第16幕 夢見るglow starter。④
「あの……」
そんな折、言いにくそうに、声が割って入った。
声の主はセディ。
小脇で小さく手を上げている彼の方へと、皆の視線が集まった。
「俺も特技として、地層を読めるんですけど、確かに通常スキルにも、特殊スキルにも表示されていませんね。これも、そう言う事なのかなぁ?」
そうやって小首を傾げるセディに、周りは静かに困惑の表情を浮かべた。
「……あ」
セディの言葉を受けて思い出したように漏れた言葉。
声の主はメイビー。
思った以上に注目を集めてしまった事に若干おろおろしながらも、続きを口にする。
「僕も風読みで天候が予測出来ますけど、表示されていません」
特技と言って良いか迷ったのだろう。声音はおずおずとしていて自信がなさげだ。
けれど、そんなメイビーの心情とは裏腹に、周りの困惑は強くなる。
「そう言や、ワシの薬学系も表示はされとらんの。確かに後学じゃし、魔力もほぼ関係ない。それに、戦闘には関係のない特技じゃ」
マリィが顎を撫でながら首を捻る。
腑に落ちない点もあるようだが、合点のいくところもあったようで、状況を整理しているようだ。
しかしながら。
この発言で、後学かつ魔法能力でないものは、スキル表に載っていない事が、ほぼ確定のようではある。
そして、魔法自体の能力、性能に属さないものは、表示がないと言う仮説も出来る。
だとすれば、やはり戦闘能力に関わりのない特技魔法は、能力にカウントされないのではなかろうか。
「まぁ、基準は正直はっきりしないが、何某かの理由で表示されない物があるみたいな気がするんだ」
清寿は、そうやって不明瞭のまま、一旦話に区切りを付けた。
何も、彼はスキル表のシステムを全部把握したいワケではない。
これ以上の考察は、また必要になった時にすればいいのだから。
不確定要素の方が多いが、スキル表に載っていない『特技』の存在が証明できた事が重要なのだ。
「じゃあ、やっぱりキヨさんも、隠れたスキル持ちなんじゃ?」
ラフィは、清寿の料理技術が特殊なものだと思っての発言だったようだ。
その言葉で、僅かに響動めきが起こる。
賛同した者からすれば、そちらの方がすんなりと納得出来たからだろう。
ーーだが、そうは問屋が卸さない。
「俺自体は、この世界で言う魔力もスキルも、多分無いよ。あるのは、経験だけだから」
そう言う事なのだ。
何たって清寿は、召喚された時に、魔法の『ま』の字すらスキル表に記載されていないと言われていた。
ならば、清寿の中に魔法由来の能力は、ないと判断せざるを得ない。
「ですが、魔力があれば話は変わってくるのでは?」
ラフィは祈るような、縋るような声音で可能性を模索する。
退けないのは、多分今までを覆したくない気持ちがあるからだろう。
清寿は、うーん、と考え込む。
「そこも期待できないかな? 何か活用できる可能性があれば、放逐される事はなかったはずだし」
そう言って、ちょっと困った顔で笑った。
まぁ、尤もな推論だ。
召喚されて数日軟禁。その後に放逐されたのだ。
軟禁中に何か引っ掛かる箇所でもあれば、あのまま軟禁続行になっていたはずである。
確かに、下手な能力があったのなら、あんな風に一か八かの雑な放逐はしないだろう。
手を下さずとも、清寿には確実な『死』が訪れる。そう思ったからこその選択だ。
ただ。清寿の、こう言うところが恐ろしくある。
真実をただの情報として飲み込み、それを他人事のように分析して、何食わぬ顔で人前に並べられる神経。
真面目で人が良さそうな平々凡々の好青年に見えるのに、そこはかとなく胡散臭く感じる所以だろう。
「これと言って特殊な物は何も付随してないと思う。料理は向こうでやってた事だし、ご覧の通り、持ってる知識を活用しただけだ」
清寿はそうやって残念そうに、だが淡々と事実を並べる。
気の利いたお為ごかしのやり方なんぞ、そこいらの誰より熟知しているくせに。
自身の敷いた一線を明確にするためには、相手の気持ちを意図的に察しない。
ーーああ、本当に嫌な男だ。
