第16話 楽しい料理?
「え、でもカレーって大鍋でたくさん作ったほうが美味しいんだよ。具材の旨味がでるんだって!」
「美味かろうがそんなのは却下だ! うちは大家族じゃないんだぞ!」
「えー、いっぱい作ったほうが絶対美味しいのに~」
「そんなに作ったら1週間毎日カレー食うようだぞ?」
「別にいーじゃん……」
「よくないっ!!」
普通に飽きるだろっ!
俺はそれで、以前失敗したことがあるんだ。毎日3食カレーを食うのはとんでもなくツライんだぞ!?
最終的に見るのも嫌になるんだからな。
「じゃあ、この切っちゃった玉ねぎどーすんのさ?」
「…………」
マジか。もうすでに玉ねぎを4個も切ってしまっていたのか。
だが俺は大量のカレーが作られるのを阻止しないといけない。カレー嫌いになりたくないからな。
「いいか、カレーはこの玉ねぎの半分の量で作る。残った半分は味噌汁と野菜炒めに使う。余った分は冷凍だ」
「玉ねぎだけの味噌汁と、玉ねぎだけ野菜炒め? なんか地味すぎない……?」
「んなわけあるかっ! 他にも具材入れるっつーの」
黒豹は分量調整という概念がないらしく、放っておくと数日かけても食べきれない量の料理を出現させてしまう。
こんな感じで進めていくうちに、黒豹が野菜を切り、俺が分量をコントロールして味付けをする、という分業体制が自然とできあがっていた。
「なんかさ~、2人で料理するのって楽しくない?」
「……まあ、そこそこ楽しいかもな」
「アタシ……結構こういうの好きかも」
親父が単身赴任になってからずっと、料理は1人でやってきた。作るのが面倒で買ってくることもあったが、最近は料理をすることが増えている。
黒豹は色々とやらかすので、目を光らせる必要があるがな。
だが……言われてみれば、誰かと料理するのはなかなか楽しいかもしれない。
「いっただきまーす!」
「いただきます……」
黒豹と向かい合って飯を食うのにも慣れてきたが、ほんの少し前まで俺は1人でこのテーブルに座っていたのだ。
黒ギャルなんて相容れない生き物だと思っていたが、意外と打ち解け始めている気がした。
その夜の勉強中に、リビングで黒豹のスマホが鳴った。
メッセージじゃなくて、電話のようだ。
だが黒豹は着信に応じない。
画面に表示されている名前を、ただじっと見つめているだけ。
「どうした……出ないのか?」
「……」
いつも明るい黒豹の表情が……固い。
よほど苦手な相手なのか?
いったい誰から……俺は画面の名前を確認すると『ママ』と表示されている。
なるほど、黒豹を追い出した張本人か。
「俺、向こうに行ってるか?」
「ううん、ここにいて……」
普段の黒豹からは考えられないほどに小さな声だ。
俺は部屋に戻るべきかと立ち上がったが、ソファの端に座リ直した。
「…………」
黒豹は覚悟を決めた様子で通話ボタンを押した。
「……もしもし」
スピーカーにはしていないが、相手の声が漏れてくるくらいの音量だった。
苛立ったような、甲高い声が聞こえてくる。
全てを聞き取ることは出来ないが、時折聞き取れる単語から内容の察しはついた。
振込先の変更を知ったことに対する抗議のようだった。
『いい? あのお金は――』
「でも、アタシこのままじゃ……」
娘を家から追い出したにも関わらず、養育費だけは自分が使いたいらしい。
なかなかに腐ったやつがいたものだ……これが毒親ってやつなのか?
『またそうやって口答えを――』
「違っ、そういうわけじゃなくて……」
『勝手に出ていったくせに、わがままばかり――』
「でも、お母さんが出ていけって……」
黒豹は言い訳のような、謝るような、曖昧な返答を繰り返している。
いつもの明るくて元気な声が、どんどん小さくなっていく。
なんだよこれ。こんなの……お前らしくないじゃねえかよ。
『水商売でもやって稼げばいいでしょ――』
「そんな……学校に行けなくなっちゃう……」
俺はそのやり取りを黙って見ていた。
だが……
「黒豹」
俺が声をかけると黒豹が顔を上げた。目が潤んでいる。今にも泣きそうな、そんな表情だった。
こんなの……見ていられるわけないだろうがぁぁぁぁ!!!!
「……俺に代われ」
「え……?」
「もう一度言う。俺に……代われっ!!」




