遊嬉燕楽
大広間に着くと、既に何人か席に座って食事を始めていた。
私達を見かけた美花さんが
「こちらの席へどうぞ」
と言って席まで案内してくれた。
お風呂のあと廊下ですれ違った老夫婦が、301号と書かれた金属プレートの載ったテーブルの席に座っていた他、ミディアムヘアで真ん中分け、年齢は20台そこそこという感じの少しおどおどしてる男性が303号、軽くパーマをかけたショートヘアで、見た目はアラサーっぽい爽やかな印象の男性が304号のテーブル席で食事をしていた。
元刑事さんが私達に気付き、軽く手を振ってくれたので、私達も手を振り返す。
402号のテーブルに着き、お姉ちゃんと向かい合わせになって座る。
「ごゆっくりどうぞ」
美花さんが一礼して去って行く。
わぁ~、めっちゃ美味しそう!!
並べられた料理を見ながら、思わず涎が垂れそうになる。
海鮮中心の懐石料理という感じで、色とりどりの品々の美しさが、舌より先に私の目を喜ばせた。
さて、じゃあ先ずは...
...やっぱりお刺身にしようかな♪
最初はわさびを入れず、醤油だけつけ、鰤のお刺身を口に運ぶ。
......。
——ハッ!あまりの美味しさに、意識がちょっと飛んでしまった!!
あぁ...!こんな雪深い山奥で、こんなに美味しいお刺身が食べられるなんて、一体誰に予想出来ただろう!
噛めば噛むほど、甘味のある魚の油が私の舌に広がり楽しませてくれるのだ!
あまりの美味しさに感動で目が潤んでしまう...
私は涙が零れないよう上を見上げた。
次はわさびをつけて......
わさびの素晴らしい香りが、否応にも私の期待を膨らませる。
よっ、よーし、食べるぞ~
期待と緊張が入り雑じる刹那、それは起こった。
鼻の奥に走る心地よい刺激、更には醤油とわさびの香りが奏でるハーモニーが、お刺身の美味しさを一層引き立たせ、私を楽園へと誘う。
ああ...なんか海を泳ぐ魚達が見えるようだ。
なんて綺麗な光景なのだろう!
そして景色は変わり、美しい水で育つわさびに何か郷愁を掻き立てられる思いになり、そっと私の目から涙がこぼれ落ちた。
そんな私の姿を見て、お姉ちゃんは嬉しそうにニコニコしている。
「凄く美味しいね、華凛ちゃん!」
「うん!!」
私も思わず笑顔になった。
その後に食べた品も、どれも素晴らしいものだったが、特に天ぷらは凄まじかった!
衣は薄く、それでいてサクサクしていて、つゆにつけて食べても、塩で食べてもめちゃめちゃ美味しい!
こんな美味しい天ぷらを私は生まれて始めて食べた。
山の幸と海の幸が幸せの衣に包まれ、私の舌に幸福を届けに来る......
ああ、そうか...!
これは天ぷらの姿を借りた天使だったのだ!
雲の切れ間から光が差し込み、私の心に一条の光となって差し込む。
そうこれは天使の階......
......って、一体何言ってんだ私は!!
ふぅ~、冷静になろう冷静に。
これじゃあ まるで私が食いしん坊キャラみたいじゃないか!
うん、そうだ、これもきっと全部あの温泉のせいだ!そうに違いない!
...などと頭の中が若干パニックになりつつ、表情は平静を装う。
......そういえば前にもこんな事が...
...そう、あれは多恵さんの料理を食べていた時だ。
今回の料理はあの多恵さんの料理に勝るとも劣らない最高の料理だった。
...多恵さん元気にしてるかな?
食事が終わりに差し掛かり、デザートの和菓子を楽しみつつ、私は余韻に浸っていた。
「全部美味しかったね!
私、特に天ぷらが一番好きだったかも!」
お姉ちゃんもテンションが高い。
やっぱりあの天ぷら良いよね。
「うん、私も!あれは本当に凄かった!
衣ってあんな風につけられるものなんだね...!」
私も素直な感想を述べる。
「私も今度お家で天ぷらやってみようかな。
華凛ちゃんって天丼とか好きだったよね?」
「うん、大好き!楽しみにしてるね!」
ふふふ、家に帰った時の楽しみがまた増えたな。
「そうだ華凛ちゃん、これからどうする...