「それに経験から得た特技も、この世界で適応するかどうか、今から試していかないと何とも言えないし」
清寿がいくら笑顔を浮かべていても、口から出るのは感情を排した推測。
信じる信じないは二の次なのだ。新たな『可能性』の存在を、まずは目の前に横たえる。
「でも、隠れた加護が付随してる可能性はないんですか?」
そう言って、尚も食い下がるラフィからは、どこか必死さを感じてしまう。
まるで無理矢理にでも自分を納得させる欠片を探しているかのようである。
「ないんじゃないかな? 料理だって、特別な出来上がりでもないし」
清寿の口からサラリと落ちた言葉は、『事実』と言うには大袈裟だが、残酷なほどの確定事項ではある。
むしろ、これで『加護』なるものが働いているなら、恩恵の価値など皆無であろう。
今日の料理は、至って平々凡々な出来上がり。
ーー否。努力通り、その通り。やった事に見合った程度の出来上がりなのだから。
「え……特別じゃないんですか?」
残念。ラフィは、二の句を継げなくなってしまった。
何よりも、衝撃的な事実だったようである。あからさまに失望した表情で、テーブルに視線を落とした。
「残念ながら、な」
眉を下げる清寿は、頬を人差し指で掻きながら、申し訳なさそうにしている。
本来ならば、ここで耳当たりの良い言葉を用意した方が雰囲気は良くなるのだろうが、そうしたところで現実は変わらない。
無駄とか無慈悲とか言うよりは、ぼやかした分だけ現実逃避を加速するはめになってしまうのだから。
「それはそれで、心中複雑なんだけどぉ?」
グレイスが複雑な表情で零した言葉は、ラフィが言えなかった言葉でもあった。
2人とも、改めて念押しされた言葉を噛み締めて、深く長いため息を溢した。
「でも、俺が教えた事をエヴァも出来てたし。純粋に、知識と経験の差だけだと思うんだ」
どうしようもない現実のダメ押しが、清寿の口から追撃された。
「まぁ……そう言われると、確かにぃ……」
エヴァの現状を出されて、グレイスも観念したようである。
しょんぼり顔のラフィも、観念したように再び大きなため息を吐いた。
周りも、キャッキャウフフと石鹸で戯れている者たちを除いて、神妙な顔をしている者が多い。
「ただ、さっきも言った通り、分からない部分が大半だけど。それでも、スキル表は特定条件で記入選別が行われている可能性は高いと思うよ」
フォローのつもりで言った清寿の言葉は、上手く伝わっただろうか。
だって、残酷な言い方をしている清寿ではあるが、悲観はしていない。
現実は現実として話していても、終始『新たな可能性』の話もしているつもりなのだから。
それでも、信じてきた前提から外れる事に戸惑う気持ちも、充分過ぎるほどに分かるのだけれども。
「しっかし。色んな事、良く分かったな! やっぱり、キヨは凄いな!!」
毎度のように、あっけらかんとユルが笑ってくれる。
内容には触れず、清寿が示したように、彼が感じた現実だけを重ねてくれた。
「ユルだって、炭作りが得意だろう? アレも充分凄いと思う。炭の質が良いおかげで、今日の料理は上手くできたよ。ありがとう」
そう。清寿の性格が災いしたのは確かだが、言いたい事は手元に揃った事実である。
現実を腐すために言ったわけではなくて、あくまで『何が出来るか』の提示なのだ。
やり方が四角四面で下手っぴではあるのだけれども、前提を壊す事が真意ではないのだから。
「あははは! やっぱ、キヨは最高だよ!! 益々惚れちゃいそうだ!!」
ユルは清寿の真意を拾ってくれて、皆の目線を変えるために大仰なセリフをわざと投げた。
相変わらず、空気のコントロールが秀逸だ。
清寿はそっと胸を撫で下ろす。
「暇人だからな。いろいろ考察する時間があったんだよ」
結局のところ清寿は、ビジネスナイズし過ぎて失敗しそうになっただけ。
何の事はない。事実の羅列が、感情を無視して過給気味なのだ。
今回、そこをユルがフォローしてくれた。
おかげさまで、清寿の首の皮は再び繋がった。
全くもって本当に、毎度ユル様々である。




