四話
「はぁ……それはいいとして僕の事はディーと呼べ」
「ディー……王子ですか? あ、今は女装されていらっしゃいますからディー王女ですわね」
「ぶち○すぞ」
巫女の言葉にディー王子改めディー王女がマジ切れしています。
「地の文テメェもだ」
地の文にまで切れてしまわれる程、ディー王子の心は荒んでいらっしゃいます。
「お言葉使いがお下品ですわよ。まぁいいですわ、貴方様の事はディー様と呼ばせて頂きます」
巫女の言葉に小さく頷くディー王子は頭をガシガシと掻いています。余程イライラとされているのでしょう。
無理もありません。今まで蝶よ花よと見目麗しい第一王子として育てられてきたのに、いきなり「女装しろ」ですから。普通にグレてしまわれるレベルです。
「お前はロリコン糞神の巫女でいいのかよ? あんな変態神の言うことなんて聞かなくてもいいじゃないか」
「ディー様……私、夢がありますの」
ディー王子の質問に、巫女は穏やかな表情で答えます。それはとても落ち着いた表情で、彼女が八歳だというのを忘れてしまうような。
「以前の世界で、私は一度も恋愛をせずに死んでしまいました。ですから、こちらの世界では殿方と恋をして結婚をして、愛する人の子を産み育てたいのです。だから、その夢を叶える機会を下さった男神様には感謝しております」
巫女の言葉にディー王子は無言です。何か思う所があるのでしょう。
「分かった……これから神託の件に関して、頼む」
そう言うと「今日は疲れたろうし、帰って休め」と巫女を帰そうとされます。
巫女も立ち上がり、「はい。明日からよろしくお願い致しますわ」と言うとドレスの裾を摘まみ、一礼して退出しようと扉に向かいました。
「巫女の部屋はどこだ? 騎士に部屋まで送らせよう」
ディー王子の言葉に巫女は笑顔で王子の方へと振り向きます。
「ご心配には及びませんわ。私の与えられた部屋はディー様の寝室の隣ですから」
言い終わると巫女は軽い足取りで部屋を後にしました。
残されたディー王子は巫女の言葉に硬直されていましたが、我に返るやいなや――。
「何勝手に僕の部屋内に用意してるんじゃぁぁぁぁぁ!!!」
と、今日一番の叫びが部屋中に響き渡っておりましたとか。
そんな訳で、次の日からディー王子の傍には常に巫女の姿がありました。
女装の王子もそれはそれは可愛いのですが、王子に寄り添うように佇む巫女も可憐で、二人が並ぶ様は正にめくるめく麗しのユリの園のようです。
さすが、ロリコン男神が転生させたというだけあって、巫女は大層な美幼女でした。
腰近くまで伸ばされた黒髪は、艶がありクセ一つありません。
以前寝起き姿を王子に晒した事があったそうですが、「ハネてもないし、ぐちゃぐちゃにもなっていなかった。あの髪、実はカツラなんじゃないのか?」と侍従に漏らしていた所を巫女が思いきり頭を叩いていたとの証言が上がっていました。
そして、二重の瞳は両眼ともに漆黒のように黒く、「あの目を見つめていると何処かへ逝ってしまいそうになる」との証言もございます。
きっと逝ってはならないロリの世界への扉が開かれそうになったのでしょう。
そんな二人が並んで勉強をしたり、部屋で談笑する姿は本人達の知らない場所では、天国で天使達が睦み合うようだと、まことしやかに囁かれていました。
「プーくすくす。ディー様ったらそんな汚い字しか書けないだなんて、そんな字で恋文を頂いたとしましたら、千年の恋も醒めてしまいますわぁ。ニッ○ンの巫女ちゃん事、私が美しい文字の書き方を教えて差し上げましょうか?」
「何だニッ○ンの巫女ちゃんとは。どこぞの新興宗教か!? てか千年の恋とか、そんなに生きていたら化物だぞ!!」
「まぁディー様ったら、その踊りは盆踊りか何かですか? 手足がチグハグですわ」
「うぅぅぅ煩い! 盆踊りだか何だか知らないが、もう一度練習するから付き合え!!!」
実際は、こんなやりとりが成されているのを城の人間達は知らないのでした。