...って聞くまでもないね」
席を立つ時にお姉ちゃんが聞いてきた。
「あはは、うん!私は今からゲームコーナーでゲームやって来るね。
ちょっと遅くなるかも。お姉ちゃんはどうするの?」
「そうねぇ...
華凛ちゃんのゲームを見せてもらうのも良いけど、時間を置いてから、私はもう一回温泉に入って来ようかな」
「分かった。じゃあ、一回部屋に戻る感じ?」
「うん、そうだね。タオルも取りに行かなくちゃいけないし」
「そっか、じゃあまた後で」
「ええ」
そんな話をしながら廊下に出て、私はゲームコーナーへ向かい、お姉ちゃんは客室へと戻っていった。
よーし!先ずはなんのゲームをやろっかな~♫
ゲームコーナーに着いたが誰もいない。ラッキー!
折角だし色々見て回ろう!
節電の為か画面が消えている筐体が大半だが、どうもスイッチを入れるだけで電源がつくようにしてあるっぽい。
どの筐体がどのゲームかは、写真付きの説明書きがそれぞれの筐体の邪魔にならない部分に貼ってあるので、すぐ分かるようになっている。
ここの責任者の人、ゲーム好きなのかな?
なんか一つ一つにゲーマーのこだわりや愛の様なものを感じる。
大半の画面が消えている中、奥にある、背中合わせになった二つの筐体から、光が漏れている事に気づく。
なんか良く分からないけどワクワクするな〜♪
私はスキップをする様な軽い足取りで、そちらを目指す。
途中通り過ぎ様に、UFOキャッチャーの景品が視界に入った......んっ!?
映像を逆再生する様に、私は後ろに戻りつつ、そのまま すたすたとUFOキャッチャーに近づいた。
こっ、これは......!!!
私の大好きなモン太郎じゃないか!!
モン太郎は私が一番好きなゆるキャラだ。
愛嬌がある姿に凄く癒される。
でもなんで、こんな所にモン太郎が?
誰かその地方の出身の人とかいるんだろうか?
......そんな事より、これは絶対ゲットしないと!
財布から小銭を取り出し投入する。
先ずはアームの強さを見たいから、オーソドックスな とり方で...
......そう言えば中2の頃、小型のドローンを買って、楽しくて色々試して遊んだっけ。
持ち運びしやすい小さなボディなのに、半径30mの範囲を自由に動き回りつつ、アームで7kg位の物までなら普通に運べたりしたから、違う部屋の物を掴んで持って来させたりとか、UFOキャッチャーみたいな遊びもしてた。
操作の仕方とかが違うから全然関係ないかもしれないけど、それ以来UFOキャッチャーの操作自体も正確になった気がするし、景品をとるのにどれだけの手数が掛かるのかを、最初の一回で、場合によっては見ただけで分かるようになった。
よし、重心の位置的にこの辺りか。
ボールチェーンに引っかけても良かったけど、とりあえず初回はこれで行ってみよう。
ガシッ!
ん?
......んん?...まっ、まさか...?
ポトッ
試しにやっただけのなのに、なんと普通に とれてしまった!
えっ...ええ~?良いのかな~?
思わず動揺してしまったが、モン太郎を手に取ると、そんな事は最早どうでも良くなった。
かっ、かわいい~!
胸に抱きながら思わず顔がにやける。
...えへへ......ハッ!!
人の気配がして顔を上げてみると、なんとそこには、ニコニコ顔のお姉ちゃんが立っているではないか!!
私は極力動揺を隠しつつ
「どっ、どっ、どうしたの~、お姉ちゃん~?」
と、声を裏返しながら尋ねた。
あっ、全然隠せて無いわ、これ......
「えっとね、お金足りるかなってちょっと心配だったから、温泉に行くついでに届けに来たよ」
お姉ちゃんは状況を察して楽しそうに微笑みながら、幾らかお金を渡してくれた。
「あっ、ありがと、お姉ちゃん......」
私の顔はさぞ真っ赤だった事だろう。
お姉ちゃんと別れたあと、両替機でお金を崩しておく。
...っていうかこんなものまであるって本当に至れり尽くせりだなぁ。
お目当ての筐体の前に座る。
やっぱり昔の対戦格闘ゲームだった。
私は家庭用のものをプレイしていて、ネット対戦も少しだけやった事がある。
お金を投入してゲームを始める。
どうやら1コインで2クレジットプレイ出来るらしい。
持ちキャラを選んで動きや感覚、スティックやボタンの調子を確かめる。
...なんかレスポンスが早く感じる。
今まで全然気にしてなかったけど、画面と入力の遅延がそれなりにあったんだな。
今プレイしている感覚からすると、私の家のゲーム環境は、若干水中を泳いでいる様な感覚に近い。
それにしても...やっぱ面白いなこのゲーム!
