27
気になり出したら止まらないのが人間というものだ。
あの日から、綾の頭の中は『小百合さん』でいっぱいだ。敦也が電話をしている時はつい聞き耳を立ててしまっている。
メールも覗きたい衝動にかられる。
敦也本人に聞こうにも、どう切り出したら良いか重巡し上手くいかない。
敦也は相変わらず、優しく、こちらのペースに合わせてくれてはいるが...
『小百合さん』と密会している形跡は今の所見つからないけど、四六時中何をしているかなんて観察はできていないから、絶対とは言い切れない。
敦也は仕事が終われば直ぐに帰って来ているようだし、終わらなくても、家でできる仕事であれば持ち帰り、書斎やリビングでしている。
どちかというと、なるべく自分の視線が届く所に綾を置いておきたいような、そんな雰囲気すらある。
「綾、指輪だが、良い石が手に入ったんだ。カットも素晴らしい品でね」
綾の左手の人差し指を撫でながら、指輪のデザイン画を渡してきた。
数枚あるデザイン画は、婚約指輪と結婚指輪のもの。重ね付けしても使えるようになっている。
ペアで装身具を付けたい人なのかもしれない。いや、私が誠也と交際していたから、その印象が強くて、結婚したのは自分だと主張するためなのかもしれないけど...
ニュースで美馬の社長がピンクダイヤを落札したと流れていた。まさかとは思うが綾の胸は期待に高鳴った。
綾の心はまだ、会ったこともない『小百合さん』のせいで浮き沈みが激しい。
「これ、いいわね。この中央のはピンクダイヤなの?」
いやらしいとは思いつつも、それとはなく探りを入れる綾に、敦也はクスリと笑った。
「ニュース見たのか?サプライズにしたかったんだけどな。まさか、あそこまで騒がれるとは思わなかったよ。石は指輪用だから、小ぶりだが、カットと質が良くてね。一生に一度のプレゼントだから、どうしても特別なモノを贈りたかったんだ」
敦也のこの言葉に綾は『小百合さん』の存在を疑い始めた。大々的にニュースになるようなダイヤを綾の為に購入したのだ。『小百合さん』が敦也と交際していたのなら、敦也と喧嘩になっているだろうし、敦也も、『小百合さん』をこんなニュースで不愉快ない気持ちにさせたくないだろうから。
「このデザインいいわね」
「あゝ、綾の指に似合いそうだ。そうだ、指輪と合わせたデザインのネックレスとピアスも作ろう」
敦也の手が綾の耳朶に延び、そのまま首へ滑り落ちる。
「なら、ピンクダイヤは一つじゃ足りないわ」
クスクス冗談ぽく言う綾に敦也の熱っぽい視線が絡む。
「あゝ、最低、後3つ必要だ」
敦也の唇が綾の首筋に当たり、綾の目が見開く。
「何、真っ赤になってるんだ、奥様」
揶揄われたと思った綾は、顔を真っ赤にして、敦也をポカポカ軽く真似をした。




