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鬼哭啾啾

タイマーで設定していた音楽が静かに流れ始める。


一応10分後位に大きめの音が出るように設定して保険をかけてはいるが、これ位の音量で目覚めると気持ち良く自然に起きれる。


タイマーを止める為、スマホに手を伸ばす。時刻は午前6時だ。


ん?......あれ、圏外?......うーん、元々不安定そうだったし。まあそういう事もあるかな?


旅館のフリーWi-Fiを利用して、試しにインターネットに接続してみる。


駄目だ全然繋がらない。


お姉ちゃんの方を確認すると、既にベッドにはいなかった。どうやらリビングの方にいるらしい。


洋室とリビングの間のドアを開く。


「おはよー、お姉ちゃん」


「おはよう、華凛ちゃん!」


お姉ちゃんはソファで法医学の本を読んでいた。


「ねえ、お姉ちゃんのスマホも圏外になってる?」


「ええ。という事は華凛ちゃんもだね」


「うん、Wi-Fiも使えなくなってるみたい」


「ただの通信障害って訳じゃなさそうね」


外を見ると、今は吹雪いてはいないが、雪がしんしんと降っている。


ぐぅ~~


...まっ、まあ、非常事態なのは分かったけど お腹空いてるし、兎にも角にも今はご飯だよね!


「...と、取りあえず、大広間に行って朝食にしようか?」


「ええ、そうね」


何か考えていたみたいだったが、私の様子を見て察したのか、お姉ちゃんが微笑みながら同意する。


さっきのお腹の音、聞かれてないよね?



2階の大広間の方へ行くと、なにやら美花さんが慌てている様子だった。顔色も少し青くなっている。


......あの様子だと、通信が出来なくなった以外にも やはり何かあったのだろう。


大広間には他に誰もいなかった。


「おはようございます、美花さん!」


「あっ、おっ、おはようございます月代様」


動揺が隠し切れていない。


「何か...あったんですね?」


美花さんが一瞬ビクッとする。


「もしかして どなたか亡くなりましたか?」


「えっ!?はっ、はい!じ、実は...」


美花さんの表情が一気に驚きから恐怖へと変わる。


「お、お父さんが、玄関周りの積雪の状況を見る為に外に出たら......そ、その...あったみたいなんです......!串刺しになった人間の生首がっ!!」


美花さんがショックのあまり泣き崩れるのを、お姉ちゃんが抱き寄せ、美花さんの背中を擦る。


起きた時から何か嫌な予感はしていた...が、やはりそういう事だったか。


「お姉ちゃん」


「ええ」


テレパシーで確認を取り、美花さんが落ち着いたあと、私達は一旦自分の部屋へ上着を取りに行き、現場へと急いだ。



ロビーやラウンジには既に人が集まっていた。皆早起きだな......っていうか、どうして一階にいるんだろう?


元刑事さんが険しい表情をしている他、大広間でおどおどしていた303号室の男性――身長は大体175cm位――の横辺りで、304号室の爽やか系の男性――身長は303号室の男性よりやや低い位――が一瞬少し目を伏せているのが見えた。


玄関付近ではマサさんがショックを隠しきれないでいた。


「マサさん、大丈夫ですか?」


「...うん?あ、ああ、か、華凛ちゃん。た、大変な事になっちゃって......」


「はい、事情は聞きました......大丈夫です。私達に任せて下さい」


友達を励ます為、確信を込めて言った。


「......え?」


お姉ちゃんがスキャンしながら現場に向かって行ったので、無駄に足跡をつけない様に気を付けながら、私はその後ろに続いた。


○はい!マジカル☆タイムリープしゅうりょ~う!お疲れさまでした!


ここから冒頭の場面に繋がって行く訳ですね~!


えっ?そんな事はどうでも良いから、早く続きを見せろクソ女神?......うっ...そんな邪険にしなくても......私あんまり出番が無くて......うぅぅ...。


