第3話 第2節 再会の姉妹
ブリュンヒルデから事情を聞いてから5日ほど経ったが、アスガルド本社や大阪支社のノルンシリーズの動きはまったくない。
念のためブリュンヒルデも学校につれてきており、授業中は部室で待機しているのだが、ブリュンヒルデが語ったことは事実だったのか? と思い始めた頃に動きがあった。
「おっ、すげー美人」
級友が声を上げると同時に、男子生徒が窓辺に集まる。
「おい武人、見に行くぞ」
友人の田中冬夜が武人にヘッドロックをかけて窓際まで引っ張っていく。
窓から外をのぞいた武人は、目を見開いた。校庭にいる美女の容姿がヒルデに似ていたからだ。まさしく姉妹だと納得できた。もっともデザインの元になった人だとも考えられる。
そして美女は武人と目が合うとお辞儀をする。
間違いない、Dollか人か判断は付かないがアスガルドの関係者だ。
級友達がそれに気が付き冷やかすように何か言うが、武人は無視して廊下に出ると校庭に向かった。
「深水武人様でいらっしゃいますね。すこしお時間をいただきたいのですが、できればブリュンヒルデも一緒に」
目の前の女性から敵意は感じられない。そして外見から彼女がDollなのか人なのかも判断できなかった。
「いきなり実力行使で来ると思っていたのに、意外だな」
「何か勘違いをされているようですね。拒否なさいますか?」
女性の言葉は事務的で、表情からは何も読み取れない。
「いや、受ける。けれど、俺も学生の身でね」
「では18時に、駅前のリーフという喫茶店でどうでしょうか?」
その店は、武人もよく利用する店だ。常連連中とも顔見知りだし、店内に見知らぬものが居たらすぐわかる。たぶんそんなことも調べ上げたうえでの誘いだろう。
「分かった」
「そういえば、自己紹介もまだでしたわね。私はヴァルトラウテ。ブリュンヒルデの姉です。ではのちほど」
ヴァルトラウテが立ち去るのを見ていると、田中がやってきた。
「知り合いなのか? お前には深雪ちゃんが居るだろう。頼む、あのお姉さんを紹介してくれ」
田中がいつものように軽口を叩く。紹介してくれというのは軽口ではなく本音だろうけど。
「なぜ、そこで深雪が出てくる? ただの幼馴染だぞ」
「深雪ちゃんは、お前のことが好きだと思うぞ、朴念仁。お前もまんざらではなかろう?」
ニヤニヤと笑う田中。なんだか面白くない武人。
「武人」
深雪が、後ろに立っていた。走ってきたのか、息が少し弾んでいる。
「おっ、深雪ちゃん。では邪魔者は退散しますか」
やはりニヤニヤしながら、校舎に戻っていく田中。ヤツの尻には先が三角になった黒い尻尾が生えているに違いない。と武人は思った。
「武人、今の人って?」
「ヒルデの姉だ。放課後に話がしたいのだそうだ」
「大丈夫なの?」
「ブリュンヒルデも連れて行くし、大丈夫だろ」
心配そうな顔をする美雪。
「わたしも……」
言いかけた美雪をさえぎり即答する武人。
「駄目だ!」
「な、なんでよ?」
「いざと言う時に、俺一人ならどうにかなるけど、お前まで抱えて逃げるのは無理」
美雪は不満そうな顔をしている。それはそうだろうが、これ以上厄介ごとを抱え込むつもりはない。はっきり言って自分のことだけで、いっぱい、いっぱいだ。
「大丈夫だよ。終わったら携帯に連絡入れるから、同好会の方よろしくな」
「あ、うんわかった」
「それじゃ、教室に戻ろうぜ」
その頃、教室では武人の二股疑惑が浮上し、後にネタに困っていた新聞部が号外まで出す騒ぎになるとは武人も美雪も予想していなかった。
「ちょこぱふぇください」
店に入るなり、ヒルデがマスターに注文する。学校帰りに何度かつれてきたせいか、この店のチョコパフェがお気に入りだ。
「武人君にヒルデちゃん、いらっしゃい。美雪ちゃんは一緒じゃないの?」
「約束があって、僕達だけです」
店の中に視線を走らせると、一番奥の席にヴァルトラウテの姿を見つけた。
「僕はオリジナルブレンドをください。奥の席にいますので。ほらヒルデ行くぞ」
武人の姿を認めて、なにやら文庫本のようなものを読んでいたヴァルトラウテが立ち上がりお辞儀をした。
「約束の時間まで、30分ほどあります。早かったですね」
「まあ、女の人を待たせるのも悪いしね」
武人はそんな軽口を叩きながら、ヴァルトラウテの向かいに座った。
1ヶ月以上空いた上、それほど進展もない第2節です。 orz
喫茶店『リーフ』については、私の連載の『ヴァンパイアハンター日誌』シリーズを読んでいただければ分かります。
お勧めはオリジナルレシピのブレンドコーヒーとシナモントーストです(笑
シナモントーストは夕方の時間だと売り切れですけどね。
次回もあまり派手な動きはありません(汗
では、『3節 交渉の姉妹』にてお会いしましょう。
出来れば1ヶ月以内に更新したいなぁ……
(すでに願望の域ですね)