エピローグ
精霊の巫女達の生命力を吸い取りながら、豊穣の神を名乗り、国の豊穣をつかさどって来た邪神メルディアーナ。
この国の皇帝アレギウスは、息子レティストを呼び出す。
「お前から皇位をはく奪し、平民へ落とす。お前のやった事は国に対する裏切りだ。」
「解っております。」
その時、英雄ディストールが一人の青年を伴って現れた。
その青年は銀の髪を足元まで垂らして、凄い美男である。長いローブを纏っていた。
ディストールは皇帝アレギウスに向かって叫ぶ。
「この帝国は、精霊王との契約を選ばずに、邪神との契約を選んだのは何故か?答えて貰おう。アレギウス。」
共に現れた精霊王グリフィストは、皇帝アレギウスに向かって、
「久しぶりだな。アレギウス。其方は私との契約を選ばなかった。それは何故か?
邪神との契約を選んだのは、欲に目がくらんだからではないのか?」
皇帝アレギウスはギリギリと歯ぎしりする。
グリフィストは冷たい目で睨みつけながら、
「何を得た?邪神から何か得たはずだ。10人の乙女達の生贄と引き換えに、豊穣だけではない何かを。答えよ。アレギウス。」
レティストは叫ぶ。
「何を得たのですか?父上。」
すると狂ったように皇帝アレギウスは笑い出した。
「金銀財宝。良いではないか。国を治めるには金がかかる。邪神は金銀財宝を与えてくれた。
10人の女達の生命力と引き換えなら安い物だ。ハハハハハハハ。」
レティストは怒り狂って、皇帝アレギウスに殴り掛かった。
背後から皇家の影に羽交い絞めにされて止められてしまう。
「離せっ。アリスティーヌ達はこの男にっ。」
英雄ディストールはニヤリと笑って、
「だったら新たなる契約を結ぶのはどうだ?
祈って貰おう。皇帝アレギウスと神官どもに。神官達も上手い汁を吸っているだろう。」
精霊王グリフィストも頷いて。
「それはいい。10年経ったら、解放してやろう。10年間、豊穣の巫女と同じように、祈るがいい。」
精霊王が手を振れば、羽の生えた鎧を着た戦士が2名、空間から現れて、皇帝アレギウスを拘束する。
「何をするっーー。私は嫌だっーー。影ども。騎士達、何とかしろーー。」
しかし、影も騎士達も動くことが出来ないのだ。
あっという間に皇帝アレギウスは連れ去られた。
英雄ディストールはレティストに向かって、
「悪事を働いていたようだな。皇帝は。それを帝国に広めれば、レティストが邪神を倒した事を悪くは言われないだろう。」
精霊王グリフィストも、
「新たなる契約を私と結ぼう。皇太子レティスト。
まぁ、あの連中の祈りが無くても、年に一度、精霊に感謝をする式典を行ってくれれば、私達精霊は豊穣を約束しよう。」
レティストは頭を下げる。
「有難うございます。新たなる契約。よろしくお願いします。
お二人のお陰で国は救われました。感謝いたします。」
そして、思った。
アリスティーヌはどうなった?
彼女はどこにいるんだ?
「アリスティーヌを見つけたいのか?」
ディストールの言葉にレティストは頷く。
「勿論。私の伴侶はアリスティーヌしかおりません。」
精霊王グリフィストが優しい眼差しでレティストを見つめて、
「それならば、念じるがよい。彼女の元へ運んでやろう。」
アリスティーヌは粗末なベッドで寝ていた。
古びた教会に拾われて、その一室で死を待つだけの生活。
かろうじて食事はありつけるが、硬い黒パンとスープだけで。
身体は弱って、起き上がる事も出来ない。
裏切られてしまった…皇太子殿下に。もうわたくしは生きていても仕方がないのだわ。
でも…最後にもう一度、あの方の顔を見たい。お会いしたい…
わたくしは、裏切られても、あの方が好きなのだから…
その時、扉が開いて、レティストが飛び込んで来た。
レティストは走り寄ってベッドの上のアリスティーヌを引き寄せて抱き締める。
「こんなにやつれてしまって。アリスティーヌっ。アリスティーヌ。この間はすまなかった。魂を操られていたのだ。さぁ、私と共に皇宮へ行こう。身体をゆっくりと治そう。
愛している。愛している…私の妃は君だけだ。」
アリスティーヌはまっすぐにレティストを見つめて。
「あああ・・・嬉しい。こんなわたくしでもよいのですか?わたくしもずっと貴方様の事を忘れた事はありません。どうか…わたくしを…こんなやつれてしまったわたくしでよければお連れ下さいませ。愛しています。レティスト様。」
「アリスティーヌ。愛している。」
ああ…嬉しい…レティスト様が迎えに来てくれた。
なんて幸せな…
わたくしは今日と言う日を忘れないわ…
レティストは皇帝に即位し、アリスティーヌは皇妃になった。
身体を治すには時間がかかったが、巫女だった他の9人も探し出して、皆の身体を精霊王に頼んで治して貰ったため、彼女らを含めてアリスティーヌ達は長生きした。
晩年のとある日、庭を遊び回る孫達を見つめながら、皇帝レティストと皇妃アリスティーヌは、穏やかな春を楽しむ。
「こうして、子供や孫に囲まれて、愛しい人と幸せな人生が送れるとは思いもしなかったわ。」
「私もだ…アリスティーヌ。永遠に君だけを愛しているよ。」
「わたくしも愛していますわ。レティスト様。」
春の花が満開の季節…
二人は手を繋いでその様子を眺め、幸せを満喫するのであった。