...と、まあ半分冗談はここまでにして、それでは冒頭の続きからご覧下さい!◯



「死因は分かる、お姉ちゃん?」


再びテレパシーでお姉ちゃんと通信する。


「うーん、頭部だけだし、分かる範囲ではまだなんとも言えないかな」


「そっか。死亡推定時刻は?」


「骨髄のヒポキサンチン濃度と、mRNAの分解具合から、死後6~8日っていう感じかな。目玉がくり抜かれてなかったら、もう少し正確に分かったんだけど」


「他には何か気付いた事とかある?」


「死後それなりに経ってるのに腐敗が殆んど進んでないから、多分亡くなってから あまり時間を置かないで冷凍状態になってるね。

それと、あちこちにナイロンの微細繊維が付着してる。多分、カバンか何かに入れられてたんじゃないかな。

あとは、うーん、この切断面からすると横引きの鋸を使ったと思うんだけど、それにしても頸椎の切断の仕方が荒いっていう事位かな」


「慣れていると荒くならないの?」


「うん大体は」


「分かった。ありがとう、お姉ちゃん。という事は当面の問題は...」


「この死体が誰かって事だね」


その辺りは旅館にいる人達に聞きこむしかないか。


吹雪が再び強くなり、視界が白に染まる。......さっむ!!早く戻らないと!


ロビーではマサさんが少しずつ落ち着きを取り戻していた。


「さっきはごめん...責任者の僕がしっかりしないといけなかったのに...大丈夫だった?」


あんなものを見たのだ。普通は誰でもそうなる。無理もないだろう。


「はい、私は...。ところであの人が誰か分かりますか?」


私は頭部が置いてある方を手で示しながら聞いた。


「あ、うん...。目が無くなってたから、最初誰か分からなかったんだけど、多分1週間前位に泊まりに来てたお客さんじゃないかな」


「どんな人だったんですか?」


「ああ、僕はあまり詳しくは知らないんだけど、部屋でずっと食事をとってたから、雅志が詳しいかも」


いつチェックアウトしたのか正確な時間が知りたいが、この辺りはフロントにいる事が多そうな美花さんに聞いた方が良いだろう。


「電話とかが通じなくなっているみたいですけど、もしかして旅館の固定電話の方も......?」


「うん、そうなんだ。あれを発見した時に、すぐに警察に連絡しようと思ったんだけど、回線が切れてるみたいで全然繋がらなくてね」


まさにクローズド・サークルか。


「あっ、でも食事は1週間分確保してあるし、どうも明日から天気が回復して来るみたいだから、飢え死にしたりする心配はないよ」


という事は今日もまた あの美味しい料理が......と、それは一先ず置いといて...。


「頭部を発見した時の状況を教えていただけますか?」


「あっ、うん。5時半位に吹雪が収まってたから、玄関周りの積雪の状況を見ておこうと思ってね。取りあえずやれる範囲で除雪しようと思ってたら、なんか奇妙な出っ張りが雪の中に見えて、何かなと思って近付いて雪を退けたら...その...あったんだ......串刺しになった...人の生首が」