長くコンボが繋がるゲームも好きなんだけど、一撃がそれなりに重くて、差し合い重視のゲームの方がなんか好きだなと思う。
あと、最近の格闘ゲームも好きなんだけど、やっぱり これ位の時期の格闘ゲームの方が、スピード感があって私は好きだ。
私が生まれる前に出たゲームだから、このゲームをこの感覚でプレイ出来ていた人達が、ちょっと羨ましいなと思う。
暫くプレイしていると、誰かがこちらに向かって歩いて来る。
聞こえて来る音から歩幅を察するに男性だと思うんだけど、一瞬一度立ち止まったあと、軽い足どりで来た感じだから、まさか人が、しかも女子高生がいるとは思ってなくて驚きはしたものの、嬉しくてこっちに向かって来たといった所だろうか。
画面から目をそらさないようにしつつ、もしかして話かけて来るかと少し身構えたが、向かい側に座っただけだった...という事はもしかして...?
——やっぱり乱入して来た!
まさか対戦出来るなんて夢にも思ってなかったから、凄くワクワクする。
画面が切り替わり、キャラ選択画面になった。
誰を選ぶのかな?
そんな事を考えるや否や、相手はキャラを決定した。
それは私が使っているキャラと同系統のキャラだった。
いよいよ試合が始まる——
私のキャラがどちらかと言えば攻め主体だとすると、相手のキャラは守り主体なので、多分こちらがやや前に出る展開になるのではと予想していたのだが、お互いに間合いを取り合いつつ様子を伺っている時、思った以上に相手がアグレッシブに距離を詰めて来ている印象が強かった。
そこで相手が間合いを詰めそうな場面でこちらも前に微歩きしつつ、ダウンが取れる通常技を差しに行く...
...案の定コケてくれた。
私のキャラは ここからの起き攻めが強い。
というのも、見え辛い表裏、中下二択、投げなど全てが揃っており、尚且つローリスクハイリターンで、ガードされても攻めを継続出来る状況が多いのである。
ここまでの流れから相手は攻めっ気の強さが伺える。従って、少しリスクを取って本命を狙うより、リスクが全くない選択をした方がこの後の流れが良さそうだ。
やはり、ここは読み勝ち、そのまま再度起き攻めへ。
具体的に統計を取った事はないのだが、こういう初見の相手と対戦する時、もう一度同じ択を選び、そのあと本命をぶつけた方が勝ちやすい気が個人的にしてる。
そこでその様にすると見事にはまり、相手のスタンから最大を取り、そのまま1ラウンド目を先取した。
まあ、ここまでは運が良かっただけだろう。
次のラウンドでは流石に相手も警戒し、そのキャラのセオリー通りの立ち回りに近づいた気がする...
...が、この展開は私の方も望む所で、相手の引きで誘ってからの置き技が増えた分、逆に空振りを誘ってしっかり差し返し、そこからまた起き攻めに行ったりした。
また、飛び道具を出してガードさせたり、狙える訳じゃないけど、相手が差そうとした瞬間に弾を当てたりして、プレッシャーを与えつつ焦れさせる。
そうしている内に、こちらが殆んど飛び道具を出していない状況でも、出すという印象が強く残っている相手は、飛びが多くなってくる。
そこをきっちり落としてダメージを取る。
空中でガード出来ないゲームはこういう所が面白い。
そんな感じで試合の流れをコントロールして2ラウンド目も取り、私が一本先取した。
相手も勿論2クレジットあるので、すぐに乱入され、再びキャラの選択画面が始まり、あっという間に試合が再開される。
今回は流石に相手も少しずつ対応して来て、私もダウンを取られたあと起き攻めされたが、そもそも相手キャラの起き攻めは、私の使っているキャラに比べれば そこまででもないし、単純な中下段の二択では、人間の反応速度の限界を超えた早さでない限り、私にとっては読み合いにすらならない。
ネットで部屋を立てて連戦する時に、こういう流れになって、尚且つ こっちの起き攻めがループし続けたりすると、大抵数戦もしないで部屋を抜けられてしまう事が結構あって、かといって昔のゲームで人がいない為、ランクマッチは過疎っていて全然マッチングしない......
