三女ちゃんに名前を付けました。
仕方が無く、二つあるケーキをそれぞれ半分にして、四人で食べることになった。
まあ、疲れた時は甘い物が欲しくなると聞いた記憶があるからね。
今回は許してあげよう。
最初、二つをどうやって三人で分けようか考えていたけど、ヴェロニカお母さんが「皆で食べた方が美味しいわよ」と言うので、わたしも食べることにした。
王妃様のケーキ、やっぱり美味しそうだもんね。
ケーキのカットとお茶の用意は妖精メイドのサクラちゃん達がしてくれた。
ありがとう!
「甘くて美味しいわね」「本当に」などと四人でにこやかに話していると、ケルちゃんが何やら不満そうに近寄ってきた。
あ、ケルちゃんのご飯忘れてた。
わたしのご飯も。
「ゴメンゴメン!
すぐに準備するから!」
と三首を順に撫でると、機嫌を直した。
ヴェロニカお母さんが目を丸くして訊ねてくる。
「この犬、首が三つもあるわね」
「うん、ケルちゃんっていうの。
こっちの首がセンちゃんで、この子がライちゃん、こっちがレフちゃん」
そう説明すると、ヴェロニカお母さんがちらりとこちらを見る。
「触っても大丈夫?」
「大丈夫。
ね、ケルちゃん」
わたしの問いに、三首とも元気にガウ! と返事をした。
ヴェロニカお母さんはにこやかにケルちゃんの前に膝を突くと、センちゃん、レフちゃん、ライちゃんを丁寧に撫でながら「よろしくね」と挨拶をしていた。
皆、嬉しそうにガウ! と返してる。
ひょっとして、ヴェロニカお母さんは犬好きなのかもしれない。
その後、妖精姫ちゃん達も紹介した。
やはり、妖精ちゃん達の言葉は聞こえないみたいだけど、ヴェロニカお母さんは皆に丁寧に挨拶をしている。
わたしはその間、ケルちゃんと自分のご飯を作り始めた。
ケルちゃん用のお肉をキッチンで焼いていると、入り口からシャーロットちゃんが覗きにきた。
ん?
どうしたの?
何でもない?
引っ込んでしまった。
なんだろう?
ケルちゃんとわたしがご飯を食べた後、早いけど、歯磨きをして就寝することになった。
歯磨き――と言っても、皆の歯ブラシが無い。
ヴェロニカお母さんにどういう物を使っていたのか確認すると、馬の毛を使った歯ブラシを使っていたとのこと。
化学製品がないのだから、基本、動物の毛を使うことになるよね。
ちなみに、わたしの歯ブラシはママの毛を使用している。
ママの毛は布団の中にあるから、皆の分も後日作ることにして、取りあえず代用として小さな棒に布を付けて行った。
まあ、やっぱりというか、皆自分で歯磨きなどしたことがないようなので、わたしがする事になった。
地味に大変だった。
親子は全員、ゴロゴロルームで寝ることになった。
その方が、安心だろうしね。
わたしは自分のベッドに潜り込む。
今日は結構色々あって疲れた。
ゆっくり寝よっと。
……。
……。
……ん?
何やら泣き声が聞こえてきて目が覚めた。
なんだ?
どうした?
むくりと起き上がると、妖精ちゃんの誰かだろう微かな光がこちらに近寄ってくるのが見えた。
妖精メイドのサクラちゃんだった。
何やら、一生懸命言っている。
ん~?
眠い目をこすりながらベッドから出ると、妖精メイドのサクラちゃんの後に続く。
ゴロゴロルームに入ると、ヴェロニカお母さんが赤ちゃんを抱き上げながら、「どうしたの? ん?」などとニコニコと話しかけている。
だけど、よく分からないけど、赤ちゃんはけたたましく泣き続けていた。
これは……夜泣きというやつでは無いかな?
いや、単におむつが汚れたとか、そういうのもあるのかな?
悪臭はしないから、おむつの件は無いか。
ヴェロニカお母さんの隣でオロオロしているイメルダちゃんとシャーロットちゃんら姉妹の肩を叩くと、どいて貰い、赤ちゃんの様子を眺める。
「お腹が空いてるんじゃ無いかな?」
とヴェロニカお母さんに言う。
合点がいったようにヴェロニカお母さんは微笑みながら頷く。
……。
……。
……あ、わたしが用意しないと駄目なのね。
白いモクモクでお湯を沸かす。
タオルは……妖精メイドのサクラちゃんが持ってきてくれた。
ありがとう!
ん?
姉妹がこちらを心配そうに見ているのに気づいた。
「二人はわたしの寝台で寝て」
「え?
でも……」
「そうさせて貰いなさい」
ヴェロニカお母さんもそう言うも、お姉ちゃんなイメルダちゃんは躊躇するようにヴェロニカお母さんとわたしを交互に見る。
わたしははっきりと言う。
「寝不足で体調を崩す方が問題だから。
こんな森の中だとお医者様も中々連れてこられないよ」
イメルダちゃんは何か言いたげに口を開いたが、賢い女の子だからだろう、それを飲み込み「分かりました。よろしくお願いします」と頭を下げた。
そして、眠たそうに目をとろけさせているシャーロットちゃんの手を取ると、わたしのベッドの方に向かっていく。
妖精メイドのサクラちゃんが明かり代わりに輝きながらついて行ってあげている。
ヴェロニカお母さんに視線を戻すと、疲れた顔をしたお母さんがいた。
わたしと視線が合うと苦笑する。
「普段は乳母が面倒を見てくれていたから、よく分からなくって……」
自分の乳を今まで上げたことが無いと教えてくれた。
貴族の人ってそんな感じなのかな?
ヴェロニカお母さんが一生懸命、自分の胸を出そうとしているのを手伝う。
なんとか出した右胸をお湯で温めたタオルで拭く。
それが終わると、ヴェロニカお母さんが赤ちゃんを抱き上げるのを手伝ってあげる。
よし!
何とか、飲み始めた。
一生懸命、ちっちゃいお口で飲んでいる姿は可愛かった。
思わず笑みが浮かんでくる。
しかし、だ……。
「一番小さい妹ちゃんにも、早く名前を付けてあげたら?」
「……」
ごく常識的なことを言ったつもりだけど、ヴェロニカお母さんは少し考え込んだ。
そして、わたしにニッコリ微笑む。
「サリーちゃんが考えてくれる?」
「え?
わたし?」
「だって、ここはサリーちゃんの国なんでしょう?
一番偉い人に名付けて欲しいわ」
「ふむ……」
もう十分なのか、口を離した赤ちゃんを、こちらに引き寄せる。
確か、ゲップをさせてあげないといけないって事を思い出し、ヴェロニカお母さんに説明をしつつ、その小さい背中を手のひらでトントンとした。
小っちゃく出たそれがなんだか可愛らしくて、ヴェロニカお母さんと顔を見合わせて静かに笑った。
「名前、わたしが決めて良いの?」
「ええ、お願いするわ」
「だったら……エリザベスってのはどう?」
前世の記憶でふと思い出した名前がそれだったから言ってみたのだが、ヴェロニカお母さんも気に入ってくれたみたいで、ニッコリと微笑みながら頷いてくれた。
そして、赤ちゃん――エリザベスちゃんを抱き寄せながら「あなたの名前はエリザベスよ。良い名を頂いて良かったわね」と頬ずりをした。