証言は現場の状況と一致する。

除雪された様子はないし、玄関周りに様子を見に来たと思われる複数人の足跡が見られる他は、生首の方に一直線に伸びるマサさんの足跡以外何もなかった。


「ありがとうございました。ところでマサさん、今から除雪作業をされる予定はありますか?」


「そうだねえ......。流石に今位の猛烈な吹雪の時は厳しいけど、落ち着き次第、除雪車で作業しようと思ってるよ。どうしてだい?」


やっぱり除雪車があったのか。


「警察が現場検証をする時まで、現場を極力保存しておいた方が良いと思うんです。雪を退かせさえしなければ、3Dスキャンで足跡を調べられるみたいなので」


マサさんが目を丸くする。


「へ~、今の技術ってそんな事になってるんだ!いやあ凄い時代になったねえ!いや、一番凄いのは何より......」


マサさんが何か言いかけて止める。


「....うん、分かったよ!どの辺りは避けた方が良い?」


「玄関先から生首を発見したポイントまでの区画で、幅も3~4m程度で大丈夫です!」


「了解!他にも何か協力出来る事があったらいつでも言って」


「はい!よろしくお願いします!」


マサさんと別れた。


さて、まだラウンジに残ってる人は......あっ、刑事さんがいるな。


「おはようございます。なんか大変な事になっちゃいましたね」


私は少し動揺している風を装って話しかける。


「おー、昨日のお嬢さんか。全くだよ。ところでお嬢さん、さっき現場の方に行ってた様に見えたんだが、良く平気だったな?」


鋭い視線が刺さる。流石は刑事さん、向こうの方を向いていると思ってたのに、しっかり観察してたんだ。


「刑事さん、いえ、恐らく元刑事さん、早速ですけど本題に入っても良いですか?」


刑事さんが驚きの微表情を見せる。

微表情は一瞬表れる表情で、その人の本音が出るものだ。


「お嬢さん...何者だ?」


「信じられないと思いますけど、私達、探偵として警察に協力している者です」


「ん~?ああっ!定年になる前になんかそんな話聞いた事があるな。女子高生探偵が難事件を解決してるとかって...じゃあ、お嬢さん達が?」


「はい...信じて下さるんですか?」


「あーうん、そりゃあ、な。確か外部には漏れない様に固く口止めされてたから、普通知ってる訳ねえし、何よりさっきのオーナーに対する指示を聞いてたらな」


あれも聞かれてたのか、そんなに大声で話してたつもりはなかったけど。


「それで何が知りたいんだ?...と、その前に自己紹介がまだ だったか。俺は津川つがわ 哲雄てつおだ、よろしく」


「私は月代 華凛です。こっちは......」


「姉の華澄です。よろしくお願いします」


私達はお辞儀をして挨拶した。


「それで質問なんですけど、もしかして津川さん、この旅館に結構知り合いがいたりしませんか?」


「!...どうしてそう思った?」


「昨日、津川さんが温泉に行かれた時に、404号室の黒ジャージ姿の男性も入って行ったんですけど、"なんでアイツが......!"とか言いながら、すぐに出てきちゃってたんですよね。だから大浴場で他の人と会ったとも考えられない事もないんですけど、何か事件絡みで津川さんにお世話になった蓋然性が高いのかなって」


「ああ、風呂場に入って来た時はまさかとは思ったがやっぱりか。あいつは谷崎たにざき 孝助こうすけ。あのガイシャはつつみ 瑛二えいじっていうんだ」


津川さんの視線が一層厳しくなる。


「どういう人達なんですか?」


「華凛ちゃんは6年前にあった、男子中学生のバラバラ事件って覚えてるか?」


まさか、ここでまた その事件の話を聞くとは思ってなかった。偶々昨日のニュースでもやってたし、一体なんの巡り合わせなのだろう?


「はい。という事はもしかして......?」


「ああ、あいつらは その犯人の内の2人だ。生徒の証言を元に取り調べで詰めていったら、もう一人の犯人である安藤あんどう 和志かずしってやつが真っ先にうたってな。それで三人共、逮捕出来たんだ」