そういう訳で このゲームで対戦した経験があまり無かったのである。
多分相手もこれで......と、思っていたら、全くそんな事はなく、しっかりとこちらの攻めに対応してくる。
動きを見てもなんとなく分かるが、全然心が折れていない。
それに、これはネット対戦だと分からなかった事だけど、スティックを動かしたりボタンを押す雰囲気、また偶に聞こえて来る相手の息づかいや声。
そういったアナログな情報の一つ一つが読み合いに活かされている......そんな感じがさっきからしている。
そっか、昔ゲームセンターでプレイしてた人はこんな気持ちだったのかも。
なんかそんな風に感じて、ゲームを通じた心の対話の面白さにどんどんのめり込んでいく。
それは相手も同じだったのか、自然と10本先取の流れになり、結局10勝3敗で私の勝ちだった。
途中お金を入れようと思ったら、相手が小銭を指で弾いて私にくれた。
音がしたと思ったら、上からいきなりお金が降ってきたのでビックリしたのだが、お礼を言ってありがたく使わせてもらった。
なんというか、もう相手とは昔からの友達の様な感覚になっている。
「いや~、参ったよ!君めちゃめちゃ強いね!」
相手の男性が立ち上がり私の方へ歩いて来る。
年齢は40過ぎという感じで、髪はショートで七三のツーブロック。
紺色の絹の和装で、少し子供っぽい所のある、人の良さそうなおじさんだった。
「僕の名前は蔵田 雅孝、マサって呼んでよ。
この旅館でオーナーをやってる。
まあ、旅館なのにオーナーって言い方もなんか変かもしれないけど」
マサさんが丁寧に自己紹介してくれた。
「私の名前は月代華凛です。
呼び方は特に決まってません。
先程はお金をいただいてありがとうございました」
そう言って私は お辞儀をする。
「ううん、全然気にしないで!
あの状況で華凛ちゃんにお金を使わせるのはなんか違うなって思っただけだからさ。
あと、固苦しいのはやめない?
なんか君とは古くからの友達みたいな感じがしちゃって」
マサさんも同じ気持ちだったのか。
やっぱ格ゲーって良いな。
「ふふ、私も同じです!
......ところで、ここのゲームコーナーって、もしかしてマサさんの趣味だったり......?」
「あっ、やっぱり分かる?そうなんだよ~。
この旅館って料理人の源さん以外は家族で経営しててね。
息子の雅志の方は別に何も言わなかったんだけど、亡くなった嫁と、娘の美花に結構反対されてたんだよね。
だからスイッチとか工夫して電気代はあんまりかからないよってアピールして、漸く許可してもらえたって感じなんだよ。
いやぁ、あの時は大変だったなぁ」
部屋数は少ないけど広いし、サービスも行き届いてるから、従業員の人数もそれなりに多いんじゃないかと思ってたけど、そんな少人数だったんだ。
かなりの手際の良さだな。
「それはそうとさ。このゲーム結構古めだけど、華凛ちゃんプレイした事あったの?」
「ああ、はい。家庭用に移植されたやつですけど。
ただ、あんまりプレイヤーがいなくて対戦はそんなに出来てないんです。
だからこうして筐体で、ゲーム稼働当時の雰囲気を感じながらマサさんと対戦できて、なんだか胸が熱くなっちゃいました!」
マサさんが嬉しそうに微笑む。
「うわぁ、凄く嬉しいな!
......うん、誰かにそんな風に感じてもらいたくて、この場所を作ったのかもな。
僕、当時のゲーセンの雰囲気、結構好きだったからさ」
マサさんの瞳が少し潤む。
「なんかありがとう、華凛ちゃん」
「いえ、私の方こそありがとうございました!」
私は心から笑顔で言った。
「そうだマサさん、あのUFOキャッチャーなんですけど、ちょっとサービス良過ぎませんか?
私は嬉しかったんですけど」
「ははは!やっぱり気づいた?
うん、でもね、折角こんな山奥の旅館まで足を運んでくれて、しかもこのゲームコーナーにも来てくれてるんだから、しっかりサービスして、喜んで帰ってもらいたいじゃん?」
ああ、良い人だな、この人。
「ふふ、ありがとうございます!
お陰で欲しかったものがゲット出来ました!
