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はじまり 1

 厳しかった寒さも息の根を止め、待ちに待った春がとうとうやってきた。


4月生まれの桐原大介にとって春とは、人生の階段をひとつのぼることを意味し、彼の誕生日の8日は、学校の始業式に重なることが多い。また、お釈迦様と同じ誕生日であり、このことは花まつりというめでたい行事とも重複するわけで、大介の誕生日は彼の周りにいる人なら、忘れることがないという幸運にも恵まれていた。


 この日の朝、大介は家族の誰よりも早く起きて、簡単な朝食を自分でとり、いつもより30分早く家を飛び出した。


外に出ると4月とはいえまだ学ランでは肌寒かった。だが午後には鮮やかな太陽がの顔をのぞかせるはずで、気温も初夏の陽気になると、朝の天気予報が伝えていた。


 大介は城北中学校に着くなり、自分の下駄箱から白い運動靴を出して履き替え、3年C組の教室を目指した。そして教室の前につくと力を込めて扉を開けた。「1等賞」そう呟きながら窓側の席のほうへつかつかと歩いていった。そして椅子に腰かけ校庭に視線を投げた。


 3年生は高校受験を控えているためクラス替えをしないのが通例である。


このことは大介がずっと前から気になっていたA組の田代香織と同じクラスになることはできない。

だが、話すきっかけを作ろうと思えばいくらでも作れそうだが、香織の場合、いつも仲間のさゆりと明子が傍にいるため、どうしても面と向かって話しかけるチャンスがなかった。


 ふと外を見てみると、大介はいままで空は無限大のはずが天井があるような気がした。しばらく何も考えずにボーとしていたらいきなり、


 「大介!」と大きな声が轟いた。

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