「因みに3人の中でリーダー格の様な人はいたんですか」


「基本的に堤が中心になってたって話だったな」


嫌な予感がするな。


「津川さん、もしかしてその時の犯人が三人共、ここに集まってるって事は考えられませんか?」


「ああ、実は俺もそう思ってたんだ」


これは聞くまでも無い事かもしれないけど、一応聞いておこう。


「因みに昨日の大広間にいらっしゃった方達は...?」


「ああ、あの中に知り合いは誰もいなかったな......ただ...」


「ただ?」


「あー、俺の気のせいだと思うんだが、その...なんか懐かしい感じがしたんだよな......まあ、これは気にしないでくれ」


かなり気になるが、取りあえず今は置いておこう。


「そういえば奥さんはどうされたんですか?」


「ああ、美智子には部屋で待ってもらってるよ。事件の事を思い出しちまって、ちょっと気持ちの整理がつかなくてな」


「美人ですよね奥さん」


「だろ?俺の自慢の嫁なんだ」


津川さんが少し笑顔になる。


「私達は朝食のあと、捜査を続けようと思いますが、津川さんはどうします?」


「そうだなぁ。俺もそろそろ部屋に戻って、美智子と一緒に朝食に行こうかな。腹も減ってるし。......華凛ちゃん、華澄ちゃん、絶対無理はすんなよ」


「はい、ありがとうございます。津川さん達もどうか気を付けて」


「おう」


津川さんと別れ、私達は大広間に向かった。


まだ落ち着かない様子だが、先程に比べると美花さんは大分回復しているようだった。


「美花さん、大丈夫ですか?」


お姉ちゃんが尋ねる。


「あっ...はい、お騒がせしてしまって申し訳ありません」


美花さんが頭を下げる。


「いえ、そんな...。大変でしたね」


優しい言葉をかけられたからか、美花さんの目が少し潤んだが、涙は見せず


「ええ、本当に...でも、もう大丈夫です!お食事ですよね?席までご案内致します!」


美花さんは自分を鼓舞するように笑顔で私達を席まで案内してくれた。


テーブルは全員昨日と同じみたいだったが、今回は401号室のプレートが置いてあるテーブルがあった。


また、私達の他には、今は誰も座っていなかった。


テーブルに着き、美花さんがご飯をよそってくれている時にちょっと質問する事にした。


「ここは私達が一番乗りですか?」


「いえ、303号室と304号室のお客様が先にいらしたのですが、その...食欲が無いから朝食はいらないと仰って帰られました」


さっきロビーで見た二人か。

朝食、勿体ないなとも思うけど、生首を直接見たんだとしたら、普段から見慣れているとかでもない限り、食欲が無くなるのも仕方ない気はする。


「あの二人って、結構同じ所で見かける事が多いんですけど、知り合いか何かなんでしょうかね?」


それとなく聞いてみた。


「うーん、多分偶々じゃないかな......あっ、ないですかね。チェックインも違う日に別々にされましたし、話されている所も見た事はありませんし」


「そうだったんですね......ところで美花さん、お仕事中なのにこんなお願いをするのもアレかもしれませんけど、良かったら気楽にお話して下さいませんか?」


「えっ?」


「公私混同だと思われるかもしれませんが、私達、美花さんともっと仲良くなりたいんです」


「分かりま......うん、分かった!じゃあ私も名前で呼ぶね!」


「はい、お願いします!」


美花さんがご飯をよそい終わる。

他の宿泊客の姿はまだない。


ご飯にお味噌汁に漬け物、焼き魚など、この国に生まれて良かったと思える、シンプルながらも素晴らしい料理を見て、私の食欲は更に強まった。


「そうだ、美花さん。1週間前位に堤 瑛二っていう人が宿泊されませんでしたか?」


「うーん、つつみ、つつみ...あっ、なんとなくだけど覚えてるよ!確か8日前に来て6日前に帰った303号室のお客さんだったかな。

うちってスキーをやるにはちょっと遠い所にあるし、何かと不便だから、この時期、スキー目当てのお客さんは全くと言っていい程来なくて、どちらかといえば湯治目的とかそういう人が多いんだ。

だから割と中高年のお客さんが多いんだけど、珍しく若い人が来てたから印象に残ってたの」


...ん?


「という事はもしかして、今回の宿泊者の年齢層って結構異例だったんじゃ?」


「そうそう!華凛ちゃん達みたいに、商店街の福引きで当たったていう人の枠を401、402、301号室に、この時期は確保してて、そっちの方は若い人もちらほら見かけるんだけど、今回みたいに福引き用の部屋を全く確保していない西側の方の部屋に20代位の人達が固まるなんて事は今まで無かったんだよね」


この事件の背後に、怒りとも憎しみとも違う何か強烈な悪意の様なものを感じる。


「それはそうと、ご飯冷めちゃうよ!私の事は気にしなくて良いから、早く食べて食べて!」


あ、そうだった!


「それじゃあ お言葉に甘えて、いただきます!」


焼き魚を口に運ぶ、皮がパリパリして凄く美味しい!

更にご飯を掻きこむ......ああ、うんまい!!

そして更にお味噌汁を飲む......ああっ!この国に生まれて来て良かった~~!!


「うふふ、華凛ちゃん凄く美味しそうに食べるね!源さんも絶対嬉しいと思うな」


「源さん?」


昨日マサさんからも聞いていたが、食べ物を飲みこんだ後に聞いてみた。


「あ、うん。料理人の熊澤くまざわ 源三げんぞうさん。長年うちで働いてくれてるの。そういえば前に綺麗なお孫さんが会いに来てたな。確か源さんと同じ様に料理人の...」


もしかして......


「それって下山 多恵さんって人じゃありませんでした?」


「そうそう!......って、華凛ちゃん達、多恵さんと知り合いだったの?」


「はい。前に料理をご馳走になった事があって......」


こんな偶然ってあるんだ。

ていうか、だから料理もこんなに凄いんだな。


「へえ~!なんか凄いね。運命って感じ?」


そう、一体何処からが必然で、何処からが偶然なんだろう?


その答えを出すには まだピースが足りない。


「ええ、本当に」


私は笑顔で答えた。


「美花さん、安藤あんどう 和志かずしっていう方が旅館に泊まっていらっしゃいませんか?」


食事を堪能している私に代わって、お姉ちゃんが聞いてくれた。


「うん!今403号室に泊まっているお客さんだよね?...もしかして、あの人も知り合い?」


やっぱりあのパーカーの人だったか。


「はい、実はそうなんです...」


お姉ちゃんがそれとなく話の調子を合わせる。


「えぇ~~!なんかそこまで行くとちょっと怖いね。偶然とは思えないっていうか...。事件まで起きちゃうし......」


そう言って美花さんの表情が陰る。


「本当に...。でも不安な状況でも、お互い協力し合っていけば大丈夫だと、私思うんです」


美花さんがハッとした表情を見せる。


「...うん、そう...!そうだよね!何か私にも出来る事があったら、いつでも言ってね!」


やっぱりマサさんの娘さんだな。

私は魚の残りをモグモグしながら思った。


ふと、大広間の入り口の方を見ると、身長は175cm弱、紺色の作務衣を来たスポーツ刈りの男性が、膳を載せたカートを押しながら、何やら深刻な顔をして厨房へと小走りで入って行った。