......そういえば、マサさんってモン太郎の地域のご出身なんですか?」
「ううん、あれは単に僕がモン太郎好きってだけだよ」
「ええ!そうなんですか!?私もなんです!
可愛いですよね、モン太郎!!」
同好の士を見つけて、思わずテンションが上がる。
「おお~!やっぱり華凛ちゃんにも分かるかい!?」
しばしモン太郎の話で盛り上がっていると
ビュゥゥゥゥゥゥ!!
けたたましい音の風が、窓の外を猛烈な雪と共に通り過ぎ、しばし静寂が訪れる。
「雪山夜叉......か」
マサさんがそう口火を切った。
「せっせんやしゃ...ってなんですか?」
聞き慣れない言葉だったので気になって聞いてみた。
「この辺りには怖い伝説があってね......」
吹雪が更に強まり、まるで何かの咆哮の様に聞こえている。
「こんな吹雪が強い日に、雪山夜叉っていう人食いの怪物が何処からともなく突如現れて人を拐うんだって。
でも、食べるだけが目的っていう訳でもなくて、ただ戯れに殺す事もあるらしい。
それで昔、一つの村が滅びたっていう話だよ。
だからね、この音は雪山夜叉の叫び声であると同時に、犠牲者の悲しみの声でもあるんだって。
因みに雪山夜叉はまるで霧の様に消え去り、足跡とかの痕跡すら残さないから、誰にも正体が分からないみたいだよ」
マサさんは窓の方を見やりながら、そう静かに語った。
地方で語られる良くある怪談話の一種だろうなとは思うけど...
...なんだろうな、何か興味を惹かれる。
あと話の内容からすると、もしかしたらウィルスや細菌の類を、夜叉として語り継いでいるとも推察出来る。
「......あっ、ごめん!いきなり変な話しちゃって......」
マサさんが我に返り、申し訳なさそうに慌てて私に謝罪する。
「いえいえ、全然気にしないで下さい!
私、そういう怪談とか伝説とか大好きなので!
凄く興味深かったです!」
これは半分本当だ。
全ての怪奇現象を私は嘘だとは思わないけれど、たとえ本物ではなくても、その背後には重要な新しい真実が隠れていたりする。
それを見つけるのが私は楽しい。
「そっ、そうかい?
...でも、ほんとにごめんね!
......あっ、もうこんな時間か。
ちょっと色々やる事があるから僕はこの辺で。
華凛ちゃんは、まだ暫くここにいる?」
「はい!他にも面白そうなゲームが一杯あるので!」
「ははは、うん面白いよ~!
ここは一応24時間空いてるから、ゆっくり楽しんでね!」
「はい!」
マサさんがゲームコーナーから出て行った。
その後も色々なゲームで遊び、次のゲームを選んでいる途中で、お風呂上がりのお姉ちゃんと合流した。
「あっ、お姉ちゃん!
お風呂また入ってみてどうだった?」
「何回入っても、やっぱり良いものは良いんだなって思った~」
お姉ちゃんが楽しそうに笑う。
「ふふ、良かったね!
...お風呂は空いてた?」
「うん、途中入れ違いで女の人が2人入って来てたけど全然空いてて、相変わらず貸し切りみたいな感じだったよ〜
......それはそうと華凛ちゃん、なんか凄く嬉しそうだね。何かあった?」
「ああ、うん!実は......」
お姉ちゃんにさっきまでの事を話した。
「良かったね、華凛ちゃん!
それにここのオーナーさん、良い人そう」
お姉ちゃんが自分の事の様に喜んでくれる。
「うん、ほんとに。来れて良かった。
改めて ありがとね お姉ちゃん!」
「うふふ、私の方こそ一緒に来てくれてありがとう、華凛ちゃん!
......それにしても雪山夜叉って、有りがちだけど なんか面白いお話だね」
「私もそう思う。
伝説って言う位だし、意外にただの怪談話って訳でもないのかなって」
「うん、そうだね」
お姉ちゃんにも色々思う所があるらしい。
「お姉ちゃんは、これからどうするの?」
「もちろん、ここで華凛ちゃんのゲーム観てるよ!」
「うん、だよね」
ただ観てもらってるだけなのもアレなので、一つのゲームを交代でプレイする事にした。
ここのゲームは、全部1コインで2クレジットプレイ出来るみたいなので、クレジットを全部使い切ったら交代という感じだ。
プレイするゲームは、取りあえず面白そうな横スクロールアクションにした。
うん、想像通り やっぱ面白いし、爽快感もある!
