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異世界農楽集  作者: 夢忌無意味
第二章 土に生きる人々
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開墾と悔恨

「このオステンヴォルケでも、帝国内の他の土地と同様に三十年ほど前までは栽培作物と言えば小麦が主流でした。そこへ、大学を出たばかりの私が甘藍と馬鈴薯を持ち込んだのです。卒業論文として発表した自らの理論を、実践に移すために」

 そう、クーボーは語り始めた。


「五年程経った頃でしょうか。その頃には、根気強く甘藍と馬鈴薯の有用性と安全性を説いて回ったお陰で、いくつかの農家で大々的に育種が行われるようになっていました。その年は帝国北部で大規模な冷害が起こり、小麦への被害が致命的なものとなったのです」

「いわゆる、キノネの冬ですね」

 キノネの冬。四半世紀前に帝国を襲った、大規模な冷害に伴う飢饉である。飢餓が深刻化した農村部では、人々が木の根まで食べる事態に陥ったことから、その名が付いた。


「この土地では、小麦と甘藍・馬鈴薯との生産割合が半々になっていましたので、なんとか餓死者を出さずに済みました。私は、自らの研究が人々の命を救ったことを誇らしく思いました。そして、当時この地を治めていたマウルドレッシャー旧公爵に、更なる甘藍と馬鈴薯の増産を進言しました。……その時の私に功名心が全くなかったかと言えば、否定することはできません。若く傲慢であった私は、実践の場で生み出した成果を、飢えも貧困も知らない帝都の大学のエリート研究者たちに認めさせてやろうと考えたのです」

 クーボーはそう言って自嘲気味に笑った。


「果たして、私の生み出したささやかな成果は、その功名心によって台無しになってしまいました。マウルドレッシャー旧公爵は甘藍と馬鈴薯の栽培を推奨し、やがてオステンヴォルケではその二種のみを栽培するように法令を出したのです。しかし旧公爵がそのような法令を出した理由は、冷害や飢饉に対する備えではなく、利益を追求してのことでした。……たしかにオステンヴォルケの懐は、甘藍と馬鈴薯の輸出によって潤いました。ですが地方貴族として力を蓄えた旧公爵は、より強引なやり方で農民に対し過酷な税を課すようになったのです」

 荒れ果てた畦道をとぼとぼと歩きながら、クーボーは語り続けた。


「重い税を払うべく農民たちはこの二種類の作物を作り続けました。その重税も、しかし当時の農民たちはそれほど苦にはしていませんでした。寂びれた、帝都から見向きもされなかった地方の農村が、甘藍と馬鈴薯によって豊かになりつつあったからです。その実感を、誰もが持っていました。作物を帝都へ輸出するための街道が整備され、商人や護衛のための冒険者が訪れるようになり、村には活気が溢れるようになりました。しかし、そのときは誰も――私も含めて――気づいていなかったのです。我々は、土地を酷使し、未来の収量を前借りしていたに過ぎないことを」

 僕にはすぐに思い当たった。葉を食用とする作物は、葉の成長を促すために大量の窒素を必要とする。そして土の中の窒素の量は有限である。


 十分な施肥をせずに、作物を作り続けるということは、土地から栄養を収奪し続けることに他ならない。この土地の栄養は、金の形で旧公爵の懐に入るか、帝都の胃袋に入るかしてしまったのだ。


「異変はすぐに起きました。二十年前から、甘藍の大きさが目に見えて小さくなっていったのです。私は旧公爵に、農民たちへの税を軽くするか、税金で肥料を購入するかしなければ、甘藍が全く育たなくなりかねないと進言しました。しかし、旧公爵は取り合いませんでした。それでは農民全員で直訴しようと考えたのですが、農民たちも消極的でした。彼らにとって甘藍はもはや、土地から作物の形で得られる金に他ならなかったからです」

 僕はクーボーの視線を追った。きっとこの荒れ地は、一面の目に眩い緑のキャベツ畑だったのだろう。今は、見る影もない。


「そして十五年前、恐れていた事態が起こりました。甘藍の不作に続き、今度は農民たちの主食となっていた馬鈴薯が、病によって壊滅的な被害を受けたのです」


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