多分あれが雅志さんだろう。


また、食器を見た感じ、どうやら料理には手がつけられていないようだった...勿体ないな。


「ありがとうございます!...それにしても、ここって凄いですよね。少人数で経営していらっしゃるみたいなのに、隅々までサービスが行き届いていて、そのどれもが高品質で...」


「ふふ、ありがとう!大変な事も勿論あるけど、色んな人と会えて結構お仕事楽しいし、家族皆ここが大好きだから」


心から楽しそうに美花さんがそう語った時、再び雅志さんが厨房から小走りで出て来たかと思ったら、そのまま大広間を出ていった。



その後、少し経って大広間に津川さん達が入って来た。


「あっ、それじゃ私行くね!」


「はい、お仕事頑張って下さい」


私達は手を振って別れた。


「華凛ちゃん、これからどうする?」


お姉ちゃんがテレパシーで聞いてきた。


「さっき厨房の方に、雅志さんが膳をカートに載せて厨房に返しに来てる所と出て行く所をちらっと見かけたけど、料理には全く手がつけられてなかったみたいだったし、なんか慌ててるみたいだった」


「それってもしかして......ロビーの方へ降りてみようか」


「そうだね」


大広間を出る時に、欠伸をしながら歩く20歳前後の若い女性とすれ違った。

マッシュ風のショートで髪を耳にかけている。身長は私よりも少し低い位か。


「さっきの人は昨日大浴場で見たよ。入れ違いで来た2人の内の最初の人」


階段を降りて行く時にお姉ちゃんが言った。


ロビーに着くと、マサさんと雅志さんが、何やら深刻な顔で話をしていた。


「もしかして誰か失踪しましたか?」


不意を突かれた事もあったと思うが、私が話しかけるとマサさん達はとても驚いた様子だった。


「ど、どうして分かったの...?」


「さっき雅志さんが、深刻な顔をして慌てて厨房を出入りしてて、その上運んでいた料理には全く手がつけられていなかったので、料理を運んだけど誰もいなくて、大浴場とか何処を探してもいないから慌てていたのかなと」


マサさん達が目を丸くしている。


「じ、実はそうなんだ...403号室のお客さんが今朝から行方不明みたいで......」


403号室というと、例の犯人の一人である安藤さんか。


私は雅志さんの様子をちらっと観察する。


クールな印象があるが、色々起こって流石に憔悴している感じだ。


「朝食を運ぶ為にチャイムを鳴らしても出なかったらしいんだけど、ドアノブに札もかかっていなかったし鍵も開いていたから、大浴場に行っている間に配膳を済ませておけって事だと思ったみたいなんだ......でも」


その後は雅志さんが引き継いだ。


「大浴場を見ても誰もいないし、他のお客さんの配膳を済ませた後も部屋に戻ってないみたいだったので、もしかしたらって」


確かに今日は一度も安藤さんの姿を見ていない。


「誰か見た人がいないか、私がちょっと聞きに行って来ます...と、その前に、今回宿泊している方達って10人位ですか?」


「うん、そう。ちょうど10人だよ」


マサさんが答えてくれる。

という事は、私がまだ会ってないのは、お姉ちゃんが大浴場で会ったっていう もう一人の女性だけか。


「ありがとうございます。あと例えば、今回一人の人物から予約が入ったとかってありますか?」


「ううん、基本的に全員自分の名前で予約してたし、代金も直接払ってもらったよ。でも確か安藤さんの部屋を予約してたのは...あっ!」


マサさんが何かを思い出したみたいだ。


「そうだ、確か堤さんが先週二人分予約してたんだ。安藤さんと相部屋で。ただ、用事があるから、安藤さんと2日遅れでチェックインするって話だったよ」


なるほどね。


「ありがとうございました。それじゃあ行って来ます!」


「すみません、ちょっと待って下さい」


雅志さんだ。


「俺の方も、今から膳をお下げしないといけないお客さんがいるので、そっちの方は任せて下さい」


「分かりました。じゃあ私達は大広間にいる人達を中心に聞いて回りますね」


「よろしくお願いします。終わったら事務室で落ち合いましょう」


私達は再度大広間へと向かった。

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