邪神メルディアーナ…今こそ正義の刃を振るう時。
皇太子レティストは魂を縛り付けられていた。
自由が利かない。ああ…思ってもみない言葉を紡いでしまう。
婚約者の伯爵令嬢を名乗るメルディアーナ・マクドトルは、口端を歪めて笑う。
「レティスト様。早く結婚式を挙げましょう。わたくしを皇太子妃にしてくださいませ。」
魂がぎゅうっと締め付けられる。
でも、これだけは頷く訳にはいかない。
黙りこくっていると、メルディアーナは、邪悪な笑みを浮かべて、
「しぶとい男ね…でも、皇帝陛下もわたくしと貴方の結婚を認めてくれているわ。
アハハハハハ。巫女達は逃げだしたようだけど、代わりの生贄を探せばいい事。
わたくしは生贄から力を得て、更に美しさに磨きをかけるわ。
この国の皇帝が、邪神であるわたくしと契約を結んだのよ。
13年前、この国の豊穣を約束したわ。10年ごとに10人の巫女という生贄と引き換えにね。
オホホホホホホ。さぁ頷きなさい。わたくしと結婚して。レティスト。」
待っていると約束したのだ。
あんなに痩せこけてしまって…
愛しのアリスティーヌ。
君と過ごした日々はなんて輝いていた事か…
真面目で、優しくて…そして美しいアリスティーヌ。
君はどうしているだろう…
私は君の事が心配だ。そしてこの国の行く末が…
このような邪神にいいようにされて良いのだろうか?
罪もない女性達の生贄からなる豊穣…そのような物を望んではいけない…
今ならそう思える…
巫女は身体が弱って、不妊になるだけでなく、長く生きられない事を知っているか?
例え、不作で何千人の人が死のうとも、君の命程、大切な物はないよ。
- そう思うのなら、この邪神を始末してよいのだな? -
心の中に力強い声が響く。
レティストは叫ぶ。
ああっ…この邪神を始末してくれっ。
- 君は国の民に非難されるかもしれない。いかに邪神とはいえ、豊穣の力もあるのだ。それでもかまわないか?-
構わない。私が一番大事なのはアリスティーヌだっ。
その時、空間が歪んで黒髪の一人の男が現れた。
黒い剣を持ち、伯爵令嬢だった者に、今や正体を現した邪神に向かって剣を振るう。
「おのれ。英雄ディストールっ。わらわの野望を邪魔するか。」
「邪神メルディアーナ覚悟しろ。」
レティストの目の前で、黒の剣が邪神メルディアーナの胸を刺し貫く。
「ぎゃああああああああああーーーーーーーー」
邪神がもがき苦しみだした。
「おのれーーーおのれっーーー」
そう叫ぶとかき消すように姿を消す。
一気に魂が身体が自由になるレティスト。
黒騎士姿のディストールはレティストに向かって、
「神殿にある黒い水晶を破壊して欲しい。だが、その水晶を破壊する事で、君は国民の反感を買うかもしれない。この帝国の皇帝になれないだろう。その覚悟はあるのか?」
「勿論。皇帝の位より私が大事なのは、アリスティーヌだっ。」
レティストは騎士団を率いて、ディストールと共に神殿へ向かった。
神殿では巫女達が逃げ出したので、大騒ぎになっていたのである。
神官長がレティストに向かって、
「皇太子殿下。巫女が逃げてしまったのです。探してはいるのですが、急遽、巫女候補達を呼び寄せて、補充しようかと。」
「必要はない。祈りの間へ案内しろ。」
祈りの間では禍々しい光を放った黒い巨大な水晶が置いてあって。
ディストールが剣を差し出し、
「この国の皇族でないと、この水晶は破壊できない。皇帝と邪神の契約により、この水晶は作られたものだからな。」
「解った。我が皇太子レティストの名において、邪神メルディアーナとの契約を破棄する。」
そう叫ぶと黒水晶に向かって、剣を振るった。
パキっと水晶はヒビが入り、パリンと粉々に砕ける。
ギャアアアアアアアアーーーーーーーー
神殿から黒い光が天に立ち上り、
人々が何事かと空を見上げ、国民は神殿から豊穣の神が去った事を悟ったのであった。




