獣の生態系そのものまで変えてしまっているのですね……」

 前の公爵の罪深さよ。……仕事を山と積み上げて逝ってしまったわけだ。


「ええ、今年一年でどれだけ土地を回復させられるか……勝負の年であり、我々は最後のチャンスだと思っております」

 責任重大だ。失敗は許されない状況だ。かくも世界は厳しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