ただ、一応 初見で大分良いところまでは進んだんだけど、結局ゲームオーバーになってしまった。
よし、じゃあ次はお姉ちゃんに......
「わっ、私がやるの?無理だよ~」
「いやいやいや、そんな事ないって!
前に凄いプレイ見せてくれたじゃん!」
あのミステリーツアーの時の衝撃は今でも忘れられない。
「うぅ、あれは まぐれだって~
すぐに死んだらごめんね」
まあ確かにあの時は、偶々お姉ちゃんと波長の合うゲームだったとも考えられる。
そうじゃなきゃあんな神プレイ、流石に中々観れるもんじゃないよね!
———が
「ここって さっき華凛ちゃんが苦戦してた所だよね。
......でもなんとなくこうしたら...
...あっ、やっぱり!上手く出来てるね、このゲーム!」
へっ?
「華凛ちゃん、これってラスボスかな?」
えっ?
「あっ、やっぱり!ED見れて良かったね!」
はっ?
「次はどのゲームにする?」
えぇぇぇぇぇぇぇ!!!
はっ?なに、今の?
本当に私と同じゲームやってんの?
上手過ぎなんだけど!!
...ていうか、絶対やった事あるでしょ!?
いや、お姉ちゃんが一人でゲームやってるとこ見た事ないけど!
くっ~~~!なんか悔しい!
とうとう私のゲーマー魂に火がついた。
「よし、じゃあ次はこのゲームにしようお姉ちゃん!」
さっきの格ゲー...は流石にフェアじゃないから、その近くにあった懐かしい感じの横スクロールシューティングをプレイする事にした。
BGMも雰囲気も私好みだけど......難易度は異様に高い。
それでも3面の中盤まで行ったが、そこでゲームオーバーになり、お姉ちゃんと交代した。
ふぅ~、面白いけど こんなの本当にクリア出来るの?
まあ、これは流石に初見じゃ無理でしょ。
大体お姉ちゃん、シューティングなんて触った事もないだろうし...
......っ!!?
あまりに驚き過ぎて、目玉が飛び出そうになった。
なんかこういうのTAS動画で見た事ある...
...あ~、そうか!
お姉ちゃんはきっとそういう能力もあって、私が知らない内に時間を巻き戻したり、コマ送りにしたりしてるんだな、うん!
.....って、そんな訳ないよね...
ショックは大きいけど、同時に目の前で繰り広げられる超絶プレイに、尊敬の念が込み上げてくる。
うっわ、すっご!!
このゲームって、こんな弾の避け方出来るんだ!
お姉ちゃんのプレイに魅せられている内に、あっという間に軽くEDが流れ、2周目が始まる。
「えっ、終わったと思ったんだけど最初に戻っちゃったよ?」
お姉ちゃんがちょっと慌てる。
「ああ、うん、こういうゲームって難易度が上がりつつ何回も周回する様になってるから、スコアアタックがしたいとかじゃないなら、止めたい時に適当に止めると良いよ」
「そうなんだ。
...あっ、でももう10時過ぎだし、部屋に戻ろっか」
えっ、もうそんな時間だったのか。
「そうだね。それにしてもお姉ちゃん凄いね!
私、一ゲーマーとしてお姉ちゃんのこと尊敬するわ」
素直に気持ちを伝える。
「えっ、そう?ふふ、ありがとう!
また一緒にゲームしようね!」
お姉ちゃんが嬉しそうに微笑む。
「うん!」
私達はゲームコーナーを後にし、部屋へと戻った。
リビングにあった時計で時刻を確認すると、10時5分を回っていた。私のスマホでも確認したが時間にズレはない。
私もお姉ちゃんも疲れていたのか、部屋に帰り、リビングでちょっと話をしていたら眠たくなってきたので、そのまま洋室のベッドに入って眠る態勢に入る。
「おやすみなさい、華凛ちゃん」
「おやすみ、お姉ちゃん」
寝る前にスマホのタイマーをセットしておく。
山奥だからかアンテナはギリギリという感じだけど、旅館のWi-Fiもあるし、まあ問題ないだろう。
今日あった事が色々頭を駆け巡る。
明日も楽しい1日になると良いな。
そんな事を考えながら、私は心地良い眠りに落ちて行った。




