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綾はドアを開けた。ソファに座って寛いでいる男女を睨みつけた。
「誠也!なぜ、ここに居るの?今日、婚姻届を出しに行く約束してたじゃない!!」
ソファに座った可愛らしい女性が涙目になり、誠也を見つめている。
「兄様、私のことはいいから、綾さんがあんなに怒ってるんだもん」
誠也は大きく溜息を吐く。
「はあ、婚姻届どころじゃないだろ?優里亜の体調が悪いんだぞ?」
優里亜と呼ばれたソファに座っている女性は綾に視線を向けニンマリと口角を上げた。
どうせ、軽い貧血か立ち眩み程度、婚姻届を出すと知っていて誠也を呼びつけたのだろう。いつものことだ。
「重病じゃないでしょう?婚姻届を出してからでも良かったじゃない!」
今日は誠也と綾が付き合った日だ。14時に待ち合わせをして婚姻届を出す約束をしていたが、待ち合わせ時間になっても誠也は一向に来ない。綾は痺れを切らして、LINEを入れ、何度も電話をしたがことごとく無視された。
待ち合わせから1時間も過ぎた頃、誠也からきたLINEは『悪い、優里亜が体調を崩した』の一文のみ。
怒り心頭でマンションに帰ると、何故か、優里亜が誠也と新居となる部屋のリビングに居る。
このマンションは綾のものだ。綾の両親が生前に遺してくれた。
綾は内心パニックだ。
なぜ、二人がここにいるの?
「綾、優里亜は体調が良くないんだ。わかってくれるだろ?」
何を解れというのだろう?
一気に心が冷めて冷静になる。
「なぜ、優里亜さんがここにいるの?」
「いや、ここは俺たちの新居だろ?だから、優里亜を連れてきたんだ。会社からここが一番近いし」
まるで我が家のように振る舞う誠也。
「そうね、新居になる予定だったわ。でも、まだ、婚姻届は出してないわよね?鍵は誰に開けて貰ったの?」
誠也がここに住む条件は婚姻届を出した後。これはお祖父様達との約束だ。
誠也が一瞬たじろぐ。
「美恵子さんだよ。婚姻届を出されたんですよね。おめでとう御座います。って、開けてくれたよ」
美恵子さんは誠也のお祖父様が雇っているハウスキーパーさんだ。ちょこちょこ綾の様子を見に来て、掃除や作り置きを用意してくれている。
「そう、でも、婚姻届は出してないの、出て行って」
綾は二人を睨みつけたまた、視線をドアの方へ向けて、出ていけとアピールする。
「機嫌直せよ。婚姻届なんていつでも出せるだろ?そんなことでカリカリするなよ。優里亜が体調が悪いんだ、休ませてやるのが思いやりってものだろ?」
誠也の言葉にどんどんと気持ちが冷め、怒りが湧いてくる。
「おじいさまと約束したわよね?婚姻届を出すまで、この家に入らないって!」
綾の怒鳴り声に誠也がたじろぐ。
「美恵子さんがおじいさまに報告したかもね?」
「全く可愛くない女だな、そんな態度だと結婚してやらないぞ」
睨みつける誠也に綾は指輪を外して、投げつけた。
「わかったわ。私達別れましょう」
「はっ、綾、頭を冷やせよ」
誠也は優里亜を気遣うように部屋から出て行った。
空っぽになった部屋に綾はへたり込む。
綾は誠也が好きだった。初恋だった。大学1年生の時に告白して、付き合えたときは天にも昇る思いだった。
付き合った当初は誠也は優しく、綾のささな我儘にも付き合ってくれたが、それがどんどんと綾の優しさに胡座をかくようになってきた。
もう、無理。
優里亜を優先される事が我慢できない。
クリスマス、バレンタイン、尽く優里亜に邪魔されて来た。優里亜が体調が悪い。優里亜が不安がっているんだ。
優里亜が、優里亜が、優里亜が、優里亜が
もう、お腹いっぱい。私の5年間は何だったのだろう。
綾の瞳からボロボロと涙がこぼれ落ちる。
ピロンピロン
スマホが鳴る。
見ると、敦也の文字。
綾はスマホを持ち上げた。
「はい」
「今日、入籍したんだろ?」
不躾な質問だ。
「してないわ」
涙を拭い精一杯、強がる。
敦也は誠也の4つ上の兄だ
「そうか、何があった?」
誰かに聞いてほしくて、綾はつらつらと今日あったこと、そして、今までのことを敦也に話す。
「で、誠也と結婚するのか?」
「するわけないじゃない!!」
綾が怒鳴ると、敦也は笑って言った。
「なら、俺と結婚するか?お祖父様達の約束は俺でも、問題ないだろ?」
「はあ、何言ってるのよ!バカじゃない?頭、沸いてるの?」
あまりの提案に、綾の涙は止まり、大声が出る。
「頭は至って正常だ。俺は今、結婚をお祖父様にせっつかれている。このままだと、顔も知らない相手と結婚させられそうなんだ。綾、誠也よりはおれの方が良いと思うが、どうだ?良い夫になる自信がある」




